住友ゴム工業
硫黄架橋の粗密を世界初観測
特定材料を選択的に観測
茨城大学と共同で
住友ゴム工業(山本悟社長)は、茨城大学(三村信男学長)との共同研究により、タイヤ用ゴムに含まれるさまざまな材料を選択的に観測できる手法を確立した。これは茨城大学が新たに開発した量子線顕微鏡を用いたもので、既に製品化されているタイヤ用ゴムそのものの評価が可能になる画期的な手法を確立、今後の材料開発への利用が期待される。この手法を用いて、ゴム内部の硫黄架橋(硫黄を混ぜた生ゴムに、熱と圧力を加えることでゴム内部のポリマー同士を連結させること。これにより高い弾性を持つゴムになる)の粗い部分・密な部分(粗密)を、世界で初めて鮮明に観測することに成功した。
自動車のタイヤ用ゴムは、天然ゴムや合成ゴムなどのポリマー、カーボンやシリカなどの補強材など数十種類の材料からできており、それぞれの材料がタイヤ内部で階層構造を構築。このため、タイヤ性能の向上にはタイヤ用ゴムの内部の各材料をそれぞれ分けて観察し、その階層構造を明らかにする必要があった。特にゴムの弾性を生み出す硫黄架橋の構造は、ゴムの強度や劣化などの経年変化に大きく関係すると考えられているものの、ゴム内部での詳細な構造については、これまで解明されていなかった。
そのような状況にあって、茨城大学との共同により、タイヤ用ゴム内部の材料を選択的に観測できる手法を確立、その結果として硫黄架橋の粗密を選択的に観測することが可能となった。通常の観察では硫黄以外の補強材の情報が混じった画像データのみしか入手できなかったが、この手法を用いることで、硫黄架橋やそのほかの補強材などといった特定の成分を、それぞれ色付けされた鮮明な画像として得ることができる。これにより、タイヤそのものの構造を評価することが可能となり、この画像データを活用することで、燃費性能や耐摩耗性能などに優れたタイヤの内部構造を導き出すことが可能になることから、材料開発の加速化が期待される。
今回開発されたのは、高レベルの水素核スピン偏極を動的に制御することで、素材の特定の成分を強調した観測画像を得られる「動的核スピン偏極コントラスト変調中性子小角散乱装置」(DNPーSANS)という装置で、この装置に用いられた手法の原理は古くから知られていたが、産業利用を目的とした実装置として開発されたのは、世界的にも今回が初めて。従来の中性子利用観察方法では、重水素置換法が不可欠であったものを、今回の手法によって製品そのものや使用後の評価が可能になり、他の製品への利用展開も大いに期待される。重水素置換法を行わずにもともとの水素のままで素材の高分子を観察できるということは、製品であるタイヤの評価や、使用後のタイヤそのものの構造評価を可能にする。燃費と構造劣化の関係の解明にもつながり、タイヤのさらなる性能向上に寄与するものとして期待されている。