2020年8月20日

【夏季トップインタビュー】アキレス
伊藤守社長 多彩な製品群と技術で社会貢献

世界的な「脱プラ」の方向性に協調

持ち前の技術開発力をフルに発揮し、新たな機能を発現する素材や独自性の高い製品で顧客の満足と社会への貢献を続けるアキレス。一般消費者にはシューズ製品でなじみが深い同社だが、プラスチック加工をコア技術として生み出される、多彩な製品群が活躍する分野は実に多岐にわたる。世界中が新型コロナウイルス感染拡大の猛威にさらされる中、飛まつ防止用に使われる防炎効果を付与したフィルムなど、同社の手掛ける製品が社会的に大きな注目を集めた。現状に甘んじることなく、次のステップを踏み出すための足場を固める伊藤守社長に話を聞いた。

【これまでの業績を振り返って】
前期(2020年3月期)の決算については、売上高は前期比6・4%減の802億2500万円となった。一方、利益面においては、あらゆる〝ムダ取り〟に徹したことで増益を確保することができた。現状では刻々と変わりゆく市場環境に対し、柔軟に対応できる筋肉質な事業構造への転換が、まだまだ図れていない。この点については、今後への大きな反省材料として重く受け止めている。事業部ごとの動向を見ると、産業資材事業では特に力を入れていた断熱資材が期待したほど伸びなかった。プラスチック事業の車輌向け内装資材は、日系カーメーカーの苦戦が続いており、当社としては新規ユーザーの開拓・拡大に努めたが、思うような成果が得られなかった。シューズ事業では、喫緊の課題である〝シューズの復活〟に向けた取り組みに全力を尽くしているものの、市場の変化への対応に遅れが生じていることで改善が思うように進んでいない。消費増税にかかわる対策が十分に講じきれていなかったことも業績に少なからず影響を与えた。一方、プラスチック事業のフィルム関連では、新型コロナウイルスの飛まつ感染防止用途で特需があった。海外に目を向けると、中国・昆山の車輌向けPVCレザーの生産拠点が年初からのコロナ禍によってかなりの影響を受けたが、北米においては医療用途のフィルムが大きく伸びた。産業資材事業は半導体分野も5G関連を含めて堅調であったが、ほかにも静電気対策の商材やRIM成形品が良かった。

今期の第1四半期がスタートしてからは、新型コロナ対策の一環として、コンビニエンスストアのレジなどにフィルム間仕切りを設置する取り組みが拡大し、それに端を発して、さまざまな対面する窓口で使われる間仕切りカーテン用途のフィルムの注文が殺到した。本来は間仕切り用途以外でも、透明であればあらゆるタイプのフィルムが売れる状況で一時は在庫が不足したが、4月下旬に防炎仕様の専門規格を立ち上げ緊急増産体制を敷き、全国的な需要にこたえていくことに努めた。シューズ製品では、本来なら需要期を迎える子ども靴が、学校の長期休校によって伸び悩んだ。中国の車輌内装資材は持ち直してきたものの、北米の状況がまだ悪く、日系メーカーの自動車減産といった厳しい市場環境が続いている。新型コロナウイルスの感染拡大が事業に及ぼす影響は甚大で、今期は〝我慢の年〟と腹をくくっている。しかしながら、決して屈することなく、さらなる効率化を図り、なすべき取り組みを粛々と進めていきたい。通期の予想については現時点では見通すことが難しいものの、今期では中国のシューズ関係の子会社(崇徳有限公司)の売却による特別利益が発生するため、最終利益を後押しすると見込んでいる。

【社内における新型コロナウイルス感染予防の対応は】
本社・支社ならびに営業所では、緊急事態宣言を契機に営業系社員は約7割、間接部門は5割の割合でテレワークを実施した。一方、生産部門については工場の稼働を維持しながら、従業員の健康管理を徹底している。特にラインのオペレーターに万一のことがあると、フィルム関係など重要な製品の生産に支障をきたすため、工場における対策にはより一層配慮した。6月末の時点では、感染対策に十分留意した上で全員出勤の体制に戻っていたが、全国的な感染の再拡大を受け、営業および事務系では7月から再度在宅勤務を実施している。

