2020年7月15日

島津製作所
細菌・ウイルスリスク低減に期待

ハイブリッド複合加工機を開発

島津製作所(上田輝久社長)は、大阪大学(西尾章治郎総長)、ヤマザキマザック(山崎高嗣社長)と共同で、高輝度青色半導体レーザーを活用し、銅を高速・精密にコーティングできるハイブリッド複合加工機を開発した。新エネルギー・産業技術総合開発機構(石塚博昭理事長、以下、NEDO)が取り組んでいる、高輝度青色半導体レーザーおよび加工技術の成果を活用したもので、加工機は、200㍗高輝度青色半導体レーザーを3台装着した600㍗級マルチビーム加工ヘッドを搭載。レーザー集光スポットにおける高いパワー密度を達成し、ステンレスやアルミニウムなどの金属材料への銅のコーティング速度を従来に比べて6倍以上に向上させた。これにより人間が接触する金属製の手すり、取っ手やドアノブなどに銅をコーティングすることで、細菌・ウイルスによるリスクを低減する公衆衛生環境の実現や、航空・宇宙・電気自動車などの産業で必要とされる高精度な部品加工への活用も期待できる。

波長400~460ナノ㍍の範囲の青色光を発振する青色半導体レーザーは、金属に対する吸収効率が高く、従来の近赤外線レーザーでは困難とされていた金や銅などの加工に適していることから、金属向け次世代加工機の光源への応用に向けて注目度が上昇。銅素材は、高熱伝導性や高電気伝導性を持つことから、それらの特性を必要とする次世代の産業から大きな期待を集めている。銅や銅合金は、古くから細菌に対して殺菌・抗菌作用、ウイルスに対しては不活化作用があることから、細菌やウイルスによるリスクを低減させる有効な方法の一つとして知られており、病院、介護施設、学校、電車などのあらゆる施設において手すりやドアノブなどへの利用が期待されており、既に一部の施設では利用されている。手すりなどの銅製品は、バルク材(素材)からの削り出しや鋳造などで製作されているが、銅材料の使用量が多く、価格も高価であることから普及に向けては課題を抱えていた。これらを解決する方法として、表面や必要な部分だけに銅をコーティングする技術が有効とされている。

当初、近赤外線の半導体レーザーが用いられていたが、銅の加工に優位性を備えた青色半導体レーザーをマルチビーム加工ヘッドに6台装着し、ステンレス基板などへの銅の精密レーザーコーティングを施す技術が登場。しかしながら、1台の青色半導体レーザーの出力が20㍗程度で総出力も100㍗程度と限られていたことから、レーザー集光スポットにおけるパワー密度が低いことによりコーティング速度が低下、装置としても3次元構造物への十分なコーティング機能がなかった。

NEDOが培ってきたノウハウに加え、大阪大学接合科学研究所の塚本雅裕教授らの研究グループ、島津製作所ならびにヤマザキマザックでは、日亜化学工業(小川裕義社長)と村谷機械製作所(村谷實社長)の技術協力を受け、100㍗高輝度青色半導体レーザーを3台装着した300㍗級マルチビーム加工ヘッドを開発。今回、200㍗高輝度青色半導体レーザーを3台装着した600㍗級マルチビーム加工ヘッドによって、複雑な形状の部品などに銅を高速・精密コーティングできるハイブリッド複合加工機の開発にこぎつけた。

今回開発された加工機は、3台の200㍗高輝度青色半導体レーザーから成るマルチビーム加工ヘッドを搭載。青色半導体レーザーの高輝度化によって鉄系、ニッケル系などの金属に加え、純銅や銅合金などの銅材料を従来よりも6倍以上の高速度でコーティングすることができる。レーザー集光スポットにおけるパワー密度も6倍になったことから、従来困難であった銅の多層コーティングも実現。この加工ヘッドを一回走査することで得られるコーティング領域の幅の最大値は、従来の400μ㍍程度に対し、1000μ㍍程度まで増大することが可能となっている。これを用いることで、噴射される銅粉末材料を直接加熱することで母材表面の溶融を必要最小限とし、母材金属の混入が少なく、ゆがみの小さな精密コーティングができる。

今後に向けては、NEDOプロジェクトにおいては、さらに青色半導体レーザーの高輝度化を推進。本年末にはキロワット級の青色半導体レーザーマルチビーム加工ヘッドを搭載することにより、10倍以上のコーティング速度を可能とするハイブリッド複合加工機の開発を目指し、来年の製品化を目指す。