2020年11月15日

住友ゴム工業
HPCI利用研究課題優秀成果賞を受賞

物質・材料・化学の分野で選出

住友ゴム工業(山本悟社長)は、高度情報科学技術研究機構(田島保英理事長)が10月29~30日にかけてオンラインによって開催した「第7回〝京〟を中核とするHPCIシステム利用研究課題・成果報告会」において、HPCI(革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ)利用研究課題優秀成果賞を受賞した企業の一社として成果報告を行った。優秀成果賞を受けたのは住友ゴム工業、関西大学、千葉大学、大阪大学、東京大学(2課題)、東京工業大学(2課題)による8課題で、民間企業による受賞者は住友ゴム工業のみ。

優秀成果賞は、ある一定期間において実施・完了した一般課題、若手人材育成課題および産業利用課題の中から、成果報告会プログラム委員会(小柳義夫委員長=東京大学名誉教授/高度情報科学技術研究機構サイエンス・アドバイザー)によって選ばれた特に優秀な成果が認められた課題に与えられる。この報告会は、HPCI利用研究課題実施によって生み出された研究成果の発表を通じて、研究者間の情報交換や異分野の研究者間の交流を促進し、研究成果の普及を進展、新たな計算科学分野へのアプローチおよび研究者の裾野拡大に貢献する成果を目的に置いている。

今回は令和元年度(平成31年度)に実施・完了された一般課題、若手人材育成課題、産業利用課題が成果報告を対象に実施。公募された一般利用枠の全116課題の中から選ばれた、優秀成果賞受賞の8つの課題について口頭での発表が行われた。

住友ゴム工業は、物質・材料・化学の分野で選出。「タイヤ用ゴム材料の大規模分子動力学シミュレーション(hp170063〝京〟産業利用課題・実証利用)」の課題で、同社研究第一部の内藤正登氏、角田昌也氏が代表発表者を務めて行われた。課題の目的は、全原子分子動力学計算(CGMD)と粗視化分子動力学計算(FAMD)を組み合わせたマルチスケール解析によって、タイヤ用ゴムの破壊現象を分子レベルで解明。これによって高性能タイヤ用ゴム材料開発のための基盤を構築し、ゴム材料の省資源化を通じてゴムを取り巻く社会的問題の解決に貢献する。本年度は、耐摩耗性を改善する充てん剤表面改質条件を明らかにすることを目的に、大規模CGMDを実施した。

結果としては、充てん剤においては、高分子間の相互作用の強さが高分子間の相互作用よりも弱い条件においては、充てん剤表面上の改質剤・カップリング剤の結合数が空隙形成に影響する状況、表面改質剤の構造の違いが空隙形成に与える影響が小さいということの2点が判明した。

計算実施の過程において、CGMDのモデルの改良を行い、FAMDとの対応付けの定量性を改善した。同時に使用するソフトウェアの変更も行い、従来に比べ2倍のコア当たり性能を達成した。

タイヤにおいても、フィラー、シリカ、カップリング剤といった材料が互いに密接に関係しており、タイヤ性能の決定の決め手。そのためには界面吸着ポリマー、ポリマーの変成基などといったゴムの材料とタイヤ性能とのかかわりをより詳しく理解することが重要といえる。その方法の一つとして、大型実験との連携による高精度シミュレーションモデルを開発。ゴム内部のさまざまなスケールで生じる応力集中、シリカネットワーク運動、破壊架橋構造、シリカ界面ポリマー運動などを大型実験との連携による高精度シミュレーションモデルを構築。大規模分子シミュレーションの必要性に対しては京コンピュータを利用することで解決し、大規模シミュレーション解析・シミュレーションに基づく高強度ゴムの開発に成功した。今後は、ゴムの一層の高強度化を目指した取り組みとして、充てん剤、高分子間の構造がゴム強度に及ぼす影響評価カップリング剤の違いや応力、ボイド量を把握、結合数の制御によってさらに高強度化できる可能性を引き出した。実際、本年度、ソフトウェアの変更により、従来比で2倍のコア当たり性能を達成している。今後は、安全性、低燃費性能・省資源という、相反するタイヤの主要性能を高い次元で両立する目的から、タイヤ用ゴム材料の研究開発にシミュレーションを活用。「今後も、シミュレーションを活用することによって新たなゴム材料を生み出し、高い安全性と環境負荷低減を両立したタイヤを開発していく」としている。

今回の成果報告会のプログラムの中では、同時開催された第3回HPCIコンソーシアムシンポジウム(HPCIコンソーシアム、理化学研究所計算科学に研究センターとの共催)においては、『動き出した「富岳」と活用への期待』と題して、スーパーコンピュータ「富岳」を中核とするHPCIシステムを利用した先駆的な研究成果が報告され、来年度より本格運用を目指す富岳の利用に向けた情報が紹介された。