【〝シューズの復活〟に向けて期待をかける商品は】
衝撃吸収材「ソルボセイン」の採用で足への負担を和らげ、快適な歩きやすさを提供する「アキレス・ソルボ」といった大人向けの商材が少しずつではあるが着実に伸びている。また、スポーツシューズでは、今年から米国ランニングシューズブランド「ブルックス」の本格的な販売を日本で開始した。長い歴史を有する非常に知名度が高いブランドで、ランナーが抱える課題を素材が発現する機能によって解決させようとする企業としての姿勢は、当社の開発理念にも相通じる。当社ではこれまで独自素材を搭載し、ランニング障害に配慮した「メディフォーム」でランニングシューズ市場への参入を果たしており、今後は「ブルックス」のネームバリューを生かしながら、メディフォームとの相乗効果もねらって拡大を図っていきたい。

【子ども靴については】
主力のジュニアスポーツシューズ「瞬足」からは、独自配合の素材によってシリーズ最高レベルの衝撃吸収性を発揮する「瞬足ニューラン」を3月に投入した。これまでの「瞬足」は、どちらかと言えば人目をひく派手なデザインが主流であったが、新製品ではスポーティーでありながらも洗練されたファッション性を追求している。ほかにも、小学生の高学年から中学生に向けては、当社トップクラスの反発弾性を誇る新素材「アクロフォーム」を搭載した「ハイパージャンパー」を7月から発売開始した。新素材によって着地時の衝撃エネルギーを反発力に変換し、より躍動感のある動きをサポートする。試作品のテストでは自ら履いて(サイズは最大28㌢で大人にも対応)感触を確かめてみた。「瞬足」を履いて育ってきた世代の子どもたちにも、弾むようなパフォーマンスを可能にするこのシューズをぜひ体感してもらいたい。

【今後の課題について】
今後は適材適所を目標に、部門間を超えた配置転換も視野に入れながら全体の効率化をさらに推し進めていく。また、いち早く採算ベースに乗せていくためにも、力を入れるセグメントと、そうでないものの分類を明確にしていく必要がある。具体的には、「アキレス・ソルボ」や子ども靴の新製品など自社の素材や技術が搭載されている商品のさらなる拡大を図り、差別化の源泉にしていきたい。

【新型コロナ感染予防関連製品の現状と今後の展望を】
当社ではウレタン素材のマスク商品も手掛けており、セル構造を調整して通気性を確保しているため、飛まつの拡散防止効果だけではなく呼吸がしやすいとスポーツをする人にも大変好評を得ている。ほかにも長靴製品では抗ウイルスの効果を応用し、職域シューズだけではなく、子ども靴にも抗ウイルス効果を付与した製品を展開している。集団感染が発生した旅客船の船内環境調査では、客室のトイレの床などでウイルスの遺伝子が多く検出されたというデータがある。子どもの足を守るという思想にこだわりを持つ当社としては、足元から子どもと保護者の”安心・安全”にお役に立ちたい。レジなどで間仕切りカーテンとして使われるフィルムは、第2四半期に入ってからようやく需要が落ち着いてきた。ただ、7月末時点では再び全国で感染者数が増大している状況であり、引き続き感染拡大防止に向けた製品の生産・供給に努めていく。今般のコロナ禍によって、フィルム製品やマスク、抗ウイルス技術などの当社の製品群が注目されたことは、実は社員にとって大きな励みとなった。自社の製品が社会貢献を果たしていると自覚できたことが、会社の大切な財産になると信じている。一方、今後は3R(リデュース、リユース、リサイクル)のシステム構築を着々と進め、世界的な「脱プラ」の方向性に協調していくことを大切な目標に掲げている。当社は今後も、より自然との調和を目指しながら、社会に貢献し続ける企業でありたいと考えている。