2021年7月5日

【夏季トップインタビュー】日本ミシュランタイヤ
須藤元社長

全員でビジョン実現
人・利益・地球の3つの視点重視

今年4月1日付けで、日本ミシュランタイヤでは、須藤元(すどう・げん)氏が新社長に就任。発足以来、初の日本人社長となった。これまでのキャリアで二度、計10年中国に赴任し、自動車の一大生産地において主に直需タイヤ事業に携わり、副総監も務めた。昨年、日本に帰国した際はコロナ禍のまっただ中であり、まずは逆境のハンデを背負いながら、らつ腕を発揮。同社の強みとポテンシャルを認識するにつれ、この100年に一度というモータリゼーションの変革期に一層の成長を果たせる可能性の自信を深めている。座右の銘は「疾風知勁草(しっぷうにけいそうをしる)」。「苦難に遭って初めてその人物の意思の強さが分かる」という質実剛健な須藤新社長に話を聞いた。

【社長就任から現在の心境について】
今年の年初に社長就任の要請を受けた。会社からの期待を光栄に思うとともに、その責任の重さも感じた。地球規模で脱炭素化を目指し、自動車業界はCASEなど技術革新の大転換期にある。お客様や社会に貢献するためには期待以上の成果を出さねばいけない、と責務を感じている。チームジャパンとして、全員でビジョンを実現していきたい。コロナ禍というみぞうの環境に置かれたが、変化は進化ととらえ、従業員全体で危機感を共有しながら一致団結して災禍に挑んだ。日本ミシュランタイヤには約600人の従業員が働いているが、チームごと全従業員との対話の結果、意識の共有ができている状況に手ごたえを得て、これからの仕事への大きな自信につながった。綿密なコミュニケーションによって部署を超えた協働を促し、どんな逆境に立たされても立ち向かうことができるコミュニティーとなる。それが次の段階に駆け上がるためのエネルギーの源泉の役割も果たし、人間としての成長を一段と大きく促す。ミシュランには「人の尊重、一人ひとりが会社の代表である」という企業理念があるが、ミシュランという長い歴史を育んできた企業において、既に従業員一人ひとりの心にその精神は備わっているのではないかと思う。自分の役割を認識し、互いに団結して仕事に励むことで求める成果が得られる。言い換えれば、従業員が社長の意識で物事を考え、最も貢献度の高いと思える選択の下で、全体で取り組む姿勢こそが事業の核心であるのではないかと考える。社長に就任してからコロナ禍という事業環境に立ち向かい、あらゆる物事で変化が加速している。ダイナミックで先の読めない今後の事業環境を生き抜いていく企業の真価として、それらの重要性を改めて認識した。

【貴社の将来的な〝ありたい姿〟と、その時代におけるアドバンテージとは】
現在のモータリゼーションの世界は、100年に一度の激変期に立たされていると言われており、その変化のダイナミックスさはあまりにもドラスティックで先が読めない状況にある。当社の130年という歴史の中で培われてきた革新的な技術力やノウハウ、企業理念や事業姿勢は重要な財産として守っていかなければならないが、その一方で新しいモータリゼーションの時代では、サステナブル、カーボンニュートラル、SDGsなどといった新しい時代が求める価値に根差した技術を追求する努力が不可避となっている。社会環境を主役に据えた消費動向、地球環境の保全を目指したサステナブルやカーボンニュートラル技術が重要視される企業としての活動は、もはや自らの利益の追求を第一に置いた事業では通用しなくなっている。ミシュランの使命は「モビリティの持続的な発展に貢献する」こと。これは日本ミシュランタイヤにおいても変わらない。顧客中心主義に立ち、人・利益・地球の3つの視点を重視して事業を運営していく。タイヤを中核とし、タイヤ関連、タイヤを超えて付加価値を提供できる企業を目指したい。困難さは増すが、その一方ではやりがいもあり、あるいは観念を変えた新たな事業の取り組みは、予想外の利益を生み出す可能性さえ備えている。ミシュラングループとしては、われわれが守り通してきた信念、受け継がれてきたDNAを受け継ぎながら、企業としてブレることなく時代が求める価値を最高の状態で提供する。激動の状態であるときこそ機敏に対応し、チャンスに変えることで新しい時代の波を乗り越えていく。

【日本ミシュランタイヤにとっては、初の日本人社長となりますが、その背景を推し量るとすれば】
当社はダイバーシティーを重視しており、国籍やジェンダーに対する見方の違いはあり得ない。他国のグループ企業であっても、適材適所の価値観に基づいてトップの人選が行われている事実は自明の理である。ただし世界を取り巻く市場環境は加速度的に変化しており、それぞれの国の市場特性に適した人選を行った結果、偶然にも日本人に白羽の矢が立ったのだと思う。しかしながら従業員、取引先、お客様も接する人々のほとんどが日本人であることから、日本人がトップを務める今回の人事を、事実上の強みとして発揮していければと思う。日本特有の機微を理解し、気持ちの発露を有益に活用していければと思う。日本と中国でビジネスをけん引してきた経験を生かし、チーム全員で日本発の変化やイノベーションを発信していきたい。

【ミシュランタイヤの日本市場での優位性が、一段と強化されるわけですね】
日本ミシュランタイヤの日本市場における商品の強みは、消費者のニーズに確実にこたえていくことであり、その姿勢が現在の地位を築き上げてきた。しかしながらタイヤは、実際に履いて確かめてから購入できる機会は少なく、外見と価格、イメージなどが主な購入理由となることも多いのではないか。当社ではサステナブルを企業ポリシーとして掲げている以上、それを成し遂げながら、消費者ニーズを満たしている商品価値をお客様に伝えていきたい。真の価値が伝わり切れていない部分にまだまだ伸び代があると考えており、持続可能性に賛同頂きながら車に乗ってもらえるブランドとしての土壌づくりに力を注いでいきたい。

【難しそうですが、具体的に例を挙げるとすれば】
例えば、当社の製品「ミシュランプライマシー4」というプレミアムコンフォートタイヤは、トータルバランス性能に優れており、何より新品時から製品寿命の到達時まで、優れたブレーキ性能が維持される。性能の持続はこれまで焦点が当たっていなかったコンセプトであり、消費者が求める安全性を満たしながら、サステナブルという当社のポリシーも生きている。サイズや適応車種に関係なく、自動車タイヤ全領域において、当社のポリシーを息付かせながら、人にも環境にも優しいタイヤとしてミシュランタイヤのブランドを名実ともに高めていく。

【企業ポリシーの先にあるミシュランにとっての世界観とは】
当社では〝2050年までにタイヤを100%持続可能にする〟取り組みを進めている。タイヤ部材のすべてをサステナブルな材料に置き換えるという取り組みで、タイヤの性能を犠牲にすることなく、サステナブル化を達成する。それには革新的な新技術の開発に挑戦していく必要にも迫られるが、チャレンジは進化の原点でもあり、タイヤのリサイクルでネックとなっているリニューアルにも挑戦する。3R(リユース、リデュース、リサイクル)にリニューを加えて4Rにするためには、加硫ゴムを可逆させる新しい技術が必要になってくる。非常にハードルは高く、困難さは承知だが、グループレベルで既に具体的なプロジェクトを複数展開しており、ブレークスルーを引き起こしてでも実現する。ミシュランカルチャーで表現すると、歴史の中でブレークスルーを繰り返し、確固たる信念で進化を遂げてきたが、今後もこのカルチャーは生き続ける。