2020年5月20日

アシックス
CFRTP成型技術で世界的評価

産学連携でシューズを具現化

アシックス(廣田康人社長)がスパイクピンのない陸上スプリントシューズ「メタスプリント」に採用している、CFRTP(炭素繊維強化熱可塑性樹脂)を用いた複雑な立体形状を実現する成型技術が、世界最大規模の複合材料展示会「JECワールド2020」の「スポーツ&ヘルスケア」部門で「ザ・JECコンポジッツ・イノベーションアワード」を受賞した。

「JECワールド」は、世界の複合材料産業の発展を目的に1970年から毎年開催されており、出展企業は自動車、航空宇宙、建築業界をはじめ医療、セキュリティ電子、産業機器物流、輸送業界など多岐にわたる。ザ・JECコンポジッツ・イノベーションアワードは96年に設立されたもので、技術の革新性や商業的応用可能性などを基準に評価が行われる。11の部門があり、各部門で3社のファイナリストが事前にノミネートされた後、複合材料業界全体を代表する国際審査員を含むメンバーによる約1カ月間の審議を経て、各部門の大賞が決定する。

同アワードを受賞したCFRTPを用いた成型技術は、カーボン繊維強化複合材料を用いた複雑な立体形状を短時間で安定的に製造する手法で、カーボン繊維強化複合材料の新たな可能性を切り開く革新的な技術。アシックスはこの技術を産学連携によって実現するとともに、強みであるパラメトリックデザインや有限要素解析法といったデジタル技術を用いたソール設計および製品の性能評価・機能検証と組み合せることで、スパイクピンのない陸上スプリントシューズを具現化した。

この手法を用いて製造した陸上スプリントシューズのソールは、スパイクピンがトラックに刺さる・抜ける時間を短縮し、スプリンターの一歩ごとのエネルギーロスを減らしながら、推進力を高める。アシックススポーツ工学研究所による実験では、同社陸上短距離用スパイクシューズと比較して平均1秒当たり6・7㌢前に進めることが認められている。これは、100㍍換算で0・048秒優位に走行できることに相当(アシックススポーツ工学研究所での実験、換算)する。

今回の受賞を受け、アシックス執行役員兼アシックススポーツ工学研究所所長の原野健一氏は「CFRTP複合材料は、軽量で強じんな特性を有することからさまざまな業界で研究されている。この度は、このような名誉ある賞をスポーツ業界で受賞でき大変うれしく思う。本技術の実用化に向けては多くの課題があったが、産学・異分野連携を進めることで克服に成功した。

本技術はCFRTP複合材料を用いた製品開発の可能性を広げただけでなく、成型時に生じる端材を再利用することも技術的に可能であるため、環境に配慮した製造も実現できうると考えている」と、コメントしている。

【受賞概要】
▽受賞対象者=アシックス、パートナー・サンコロナ小田(炭素繊維複合素材・成型技術の開発)、ナガセケムテックス(樹脂の開発・製造)、金沢工業大学革新複合材料研究開発センター(CFRTP技術の基礎検証と助言)

なお、JECワールド2020は今年3月にフランス・パリで開催される予定であったが、新型コロナウイルス感染症の影響により、来年3月に延期となった。ザ・JECコンポジッツ・イノベーションアワードに関しては、5月13日にオンラインにて各部門の授賞式が行われた。