2021年6月25日

日本触媒
カルボン酸合成技術開発

カーボンリサイクル社会を実現

日本触媒(五嶋祐治朗社長)は、超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクトに取り組んでいる新エネルギー・産業技術総合開発機構(石塚博昭理事長、以下、NEDO)、産業技術総合研究所(石村和彦理事長、以下、産総研)、先端素材高速開発技術研究組合(北弘志理事長、以下、ADMAT)との共同により、計算・プロセス・計測の三位一体による技術開発スキームを活用し、高効率な触媒を用い、ギ酸とアルケンからさまざまな化学品の基幹原料となるカルボン酸を合成する技術を開発した。

今回開発された技術は安全で環境にやさしいカルボン酸の合成技術で、従来のような高圧条件を必要とせず、有毒で爆発性の高い一酸化炭素(CO)ガスや環境負荷の大きな添加剤の使用が不要。ギ酸は二酸化炭素(CO2)と水素(H2)から高効率に合成できることから、COを利用したクリーンな原料である。この技術が実用化されることで、CO2を炭素資源として利用するカーボンリサイクル社会実現への貢献が期待できる。

化学式(HCOOH)で表される分子量が最小のカルボン酸であるギ酸は、蟻の体から発見。最近では、水素貯蔵材料としても注目されており、その観点からCO2とH2からの合成法が数多く報告されている。ギ酸は液体の有機化合物で、安価に合成できる上、取り扱いも容易、CO2の利用拡大につながることから、既にクリーンな原料として工業的に広く利用されている。特にギ酸を使用したアルケン(炭素―炭素二重結合(C=C)を有する有機化合物の総称。エチレン系炭化水素、オレフィン、オレフィン系炭化水素とも呼ばれている)のヒドロキシカルボニル化(有機化合物にカルボキシ基(―COOH)を導入し、カルボン酸を合成する反応。今回の研究においては見かけ上、ギ酸がアルケンの二重結合に付加してカルボン酸を与える反応のことを指している)によるカルボン酸合成は、副生成物がないことから、環境やコスト面からギ酸の効率的な利用方法として注目されてきた。この合成反応は、生成するカルボン酸がポリエステル、PMMA(ポリメチル・メタクリレート)、高吸水性樹脂などといった高分子材料、医薬品、農薬などの有用化学品の基幹原料となるため、工業的な応用も期待されている。しかしながら、これまでに報告されている例では、高圧条件や有毒で爆発性の高いCOの使用、触媒以外にヨウ化メチル(有機化合物で、メチル基を導入するメチル化剤として汎用される試薬ながら、毒性・刺激性が高い)など、環境負荷の高い複数の添加剤を大量に使用することが問題となっていた。

こうした背景から、NEDOでは「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト」(2016~21年度)において、計算・プロセス・計測の三位一体による有機・高分子系機能性材料の高速開発に取り組み、その一環として、産総研、ADMAT、日本触媒と共同で、一段と安全で環境調和性の高いカルボン酸合成技術の開発にも取り組んでいる。これまでに、その設計指針を得る目的から、実験と計算科学で協働し、コンピューターによって、反応原料が化学反応で最終生成物に変化していく過程を自動的に見つけ出す手法である「反応経路の自動探索計算技術(AFIR法)」によって、触媒や反応基質、複数の添加剤が関与する複雑な反応の機構を解析してきた。その結果、反応初期段階での添加剤の役割を明らかにしたほか、カルボン酸の合成には反応系中のヨードニウムイオンの存在が重要であることが判明。この知見を生かし、今回、NEDOと産総研、ADMAT、日本触媒は共同で、2つのヨウ素配位子と一つのヒドリド配位子を持つロジウム錯体触媒を新たに開発し、添加剤を必要としないギ酸を使用したアルケンのヒドロキシカルボニル化を実現した。

今後の展開としては、今回開発した触媒系の反応効率をさらに向上させる目的から、ロボティクスを活用したハイスループット実験により触媒のさらなる改良を迅速で効率的に実施し、最終的には化学品の連続生産技術であるフロー合成に使用できる固定化触媒の高速開発を目指す。

日本触媒では、今回の研究成果の詳細を今月28~29日までの期間、新化学技術推進協会(JACI)がオンラインで開催する「第10回JACI/GSCシンポジウム」で発表する予定。