ブリヂストン
「環境中期目標マイルストン2030 環境技術説明会」を開催
キリンと共同研究
グアユールの増殖に向け
ブリヂストン(石橋秀一CEO)は1月28日、環境面の新技術を織り込んだ「環境中期目標マイルストン2030および環境技術説明会」をオンラインによって行った。同社では、キリンホールディングス(磯崎功典社長、以下、キリン)との共同研究によって「グアユール」由来の天然ゴム生産性向上に寄与する技術の開発に成功。その成果の概要ならびに今後の展開など、天然ゴム資源の多様化によるタイヤ原材料のサステナブル化という同社の目標を改めて強調し、実用に向けてのカウントダウンに入ったことを示唆した。
説明会はキリンと共同で行われ、第一部としてブリヂストンGサステナビリティ推進部の稲継明宏部長が「環境中期目標マイルストン2030の紹介とサーキュラーエコノミーについて」解説。第二部として「サーキュラーエコノミーに貢献する環境技術と価値共創事例」として同社の先端材料部門の大月正珠部門長がブリヂストンにおける「資源を循環させる&効率よく活用するための研究開発の取り組み」、続いてキリンR&D本部キリン中央研究所の間宮幹士研究員が「グアユールの共同研究における業界の枠組みを超えた価値共創事例ご紹介」と題して研究成果を発表した。
稲継部長は最初にブリヂストンの考え方について紹介。最高の品質で社会への貢献を目指す同社としては、2050年にサステナブルなソリューションカンパニーとして、社会価値・顧客価値を持続的に提供している会社として存在感を発揮する目標を立てている。〝環境中期目標マイルストン2030〟においては、20年の目標を既に19年に前倒しして達成。新たに掲げた環境中期目標マイルストン2030では、フォーカスターゲットとして、環境インパクトの改善推進として、水リスクの低減を掲げており、水ストレス地域における生産拠点において、水リスク低減に向けたウォータースチュワードシッププランを推進する。サーキュラーエコノミーへの貢献推進に向けては、マテリアルサーキュラリティーの向上を図り、再生資源や再生可能資源に由来する原材料費率を40%以上に高める。CO2総量削減、削減貢献に向けては、ソリューションの提供により、商品・サービスのライフサイクル、バリューチェーンを通じて、ブリヂストンの生産活動によって排出されるCO2排出量の5倍以上のCO2削減に貢献していく。
第二部のサーキュラーエコノミーに貢献する環境技術と価値共創事例については、ブリヂストンとキリンのグアユール育成に関する新技術の開発までの経緯などを紹介。大月部門長は「当社としては天然ゴム資源のサステナブル化にこだわっており、需要が高まる見通しにあって、資源の多様化の観点では乾燥地帯でも生育するグアユールに焦点を当て、その有効実用化に向けて懸命に取り組んでいる」と説明した。
グアユールは、米国南西部からメキシコ北部が原産の降雨量の少ない乾燥地帯で栽培することが可能なキク科の低木(灌木)で、熱帯で栽培するパラゴムノキ由来のゴムに匹敵する成分を組織中に含んでいる。ブリヂストンでは、タイヤ材料としての実用化を目指し、グアユール由来のゴムの生産性向上や物性改良に向けた研究開発に大きな力を傾けてきた。同社では栽培・育成を経て収穫、ゴムの抽出にも成功し、15年にはグアユールを用いた最初のタイヤを完成。しかしながら実効性を備えた実用化に向けては、個木間の形質(生育・ゴム含量)にバラつきがあり、単位面積当たりのゴム生成向上と安定生産に向けての課題が残されていた。高ゴム含量の優良品種を選抜し、大量増殖による安定生産を実現することは不可欠。優良品種の獲得に向けては他社技術との融合により高精度遺伝子技術を生かした育種加速を推進。遺伝子情報を基に優良品種選抜という可能性に期待が寄せられている。その一方で、優良品種の大量増殖については、キリンが開発した植物増殖技術との融合により、安定・高生産性への期待が浮上。「キリングループは発酵・バイオ技術をベースに研究開発に取り組んできた。ホップや麦だけでなく、これまで知られていなかった新しい品種を研究テーマにする植物研究も手掛けており、今回のグアユールの大量増殖への取り組みに加わった」と経緯を説明した。グアユールは種子から栽培するが、それでは成長因子が不均一。優れた母株と同じ特徴を備えた株を挿し木の形で育成することで、母株と同じ成長度合いが得られる可能性がある。そこでキリンでは独自の開発技術である袋型培養槽の応用を企画。母株と同じ植物を袋の中で液体培養するという栽培法で、挿し木よりも効率が高く病害虫フリーという安定した品種の大量増殖という条件に最適。現段階では、特殊なガス環境下で育てることで良好な茎の増殖を確認しており、そこから苗を育成する段階にまで達している。
今回、キリンとの共同研究によって、同一のグアユールを安定的に増殖させる技術が開発されたことにより、今後は遺伝子情報から品種改良を行った優良種のグアユールの大量増殖が可能となり、天然ゴムの収量を安定させながら生産性の高いグアユールの栽培を加速させることが期待される。ブリヂストングループは、アメリカ・アリゾナ州に広がる自社グループの農園に植えた優良品種の苗木のフィールド評価を開始している。今後、フィールド評価の結果を分析し、プロセスの最適化による物性改良やアプリケーション(用途)開発の成果と組み合わせることで、20年代にグアユールゴムのタイヤ材料としての実用化を目指す。