2020年8月5日

ダイセル
ポリプラスチックスを完全子会社化

積極的に事業拡大
欧米市場での展開を加速

ダイセル(小河義美社長)は7月20日、電話会議によるアナリスト・機関投資家、マスコミ向けの会見を行い、同社の連結子会社であるポリプラスチックス(塩飽俊雄社長)の株式を合弁相手より全株取得し、完全子会社化すると発表した。ポリプラスチックスの発行済株式のうち、米国のセラニーズコーポレーションが子会社を通じて保有している残り45%の全株式を取得する。取得価格は15億7500万米㌦(約1685億円)で、ダイセルにとっては、ポリプラスチックスの完全子会社化により、親会社同士で交わされた制約が取り払われることになり、新事業領域の開拓や既存分野の深耕化を行うなど、新たな事業戦略の策定を自由に行うことができるようになる。ダイセルでは、ポリプラスチックスが備えた可能性を「現状の姿のレベルをはるかに超えるキャパシティを備えた企業として見ており、それを最大限に引き出すことで、ダイセルの中期戦略の計画を達成する成長エンジンとしての能力を効果的に引き出す」(小河社長)。

ポリプラスチックスは、1964年にダイセルとセラニーズとの合弁によって設立。日本のエンジニアリングプラスチックの草分けとして自動車産業や電気産業、精密機械などを通じて社会の発展に貢献してきた。金属に代わる加工性の高い新素材として登場したエンジニアリングプラスチックは、社会が求める生活の高度化とともに需要は増加。ポリプラスチックスもその専業メーカーとして、製品のバリエーションや供給能力を増強しながら、ユーザーに最適なソリューションを提供し、日本やアジアではナンバーワン、一部主要製品においては世界トップシェアを占めている。

ダイセルとセラニーズでは、ポリプラスチックスを合弁会社として設立するに当たり、その事業展開において、ガバナンス面やライセンス契約面などにおいて、ダイセルとセラニーズによる合意の下で推進する契約を締結。設備の増設や、一定以上の投資に関しては、事前合意が必要であるほか、地域展開や顧客ニーズに対するソリューションの制約など、成長拡大の好機にあっても、両社の納得が得られなければ、その案件は実行されなかった。その結果、M&AやJVを実施する機会の逸失、オフテイク権による柔軟性の不足、パートナーの参加権による事業計画外投資の可能性の喪失などにより「ここ数年間で営業利益において数百億円単位の事業機会を逃してきた」(同)。

合弁当初は、ダイセルではセルロース化学、有機合成化学、火薬工場などを駆使し、総合化学メーカーとして活躍。100周年を迎え、新長期ビジョン、中期戦略を策定し、新たなバリューチェーンの構築に取り組んでいる。セラニーズとの関係では、これらの事業だけでなく酢酸、酢酸セルロース、アセテート・トウなど、ダイセルとは類似点の多い事業構造を備えた企業でもあり、ポリプラスチックス設立以前から、良好なパートナーシップを継続してきた。しかしながら、激しく変化を続けるビジネス環境にあって、知的財産を巡る係争、ポリプラスチックスの一層の成長を巡っての意見の相違が生じるなど、両社間での事業に対する思惑の違いが顕在化してきた。昨年来、信頼と敬意に基づくトップ同士の対話を通じて、こうした諸課題の解決策を模索した結果、今回の合意に至った。今後のスケジュールについては、各国競争法当局における、競争法上の許可などを得られることが条件。そのため、株式取得完了時は未定となっている。

ダイセルでは、ポリプラスチックスの完全子会社化により、成長戦略の選択肢が拡大するものと期待。地理的市場開拓の自由度が広がるとともに新たな商材の開発、導入や能力増強投資などといった選択肢も拡大すると見込んでいる。「ポリプラスチックスはアジア地区で販売を伸ばしてきたが、欧米での売上高は全体の10%程度に過ぎなかった。合弁による制約が解かれたことで、今後は欧米市場での展開を加速する。LCP事業の欧米展開など、そのためのインフラ基盤の先行投資を積極的に行う。需要増加に対応したタイムリーな能力増強も迅速な決断力を駆使して実現する。ポリプラスチックスは営業面が強みでもあったが、ダイセルグループの研究開発リソースを活用した新製品開発により、スーパーエンプラへの一層の深耕を図る」(同)。

ダイセル・ポリプラの今後の展開に期待 会見の質疑応答より

7月20日にダイセル(小河義美社長)が同社の連結子会社であるポリプラスチックス(塩飽俊雄社長)を完全子会社化すると、発表を行った会見において次のような内容を含む質疑応答がなされた。

――ポリプラスチックスの設立当時における制約の意味は。
ダイセルとセラニーズは相互に協力して、両社の事業を支えるパートナーシップを築いていた。しかしながら時代とともに事業環境が変化し、ポリプラスチックスの成長に向けた考え方に相違が生じるようになった。事業領域や市場開拓の面でも制約の存在が足かせとなり、事業の機会喪失は計り知れない。これがなければ、M&Aや能力増強などといった体制強化により、数百億円規模の収益効果があると見込んでいる。ポリプラスチックスの完全子会社化は、ダイセルにとっての悲願でもあった。

――欧米への攻勢については。
欧米は重点市場として攻めていく。欧州に関しては、特にポリマーで制約があり、これらもすべて撤廃されることでポリプラスチックスは自由になり、投資も積極的に行っていく。米国のセラニーズも自由競争の相手先になるが、ポリプラスチックスのソリューションは現地でも評価されており、十分に受け入れられる。セラニーズとは販売方法も違うことから、ポジショニングを考えながら事業再編によって想像以上の成果が得られると思う。現在はアジアから欧米に市場拡大の波が押し寄せており、品質と制約解除のシナジー効果によって、ポリプラスチックスが培ってきた技術が十分に発揮されるものと期待している。

――取得価格の1685億円は割高なのでは。
2020年3月期の実績では、売上高(連結)で1354億円、当期純利益で124億円であり、数字的には確かに割高に映るかもしれない。しかしながら、営業の縛りによって機会逸失によって数百億円の利益が失われていると推定されている。ポリプラスチックスは営業利益率が高く、機会逸失による利益をばん回し、束縛から解放されたポリプラスチックスの今後のグローバル展開を見通すと決して高い買い物ではなかった。今回の完全子会社化については、価格よりもはるかに価値があった取り組みとして認められるよう最大限のシナジー効果を出していきたい。