2020年1月10日

アキレス
インタビュー

“輝きを放つ”製品打ち出す  
“モノ”から”コト”の提案にも視野

アキレス 伊藤 守社長

【昨年を振り返って】
 2020年3月期第2四半期の業績については、残念ながら減収減益で折り返した。通期での巻き返しを期して年度後半へのスタートを切ったものの、現状では厳しい市場環境がなお継続しているというのが率直な印象だ。当社が事業を展開するシューズ、プラスチック、産業資材の3部門では、これまでいずれかのセグメントが厳しくても、好調な部門がカバーすることでトータルでは利益を確保できる事業構造であった。しかしながら、昨年から3部門ともに足踏み状態が続いており、以前に比べて計画通りの利益を出すことが難しくなっている。

 シューズ事業においては、台風などの天候要因で消費が低迷したこともあるが、ネット販売の拡大によって流通のあり方が大きく変わりつつあり、量販店や専門店が転換期に立たされていることで、当社の販売にも大きな影を落としている。多くの小売業が〝売り場の改革〟を進めており、当社が共感している方向性は、たとえコンパクトな売り場であっても商品力の高い製品を取り扱い、生き残りをかけた売り場づくりを目指していること。当社としては商品力にさらに磨きをかけ、〝輝きを放つ〟製品を打ち出していくことで消費者の心をつかむしか現状を打ち破る手はないと考えている。前期で投入した「ニコ☆プチスクール」や「エスエルバイシュンソク」といったジュニア向けの新しい商材は、主力の「瞬足」が海外ブランドの台頭などで苦戦が続く中、顧客ニーズをうまく取り入れた新鮮味のある商品として店頭での販売が伸びている。シューズ事業の中核である子ども靴では、当社が靴づくりの根幹として掲げる「足育設計思想(足の機能を育て、正しい歩行を促す)」の下、潜在的なニーズを見いだすために目を凝らしながら、本質的な機能面の強化にさらに力を入れている。

【〝シューズの復活〟に向けて注力する商品と取り組みは】
 少子化が進む中、大人向けの商材をいかにフォローしていくかは継続的な課題となっており、履きやすく、健康に貢献し、歩くことが楽しくなるような靴を提案していきたい。衝撃吸収材「ソルボセイン」の搭載で足への負担を和らげ、快適な歩きやすさを提供する「アキレス・ソルボ」では、ダイレクトインジェクション製法におけるソールのPU素材の配合を変え、各人各様の歩き方に対応する特性を引き出していく。店頭での取り組みとしては、直営店の横浜元町店・吉祥寺店において、専用機器による足型計測・足圧計測を実施してお客様の足に最適な靴を提案するイベントを開催している。また、JR巣鴨駅構内に期間限定のポップアップショップも開設した。一度履いてもらえば、この靴の良さを実感して頂ける自信があり、今後も集客力のある場所でこういった店舗の展開を検討している。

【スポーツシューズ分野での展開は】
 昨年、伊藤忠商事と米国ランニングシューズブランド「ブルックス」の日本国内におけるシューズ総販売代理店契約を締結しており、2020年春夏商品から本格的な販売を開始する。当社では独自の素材を搭載し、ランニング障害の軽減をサポートする「メディフォーム」でランニングシューズ市場への参入を果たしており、ランナーが抱える課題を素材が発現する機能で解決する姿勢は相通じるものがある。今後の展開としては、「ブルックス」のネームバリューを生かしながら、「メディフォーム」との相乗効果を生み出していきたい。自社ブランドとそれぞれの良さをアピールしながら、ランニング市場で二本柱での拡大を図る。

【プラスチック事業と産業資材について】
 車輌内装用資材は、自動車メーカーの減産の影響で北米向けが伸び悩んでいる。ただ、既存ユーザーに加えて新規取引先では新車種における採用を獲得しており、来期以降の供給開始ではあるものの、今後の回復に向けては明るい材料がそろっている。フィルム製品の半導体関係は復調が進んでおり、また、北米向けの医療用途での付加価値製品の供給スタートが売り上げの立役者となっている。今春以降、さらに本格的に量が増えていくと期待をかけている。寝具に使われているウレタン素材も堅調な伸びを継続しており、近年の質の良い睡眠に対するニーズを背景に、素材がもたらす温度調節機能による快適性がお客様に大変好評を得ている。

【新開発の素材について】
 反発弾性と衝撃吸収性を併せ持つPU素材「メディフォーム」で培った技術を応用し、さらに反発弾性に特化した新素材「アクロフォーム」を開発した。一般的なPU素材との比較では反発弾性を約1・6~2倍まで高めており、現存するPU素材としてはトップクラスの反発力を有すると自負している。反発弾性と硬度を一定範囲内で調整可能で、スポーツシューズだけではなく幅広い分野での展開を視野に置いている。搭載製品の第1弾は、工場や店舗における立ち作業の疲労軽減を目的とした業務用マットで、今春の発売を予定している。シューズでは大人向けの商材にも展開していくが、子ども向けでは小学生高学年をターゲットに、よりアクティブな動きを支える靴としての商品開発を考えている。

【新たな取り組みについて】
 昨年12月に開業した商業施設・渋谷東急プラザにおいて、一般消費者向け商品の魅力を発信する「アキレス ライフスタイルストア」をオープンした。当社の幅広い製品群の中からシューズ、寝具、壁紙といった一般消費者向けの商品をピックアップし、お客様により楽しく快適な暮らしを提案することを目的としている。シューズ以外のカテゴリーを集めて訴求するショップは初の試みであり、現状では当社の〝顔〟であるシューズ製品が前面に打ち出されているが、今後は商品レイアウトにさらに工夫を加えながら、当社のブランドイメージの向上につなげていきたい。

【今年の抱負を】
 昨年は台風など自然の猛威を再認識したが、水害をはじめ、あらゆる災害の避難・救助に貢献できる事業を改めて見直していきたい。当社ではボートやテント、マットレスなど有事に役立つ多くの製品を手掛けており、取り組みを進めている社会的課題解決の一環として、危機管理にトータルで貢献できる企業を目指していく。

 昨年6月、3週間にわたって当社の高速レスキューボート(ARD730)の試乗会を開催した。官公庁など各方面からの関係者を招いて性能を体験してもらった。搭乗した方からはボートの性能面はもとより「とても有意義だった」とのうれしい言葉をかけて頂いた。今年は多岐にわたる商材の中で、〝モノ〟から〝コト〟の提案にも視野を広げていきたい。