2021年2月5日

【トップインタビュー2021】
弘進ゴム 西井英正社長

デジタルによる変革促進
あらゆる事態想定し全力尽くす

【昨年を振り返って】
前期にあたる2020年5月期の下期(2019年12月~20年5月)は、政府による緊急事態宣言の発出により、シューズ・ウエア(SW)部門において飲食業界の時短・休業ならびに、学校給食の停止などにより、厨房向けのシューズなどの需要面で大きなダメージを受けた。自動車部品を供給している工業用品部門では、自動車メーカー自体の工場が停止を余儀なくされ、その影響が当社の生産工場にも及んだ結果、操業率が40%減という異常事態に見舞われた。建設機械向けも不振にあえいだが、予想を上回る自動車産業の急速な巻き返しなどにより、今期(20年6月~21年5月)に入ってからは、10月の時点でコロナ禍に見舞われた以前の状況に戻っている。今上期(20年6月~11月)の売上高は、前年同期比89・4%の57億6100万円となり前年同期の実績、計画ともに及ばなかった。部門別ではSW部門が同92・1%の34億8800万円、化工品部門は22億7300万円で、このうち工業用品が同83・3%の17億100万円、産業資材が同88・1%の5億7200万円となった。売り上げのプラス要因としては、鳥インフルエンザの発生により、白い衛生長靴の急な需要が持ち上がったが、国内生産という当社の体制が強みとなって、緊急時の早期対応に貢献することができた。また今期は、大規模降雪によってラバーブーツの需要が急増し、在庫が一気に市場に流通した。

【緊急事態宣言による企業としての対応は】
5月の発令時には、出張の禁止、公共交通機関の利用も避けるよう通達を出した。在宅勤務への移行も推し進め、東京は全体の70%、その他の拠点も50%をテレワークに移行することで、新型コロナウイルス感染のリスクを避けた。当社では、各出先拠点のサーバーをリモート管理できるようシステムを整えており、部門全体をウェブによるネットワークで結んでいたデジタル化の先取りの展開が、今回の不測の事態に役立った。従業員全員がネット環境を整えられるようサポートした上で運用したが、現実に稼働しなければ見いだせなかった課題もあぶり出されたことで、実用性が一段と増した。課題の一つを挙げるとすれば、テレワークにおけるプライベートとビジネスタイムが絡み合った環境の中では、個人によってはメンタル面に不測の負荷が掛かることも考えられる。ふだん通りの内容の業務をこなすことで、時間の使い方にフレキシブルさが加味される利点もあるが、仕事の進行状況が見えていない環境においては、従業員によっては思わぬストレスを抱える可能性もある。業務プロセスが見えない以上、就業時間における仕事の進行具合の不透明さもあり、心に余計な負担が掛かる事態は避けなければならない。メンタル面は従業員のモチベーションを引き出す人財育成面にもつながることから、成果につながるアウトプットだけでなく、目には見えない貢献度も評価できる新しい勤務体制を構築していくことが今後の課題であると考えている。

【Eコマースについて】
時代的な流れもあって、通販サイトなどを経たEコマースへも力を注いでいく。分母はまだまだ小さいが、当社の製品のEコマースの売り上げの伸び率は倍増しており、ツイッターなどのSNSといったコミニケーションツールにおいてもフォロワーを大きく増やしている。売り上げ増に貢献するだけではなく、このデジタル時代において、情報発信の手法として有効であると考えている。昨年はワーク分野で「ウルトラマン」ブランドの商品展開をスタートさせたが、こういったアイテムの話題性の拡散にも効果が期待できる。このウルトラマンについては、新作映画の公開も予定されており、当社としては第2弾として、パソコンが入れられるバッグなどの発売を3月に予定している。当社としてはワーク分野でも〝集中と選択〟を進めているが、従来のワークという概念に必ずしもこだわることなく、デザインと実用性を備えたアイテムを提案していく上で、幅広い年齢層に親しまれているコンテンツだけにまだまだ伸び代は大きいと考えている。

【AI、IoTによる革新に向けた取り組みは】
ネットワークの充実はシューズ分野から始まり、次いで生産工程の分野での取り組みへと進化させる。そこで露見した前時代的な仕組みや状況については、AIやIoTを導入しながら改善していく。生産の進ちょく管理を一元化し、SW部門や自動車産業向けなどで管理している量的観点からビッグデータとなり得ることから、これを活用して改善していくためにもAIを導入していく必要がある。これだけのデータを保有していながら、活用することなく埋もれさせておくことは企業としての真価が問われる。

【今後の展望と方向性について】
今年の春以降に、コンピューターシステムを大きく変更させ、DX(デジタルトランスフォーメーション=デジタルによる変革)化を促進させる。ITの進化に伴って新たなサービスやビジネスを展開することでコストを削減し、働き方改革などに伴った施策を展開する。世界経済はコロナ禍の脅威によって打撃を受け、その試練を乗り越えるための施策を懸命に編み出そうとしている。移動の制限やコミュニケーションの制約、国境の分断などによって経済活動にばく大な影響を被り、これまでの社会生活において、当たり前であった行動が根底から覆されてきた。その対応に迫られ、リモートやウェブの重要性を再認識し、時間や距離にとらわれないデジタル技術の革新に拍車が掛かろうとしている。DX化も日常に溶け込むようになり、ある意味で次のステージに駆け上がる覚悟ができたようにも受け取れる。コロナ禍による災禍は、固定観念にとらわれない新たな社会生活の構築を迫ってきた。受け身から能動的な姿勢へと身を置き変えたように、あらゆる事態を想定して全力を尽くす。ウィズコロナ、アフターコロナ後は、DX化が加速した結果として、一段と進化した新しい社会が息づいていることを願ってやまない。