2020年12月5日

東ソー
CO2の炭素資源技術

ポリウレタンの原料等合成

東ソー(山本寿宣社長)は、産業技術総合研究所(石村和彦理事長、以下、産総研)触媒化学融合研究センター(佐藤一彦研究センター長)ヘテロ原子化学チームの深谷訓久研究チーム長、プトラ・ワハユ研究員、触媒固定化設計チームの崔準哲研究チーム長らとともに、CO2とケイ素化合物を原料として、ポリカーボネートやポリウレタンの原料となる「ジエチルカーボネート」を効率的に合成する触媒技術を開発した。

今回、CO2とケイ素化合物である「テトラエトキシシラン」を原料としてジエチルカーボネートを合成する新たな触媒反応で、この反応は水を副生しないことから、触媒が長寿命化し、高い反応効率を実現することに成功した。この技術の実用化によって、CO2を炭素資源として再利用するカーボンリサイクル社会への貢献が期待できる。

化石燃料の利用に伴うCO2排出を大幅に削減していく最も効果的な方法としては、CO2を炭素資源として回収・再利用し、さまざまな有用製品として活用する「カーボンリサイクル」に向けた技術開発が重要。昨年6月7日に、資源エネルギー庁で取りまとめられた「カーボンリサイクル技術ロードマップ」では、CO2の化学品への利用例として、ウレタンやポリカーボネートといった「含酸素化合物(酸素原子を含む化合物)」を想定。CO2からポリカーボネートやポリウレタンの原料となる含酸素化合物を合成する技術としては、CO2とアルコールを原料とする反応の検討が報告されているが、目的物の生成効率や反応に用いる触媒の寿命に課題があるため、実用化に向けては製造プロセスの低コスト化が実現できる技術の開発が待たれていた。

東ソーと産総研は、CO2を原料として有用化学品を製造する目的から、CO2と組み合わせて反応させる原料に低コスト・低環境負荷・再生可能な物質を活用するとともに、高効率な合成を実現する触媒開発を目指した共同研究への取り組みを推進。産総研はこの共同研究とは別に、砂や灰などの安価で豊富なケイ素資源(SiO2)からテトラアルコキシシランを高効率で直接合成する方法を開発した。そして今回、テトラアルコキシシランをCO2と組み合わせ、ポリカーボネートやポリウレタンの原料となる有用化学品のジエチルカーボネートを高効率に合成する技術の開発に取り組んだ。

ジエチルカーボネートは、ポリカーボネートやポリウレタンの原料のほか、リチウムイオン電池の電解液、塗料や接着剤用の溶媒として幅広く活用されている有用化学品で、その工業的製造法は、化石資源から誘導したホスゲン(COCl2)が原料。これまで、炭素資源として再生可能資源であるCO2と、エタノールを原料として、ジエチルカーボネートを合成する反応の研究開発は広く行われてきたが、CO2とエタノールとの反応では、目的物であるジエチルカーボネートと同時に水が副生される。生成したジエチルカーボネートと水が反応して原料に戻ってしまう逆反応が進行するほか、反応系中の触媒が加水分解され、活性が失われてしまうなどといった問題が生じ、高効率合成は困難であった。

今回、新たに開発した技術では、ジエチルカーボネートを合成する際にCO2と組み合わせる原料としてエタノールではなく、水を副生しないテトラアルコキシシランの一種であるテトラエトキシシラン(Si(OEt)4、TEOS)を用いる方法を考案、この反応に有効な触媒を見いだして、製造プロセスの低コスト化を実現しうる合成方法を引き出した。

今後は、より低コストで省エネルギーな製造方法の確立を目指し反応条件や触媒の改良を行う。スケールアップの検討など、実用化に向けて必要な技術課題の解決を産総研と東ソーが共同で取り組み、2030年ごろまでの実用化を目指す。