2020年10月15日

日本触媒
効率的な重合技術を開発

バイオマス由来の難重合性モノマーの重合において

日本触媒(五嶋祐治朗社長)と理化学研究所(松本紘理事長、以下、理研)環境資源科学研究センターバイオプラスチック研究チーム(阿部英喜チームリーダー、竹中康将研究員)による共同研究チームは、バイオマス由来の難重合性モノマーの重合において、効率的に高分子量化できる重合システムを開発し、高性能なポリマーを得ることに成功した。

バイオマス資源からは、不飽和炭素―炭素二重結合を有する脂肪族化合物や芳香族化合物が数多く得られる。ケイ皮酸モノマーは、非可食バイオマスであるリグニンの分解生成物として知られるリグニン誘導体に含まれる化合物で、クロトン酸モノマーは、生物が合成を行うバイオ生産によって得られる3―ヒドロキシブタン酸(3HB)や、ポリ3―ヒドロキシブタン酸(P3HB)の熱分解生成物として入手することが可能。これらのモノマーは、β位に置換基を有するα,β―不飽和カルボン酸化合物(β置換アクリレート)に分類することができ、重合して得られるポリマーはモノマー単位当たり2つの光学中心を有し、高度に立体規則性を制御することができることから、バイオマス由来の高性能・高機能な新規樹脂素材の創出が期待される。

しかしながらβ置換アクリレートは、β位置換基の立体的、電子的要因によって通常のラジカル重合法では高分子量化が困難な難重合性モノマーの一つとして存在。数少ない重合例においては、工業的には実現困難な反応条件を必要とするなど、実生産においては多くの課題も存在した。そこで日本触媒と理研の共同研究チームは、β置換アクリレートの重合に対して、モノマーを活性化させることで重合を進める点が特徴的である有機酸触媒を用いたグループトランスファー重合(GTP)技術が適用可能であることを発見。技術開発を進めるとともに、重合メカニズムを解明することにより、高分子量化を阻んでいた要因を特定し、重合を効率化するための知見を見いだした。用いる有機酸触媒や開始剤の置換基構造を検討して重合条件を最適化することにより、温和な条件下で効率的に高分子量化を実現する重合技術の開発に成功した。

得られたケイ皮酸系ポリマーは、エンジニアリングプラスチックとして知られるポリカーボネートと同じレベルか、それ以上の耐熱性を示すとともに、多くの薬剤への耐薬品性を発揮。機械的性質については、高強度な材料への展開が期待できる。クロトン酸系ポリマーは、有機ガラスとして知られるポリメチルメタクリレート(PMMA)に匹敵する透明性を持ちながら、メタクリレートポリマーに比較して高い耐熱性および耐薬品性を保有。これらの特長は、高度に制御された立体規則性によって発現する液晶性に起因するものと考えられている。

今後、生産技術の確立を進めるとともに、ポリマー用途開発を加速させていく。