2021年8月25日

【夏季トップインタビュー】アキレス
伊藤守社長

勝ち残りかけた戦略遂行
人に寄り添い社会的課題を解決

今期の滑り出しである第1四半期においては、前年同期がコロナ禍による大幅な需要減に見舞われたこともあって売上高、営業利益ともに好転、不透明感が色濃く漂う市場環境にあっても、勝ち残りをかけた戦略の遂行に余念がないアキレス。一般消費者になじみが深いシューズ製品をはじめ、感染対策用途のフィルムや医療分野で使われるエアーテントなど、近年、同社の手掛ける製品が社会的にも大きな注目を集めている。顧客の満足度向上と社会的課題解決への貢献を信条に、経営のかじ取りを担う伊藤守社長に話を聞いた。

【今期(2022年3月期)の現状について】
第1四半期の業況としては、前年がコロナ禍を受けて落ち込んだこともあり、全体の売上高、営業利益ともに好転している。一方、四半期純利益については、昨年は海外の子会社株式売却による特別利益を計上したことで大きく増加していただけに、ある程度減少すると見込んでいる。今期がスタートしてからの月次の売上推移を見ると、需要分野ごとに好不調の明暗がはっきり分かれている印象で、4月はおおむね堅調であったが、製品によっては5月でスピードダウンしたものもある。しかしながら、伸びが鈍化した分野でも6月に入って再び盛り返してくるというふうに需要の変動が激しく、例年以上に先行きを見通すことが難しい。いまだ収束を見ない新型コロナウイルス感染拡大の影響が障壁になっていると実感しており、今後もこれまで以上に市場の動向を注視しながら臨みたい。また、ここにきて原材料価格の高騰が続いていることも安定した収益の確保に向けて大きな懸念材料となっている。

【事業部別の状況としては】
シューズ事業の売上高も前年同期の実績を上回っている。昨年は緊急事態宣言の発出を受けて販売店の休業や時短営業の影響で当社の販売も落ち込んだが、前年に比べて市場環境が安定していることが販売の追い風となっている。しかしながら、一昨年の(コロナ禍以前の)水準までにはまだ需要は復調しておらず、近年、取り組みを進めてきた〝もう一段の収益性改善〟をさらに強力に推進することがシューズ事業の喫緊の課題だ。プラスチック事業の車輌向け内装資材については、世界的な半導体のひっ迫に起因する自動車メーカーの減産によって大きな影響を受けており、現時点では、どの程度のレベルでこの事態が収束するのかを見通すことが困難だ。ただ、自動車メーカーの生産が正常化していくことで当社の販売も持ち直していくだろう。

【さらなる拡大に期待をかけている製品は】
化成品事業部が展開する北米向けの医療用途のフィルムが好調で、現在もフル生産で対応に努めている。フィルム関連はほかにも半導体製造工程用のフィルム、省エネに貢献するLED製造用のフィルムなども好調に推移しており、当社の製品は優れた低汚染性など、医療分野や半導体分野の極めて高い要求を満たすことが評価の決め手となっている。また、半導体分野向けではウエハーの緩衝材や搬送用のケースなど搬送用システムをトータルで手掛けており、次世代通信システムの進展を背景に日本、韓国、中国、台湾といったアジア地域を中心に販売量が拡大しつつある。そのほか、感染症対策で使われるエアーテントや災害対策用のゴムボートも昨年は量が多く出たが、北米向けのボート製品も良かった。米国では〝密〟にならずに楽しめるマリンレジャーが再び注目を集めており、当社のボート製品も、その人気の復活に伴って需要の高まりを見せている。

【現状を打破するためのシューズ事業の取り組みについて】
近年、EC市場が急速に拡大していく中で当社のウェブによる販売も大きく伸びている。直近も140~150%と、当初に掲げた3年間で500%増の計画とはさほどかい離していない段階まで実績がついてきた。ネットショップに掲出する商品は売れ筋のアイテムに絞っており、販売効率も上がっている。ここ数年は大手小売店やGMSにおける販売量は減少しているものの、ウェブ販売をさらに推進し、全体の底上げにつなげていきたい。

新商品の開発の方向性については、大人向けの商材「アキレス・ソルボ」において、足に優しく歩きやすい基本的機能を踏襲しながら、デザイン面でより若い世代の感性に訴求することにチャレンジしている。ひと言で〝若返り〟と言っても消費者のし好は幅広いため、その〝公約数〟にヒットするミニマルファッションを体現したカテゴリーを立ち上げた。5月の連休明けから直営店でのテスト販売を実施しているが反応は上々で、これまでのリピーターとは違った層のお客様が来店していると販売員から報告が上がっている。新商品はこの8月から本格販売に踏み切ったが、いわゆるコンフォートシューズとしての良さはそのままに、ファッション性でもお客様のし好に追随する戦略を進めていく。

当社は婦人靴の開発にあたり、女性社員が自分で履きたくなるような靴を目指している。そのために女性社員が主導してサンプルの社内品評会も行っており、評価が高かったアイテムをピックアップして次の商品開発の道しるべとしている。

【地球環境への取り組みについて】
海洋汚染の問題を背景に脱プラスチックの動きが加速している中、当社はプラスチックの加工業として生産サイドでの取り組みから環境保全に足並みをそろえていきたい。具体的には従来と同等の物性を実現しながら、原料の置き換えなどによって省資源・省材料に向けた研究を推進しており、大学と共同研究契約を結んで配合面などの研究を行っている。一例を挙げれば、農業用ビニールフィルムは通常2年間ほどで交換が必要になるものを、耐久性を上げて製品寿命の長期化を図るなど、この数年間の研究で一定の成果を得ている。このように生産技術を向上させていくことで、サステナブルな社会の実現に向けた企業としての責任を果たしていきたいと考えている。

【アキレスの目指す企業像と今後の展望を】
今般のコロナ禍においては、店舗のレジで使われる間仕切用フィルムのほか、発熱外来の設営で数多くの医療分野向けテントが活用された。また、昨年の大規模な水害発生時にも大型救助ボートが救出作業で使われたり、避難所に身を寄せる人に少しでもゆっくり体を休めてもらうためのベッドマットレス製品を提供するなど、有事にお役に立てる製品と事業はまだまだたくさんあると考えている。これまでは製品によって事業部ごとの対応に努めてきたが、防災関連事業を取りまとめた組織を新たに立ち上げ、スタートさせる。当社はこれからも人に寄り添い、社会的課題の解決に貢献し続ける企業でありたい。社員が社会のお役に立っていることを自覚して、それを誇りに思えるような事業活動をこれからも展開していきたい。