2021年3月15日

三洋化成工業
ABS樹脂の添加剤

耐薬品性付与に向け開発

三洋化成工業(安藤孝夫社長)は、少量添加するだけでアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂に耐薬品性を付与することができる樹脂添加剤「ファンクティブ」を開発した。幅広い用途で活用されるABS樹脂に耐薬品性を付与させることで、ABS樹脂のさらなる用途拡大に貢献していく。

ABS樹脂はアクリロニトリル、ブタジエン、スチレンが共重合した合成樹脂の総称で、〝耐衝撃性〟と〝剛性〟のバランスに優れ、成形性、作業性でも高い特性を発揮する。美観も良く、比較的安価であることからコストパフォーマンスに優れており、汎用性が非常に高いこともあって、家電製品や自動車部品、IT製品等の筐体など、幅広い用途で使用されている。しかしながら、ABS樹脂は非晶性樹脂であり、PPやPE、ナイロンなどの結晶性樹脂と比べると、耐薬品性が劣るという課題を抱えていた。

同社では現在、樹脂に導電回路を形成し、帯電を防止する「ペレスタット」「ペレクトロン」や、ポリオレフィン系樹脂の相容化性や無機フィラーの分散性などを向上させる「ユーメックス」をはじめとする樹脂改質剤を製造して販売。同社の得意とする界面制御技術および高分子設計・合成技術と、これまで培ってきた樹脂改質剤の知見を生かすことで、この課題の解決に挑戦。その結果、ABSの耐薬品性を向上させる樹脂添加剤の開発に成功した。

ABS樹脂は、溶剤などの薬品に接触することによって外観の劣化を引き起こし、クラックが発生する。そうした現象に対し、ABS樹脂にファンクティブを少量添加するだけで、ABS樹脂の耐薬品性を向上させることが可能。2~5重量%という少ない添加量によって効果を発揮できることから、機械物性にはほとんど影響を与えない。ファンクティブは、汎用グレードのABS樹脂だけでなく、難燃ABSやガラス繊維・炭素繊維強化ABS、ポリカーボネート(PC)とABSの複合樹脂であるPC/ABSなど、高機能グレードのABS樹脂に対しても耐薬品性を改善することができる。これらABS樹脂の耐薬品性を向上させることで、適用部材や適用できる印刷、塗装、接着などの種類が広がり、ABS樹脂の用途拡大に貢献できると期待されている。

拡大が期待される用途としては、自動車外装部材においては、ドアハンドル、サイドミラーハウジング、スポイラー、ラジエーターグリルなどのほか、塗料中の溶剤によるクラックを防止。加えて塗料の自由度、歩留まり向上にも貢献する。自動車内装部材では、コンソールボックス、ドアトリム、インパネなどにおいて、ユーザーが使用した日焼け止め剤やアルコール消毒により、ABS樹脂のクラック発生、表面劣化を防止する。家電では、洗濯機や冷蔵庫、テレビやパソコン、ゲーム機などのディスプレー枠など。洗剤の接触やアルコール消毒によるクラックの防止に威力を発揮する。住宅設備分野では、浴室、洗面台、台所など、洗剤等が接触する樹脂部材。

今後については、地球規模での温暖化対策が急務となる中、自動車産業などで温室効果ガスの低減を目的に、軽量化による燃費向上などが進められており、今後もABS樹脂をはじめとする高機能樹脂の需要が高まるものと予測。デジタル革命や、第5世代移動通信システム(5G)の本格化によって、デジタル機器などの躯体にも用いられるABS樹脂の市場はますます拡大すると見られている。同社では今後もさまざまなソリューションを通して、多様化する樹脂改質のニーズにこたえていく。