2023年11月10日

横浜ゴム
ゴムとスチールコードの接着メカニズム

化学反応を可視化
耐久性大幅向上タイヤ開発

横浜ゴム(山石昌孝社長)は〝人とAIとの協奏〟によってデジタル革新を目指すAI利活用構想「HAICoLab(ハイコラボ)」に基づき、先端計測と計算科学を組み合わせた化学反応可視化技術を開発し、タイヤ内のゴムとスチールコードの接着老化反応のメカニズムを解明した。接着老化を抑制する研究に応用することにより、耐久性を大幅に高めたタイヤなどの開発が期待できるとしている。同研究は名古屋大学唯研究室、理化学研究所、北陸先端科学技術大学院大学ダム研究室、高輝度光科学研究センターとの共同研究で実施された。

ラジアルタイヤではトレッド部の剛性を高めるため、スチールコードとゴムを接着してベルト状にしたスチールベルトが補強材として使用されている。この際、スチールコード表面には真ちゅうメッキが施され、ゴム内の硫黄と真ちゅう内の銅が結合することでゴムとスチールコードが接着し、この接着状態がタイヤの耐久性において極めて重要となる。今回の研究では大型放射光施設・SPring―8(兵庫県佐用郡)の「XAFS―CT」が用いられている。XAFS―CTは対象物に分光したX線を照射し、X線のエネルギー掃引によって得られるX線吸収スペクトル(XAFS分光法)を画像検出器により計測し、これを試料全周方向に繰り返し計測することで得られる最先端のイメージング計測法。イメージングデータを解析することで、試料内に含まれる元素の種類や量、その化学状態や配位構造などの情報が得られ、三次元顕微分光イメージングが可能。また、測定に用いるX線のエネルギーが高く、物質の中をよく通過する(透過率が高い)ため、試料を非破壊でイメージングすることができる。

今回XAFS―CTを用い、ゴム中に真ちゅうの粒子約1000個を加えた接着モデルの老化過程を観察。1000個中802個で接着老化が起こる際の銅の拡散状態や、化学反応の計測データを取得し、さらにこのデータをAI(機械学習)を使用した計算科学技術により分析を行ったところ、ゴム中に拡散された銅の化学反応が5通りに変化することが判明した。今後はこれらの結果に基づいて接着老化反応をコントロールする技術の研究を進め、老化しにくい材料配合や新素材などの開発に活用するとともに、今回の技術を応用して放射光などの先端計測で得られたビッグデータへのAI利活用を加速させていく。

同研究は、唯美津木(ただ・みづき)名古屋大学教授らが提唱する計測・解析プロセス「反応リマスター」の手法を用いて実現した。同手法は横浜ゴムが参加している科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業プログラム「CREST」の「革新的計測解析」領域において研究中で、より高度なエコ材料開発への貢献を目指す。

横浜ゴムは2020年にHAICoLabを策定し、人が設定する仮説に沿ったデータの生成・収集とAIによる予測・分析・探索を繰り返すことで未踏領域での知見の発見を目指している。これまでにも同構想に基づいてゴムの配合物性値予測や配合設計、タイヤの特性値予測システムなどの開発を行っており、今後も全社的にAI利活用を推進していく。

なお、同研究の論文「Machine learning―deriⅴed reaction statistics for 3D spectroimaging of copper sulfidation in heterogeneous rubber/brass composites」(著者・松井公佑氏、村本雄太氏、鹿久保隆志氏、網野直也氏、宇留賀朋哉氏、ミンクエット ハ氏、ズイタイ ディン氏、ヒョウチ ダム氏、唯美津木氏)は11月6日19時(日本時間)付けでオープンアクセスの科学誌「Communications Materials」(URLhttps://www.nature.com/articles/s43246‐023‐00413‐z)に掲載されている。