2021年6月25日

住友ベークライト
低VOCフェノール樹脂シート開発

10分の1以下にVOCを低減

住友ベークライト(藤原一彦社長)は、フェノール樹脂の特長を維持したまま使用時のVOC、環境負荷を低減することを目的としたシート状の熱硬化性レゾール型フェノール樹脂を開発した。従来の有機溶媒を使用した液状レゾール型フェノール樹脂と比較して、VOC削減による作業環境の改善が見込めるだけでなく、塗工の安定性など機能面での向上も期待できる。主力の自動車分野をはじめ、各種分野に熱硬化性の環境対応プラスチックとして提供していく。

熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂は、非常に高い耐熱性を備えていることから、200度以上の高温、長時間使用される用途においては100年以上前から使用。フェノール樹脂の中でもレゾール型の多くは溶液状で取り扱われ、各種繊維やフィラーなどの基材と高い接着性を示すことから有機繊維、金属、ガラスなどといったさまざまな基材のバインダーとして使用されている。しかしながら、溶液タイプのレゾール型フェノール樹脂を使用すると、有機溶媒系では設備の防爆対策やVOCといった作業環境が問題として浮上。比較的環境負荷の小さい水溶液系のフェノール樹脂も使用されるものの、保管中の粘度上昇や水溶性の低下など、保管や使用時の管理が難しくなるという課題があった。

この溶液状フェノール樹脂の課題に対して同社では、特殊なフェノール樹脂が、特定条件で加工することによって柔軟な未硬化のシート状として取り扱える事実を見いだし、VOC削減、保管安定性の向上が見込めるシート状フェノール樹脂の開発を進めてきた。

一般的なレゾール型フェノール樹脂溶液は、そのまま溶媒を乾燥させると粘着質な高粘度液体となり、そのままの状態ではシート形状にすることは不可能。熱硬化性であることから、板上に薄く塗工して乾燥(硬化)させることで、シート状の薄膜硬化物も得られるが、フェノール樹脂硬化物の欠点である硬くてもろい薄膜となり、シート状の未硬化樹脂として取り扱うことはできなかった。これに対して同社では、フェノール樹脂の変性技術を生かし、少ない変性量でフェノール樹脂の特長を強く残しつつ、シート化可能なフェノール樹脂を見いだした。このフェノール樹脂溶液を離型フィルム状に塗工し、乾燥させることでシート状のフェノール樹脂が形成される。

一般的な有機溶媒系の溶液状フェノール樹脂には50~70%の有機溶剤が含まれているが、今回のフェノール樹脂シートに含まれるVOC成分は5%以下と微小で、溶液状フェノール樹脂と比較して10分の1以下に低減されている。

フェノール樹脂シートはさまざまな使用法が想定されるが、一例としてプラスチック部品と金属やプラスチック製品同士の接着剤として活用。被着体にフェノール樹脂シートを貼り付け、別の被着体を押し付けて熱プレス等で加熱硬化することによって高い耐熱性を持つ接着面が得られ、250度以上の高い耐熱性が要求される部材では有用な接着剤となる。鉄板同士を接着した場合、溶液状のフェノール樹脂と比較して10%以上高い接着強度を示すことを確認した。これは溶液の塗工と比較して、均一な膜厚のシートを貼付することで塗工膜の安定性が向上するためであると考えられている。

耐熱性については、一般的な熱硬化性接着シートと比較した場合、エポキシ樹脂系接着シートにおいては、250度の熱処理後では接着強度が30%程度まで低下するが、今回のフェノール樹脂接着シートは250度熱処理後も95%以上の接着強度を維持することが可能。接着以外の使用方法としては、含浸用としてプリプレグやFRPのバインダーとしても想定されており、フェノール樹脂シートを基材に重ねて溶融、硬化させることによって、有機溶剤の使用や設備制限なしにプリプレグを作製することも可能となる。

今後は国外を含めてVOC低減、環境対応のニーズが高まる状況にあって、既存のフェノール樹脂からフェノール樹脂シートへの置き換えによる環境対応化を提案。これに加え、現在はフェノール樹脂を使用していない用途でも、高耐熱性や高強度など付加価値要求が高まっている自動車や航空機関連部材をはじめとするさまざまな産業分野への適用・実績化を目指し、国内外の各種産業分野への利用展開を図る。