ダイセル
放出電子でCO2をCOへ還元
独自のダイヤモンド固体触媒開発
本技術の概念図。可視光によりダイヤモンド中の電子が励起され、その電子がダイヤモンドの外に放出されることで水和電子となり、水和電子によりCO2が還元され、COが生成される様子
ダイセル(小河義美社長)は、同社の吉川太朗研究員(金沢大学ナノマテリアル研究所特任准教授兼任)、金沢大学ナノマテリアル研究所の德田規夫教授、理工研究域物質化学系の淺川雅准教授らとの共同研究グループが協働し、爆轟(ばくごう)法で合成したナノダイヤモンドを基軸とした独自のダイヤモンド固体触媒を開発し、可視光を当てることによって放出される電子により、二酸化炭素を一酸化炭素へ還元する取り組みに成功したことを発表した。太陽光に6%程度しか含まれていない紫外光をダイヤモンドに当てることにより、周囲の二酸化炭素が還元されることは既に知られていたが、約50%という太陽光に最も多く含まれる可視光を用いて、同現象が確認できたのは世界で初めて。
ダイヤモンドは電気を通さない絶縁体としてよく知られているが、ホウ素を高濃度に含むことで導電性物質へと変質。この現象を利用し、化学的に安定な材料として電気化学分野での応用研究が盛んに行われてきた。特に、微量の化学物質を検知できる高感度センサーや効率的にオゾン水を生成できる電極として大きな注目を浴びており、既に複数の企業が社会実装を推進。その一方でダイヤモンドを二酸化炭素の電解還元に用いる場合は過電圧が大きく、実用的な分解電圧で還元するためには、助触媒金属との複合や深紫外光などの高エネルギー光の照射が必要不可欠とされていた。今回、ダイセルの爆轟合成技術と金沢大学の化学気相成長(CVD)技術を組み合わせた独自のダイヤモンド結晶化技術により、太陽光に最も豊富に含まれる可視光を吸収し、電子を放出する特殊な結晶構造を持ったダイヤモンド触媒を開発、放出された電子により二酸化炭素を一酸化炭素へと還元することに成功した。
今回の技術(太陽光超還元)は触媒寿命の長さや所要電力が少ないとの観点から、カーボンネガティブ社会の実現を大幅に近づける革新的カーボンリサイクル技術として期待。ダイセルでは、工場から排出される二酸化炭素を各種化工品原料となる一酸化炭素へと還元するサステナブル技術として、自社の化学プラントにおいて実証実験を実施する計画を立てている。
今回の研究成果は、今月1日に国際学術誌「Carbon」のオンライン版(https://doi.org/10.1016/j.carbon.2023.118689)に掲載された。