2021年1月30日

日本ゼオン
新春トップインタビュー

さらなる飛躍への第一歩 
厳しい環境跳ね返し新たな成長

【2020年を振り返って】
昨年は、一昨年から続く米中貿易摩擦に起因する世界経済の低迷に加え、新型コロナウイルスの感染拡大が追い打ちとなり、当社の事業にあっても大きな影響を受けた。特に当社とかかわりの深い自動車産業が大きなマイナスの影響を被ったことで、合成ゴムを中心とするエラストマー事業は前年を大きく下回った。夏以降は業況が徐々に回復に向かったものの、用途によっては依然、復調の足取りが重く、高機能材料についても自動車産業の苦戦に伴いEV車向けの電池材料の荷動きは鈍かった。

一方、化学品や電子材料については堅調を維持し、光学フィルムの好調にけん引され、高機能材料事業全体では上期は最高益を達成することができた。下期以降の事業分野ごとの需要動向を見ると、合成ゴムは自動車メーカーの生産回復に追随してタイヤ向けの汎用ゴムの需要が戻りつつある。また、特殊ゴムは自動車部品の流通在庫が多い影響で回復のスピードが遅いものの、ラテックスはコロナの影響がプラスに転じて医療用ゴム手袋の需要が拡大している。このほか洗剤・サニタリー用途の合成香料や、半導体業界向けの電子材料も伸びており、自動車業界の復調を契機に、通期でのばん回に向けた取り組みを加速させている。

【中期経営計画の進ちょく状況について】
今期を最終年度とする中計「SZ―20PhaseⅢ」においては、オールゼオンの強みを組み合わせた〝深化〟と、壁を超えて外部との連携を図る〝探索〟によって世界中にソリューションを提供し、重点開発領域での新事業創出および新製品開発を加速することを戦略に掲げて遂行してきた。それらの施策を実現するための原動力として、徹底的な企業の風土改革にも着手してきたが、社員一人ひとりの能動的な行動を尊重する組織風土の醸成については、まだまだ道半ばという思いが強い。今計画で掲げた定量目標である売上高5000億円は残念ながら未達となる見通しだが、今年からスタートする次の新中計においても、不連続な成長に向け、この課題については引き続き取り組んでいきたい。

【生産拠点の拡充について】
今般の新型コロナによる大きな事業環境の変化の中でも、目標達成のために必要な投資については継続実施する。まずは、アクリルゴムを製造・販売するタイ工場がいよいよ今年4月から稼働を開始する。自動車生産の回復に伴って、アジア地域を中心に復調する需要を着実に取り込んでいきたい。敦賀工場では大型テレビ用の位相差フィルムの製造ラインを新規増設し、同じく今年4月からの量産開始を予定している。水島工場でもシクロオレフィンポリマー(COP)の生産能力増強に着工しており、今年7月の完工を目指している。この増強により、レンズ・医療用途など拡大するCOPの需要に追随していく。

【今後の課題と対応について】
重点課題としては3つある。1つ目は生産革新の定着であり、2000年代初頭から導入してきた〝ダイセル方式〟を引き続き推進し、リモートを活用しながら、生産革新の中身について現場と協議を重ねている。2つ目は市場の声によく耳を傾け、くみ取ったニーズを研究開発に落とし込んでいく。3つ目はダイバーシティへの対応で、この取り組みを通して自らを向上させるため約800人の従業員が現在、研修を受けている。

【〝ウィズコロナ〟に向けた取り組みについて】
世界的な災禍によって事業環境は大きく様変りしたが、その中で顕在化してきた大きな方向性としては、第一に事業の将来性がポイントになる。そのような状況下でも高機能材料は過去最高の収益を収めており、エラストマー事業においても、今後はより特長を打ち出した素材を提供していくことで、厳しい環境を跳ね返して成長路線へと乗せていきたい。

働き方の有効性と効率性については、テレワークによる業務を状況に応じて導入している。生産サイドでの実施は難しいものの、現場での感染対策に十分配慮して作業者の健康の確保と操業の継続に努めている。社内のコミュニケーションについては、デジタルツールを活用して緊密な打ち合わせが可能なシステムを構築していく。DXについては、昨年「デジタル統括推進部門」を立ち上げた。これによって競争力を高め、デジタル情報を駆使することで生産革新もさらに加速させていく。そのほか、SDGsなど社会的な課題への対応も重要で、社内の有志によって取り組みを推進しており、新中計においても引き続き大切な項目として盛り込んでいく。

【今年の抱負を】
今年の干支の辛丑(かのとうし)は、〝新しい生命が種子の中に萌(きざ)し始める状態〟という意味がある。来年度は新たな中計のスタートの年であり、さらなる飛躍への第一歩を踏み出す年にしていきたい。社内でも口にしていることだが、変化はチャンスと前向きにとらえ、課題の解決と目標の達成に常に先手を打って臨みたい。