新春トップインタビュー
TOYO TIRE
自ら視界開き、躍動に臨む
ありたい姿に向け
【昨年を振り返って】
昨年は新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るい、周囲の景色が一変した。国内では二度にわたって緊急事態宣言が発出され、当社の業績もクオーターごとに影響を受けた。ウィズコロナにおけるビジネススタイルの模索に迫られ、フェイス・トゥ・フェイスによる業務姿勢を重視しながらも感染の防止に向けて、技術のエンジニアを含めて全社的にテレワークに切り替えた。健康と事業継続に意識を奪われた一年であったが、視点を変えると業務の進め方における可能性の幅が広がり、多様な働き方を見いだすことができた。昨年は新たに公表した中期経営計画である「中計’21」のスタートの年でもあったが、この計画は数年後の成長を目指してロードマップを描いた従来型の計画とは違い、当社が持つ強みを明確にし、それによって将来のあるべき姿を見いだすための計画として策定した。差別化した技術を磨き、独自性の強い付加価値の高い商品を社会に提供していく。強みをさらに伸ばすと同時に〝持たざるを強みとして発揮する〟ことを目標としており、持てるリソースをフル活用する一方、持たざるを強みとしながら独自の存在感を放っていく。量を追うよりも質を上げ、規模の追求ではなく〝上質な利益向上〟という経営思想が流れている。顧客に寄り添いながら、差別化された技術によって当社が強みを発揮できる魅力ある高付加価値商品の販売に力を注ぐ。上質な利益向上を実現する重点商品を届け続けるためにも生産、販売、技術のギアが噛み合うようなビジネスモデルを構築し、一段と大きな存在感を放つ筋肉質な経営体質を構築していく。
【具体的な取り組みとしては】
収益力の低い汎用品を生産していたシルバーストーン工場を手放し、欧州における販売体制の構築に力を入れる。生産・供給体制の確立は中計’21の重点項目であり、2022年には欧州において当社8番目の生産拠点となるセルビア工場を稼働させ、乗用車・SUV向けのタイヤを年間500万本規模で生産する。セルビア工場で生産される製品の多くは、ドイツの欧州R&Dセンターにおいて設計、開発を行い、両拠点の連携によって高いコスト競争力と優れた性能を備えた高付加価値タイヤを供給する。グローバルな成長戦略を実現する最初のステップであり、欧州での地産地消を図ると同時に、当社の基軸となっている米国市場に対する供給の役割も担う。欧州市場で300万本、米国向けに200万本の乗用車ならびにSUV用タイヤを輸出し、米国市場においては当社が高い市場シェアを誇る大口径のワイドライトトラック用タイヤの生産に集中する。中計’21では全体に対して収益性の高い高付加価値商品の割合を55%にまで高める目標を掲げており、SUV向けなどで揺るぎない地位を築いている米国市場においては、その目標値を超えている。セルビア工場だけでなく、他工場からも供給し、幅広い製品に対する需要を補完することで、米国市場における存在感を一段と高めていく。欧州市場には、これまで日本の仙台工場とマレーシア工場から年間300万本を輸出していたが、セルビア工場の稼働に伴い仙台工場では抜本的なリノベーションを実施し、高付加価値工場へと進化させる。中国や新興国との競争を避ける意味からも従来の設備の入れ替えを行い、最新の設備によって生産面から品質の高付加価値化にシフトしていく。仙台工場では次世代タイヤ製造技術「A.T.O.M.」を稼働させており、当社グループの生産基盤のかなめとして引き続き重要な役割を担っていく。マレーシア工場においては、それまでの輸出分を最適な市場へと振り向けて供給することで、グローバル供給のハブ機能を強化させる。供給体制の再編と平行して各エリアでの重点商品を明確化し、その販売に集中して取り組むことで、供給力を最大の武器とした販売力によって各地区において大きな成果を上げていく。
【経営基盤の強化に向けては】
財務体制を強固にしながらデジタルイノベーション、サステナビリティ、人材育成に力を注ぐ。DXなどを取り入れ、デジタル技術を活用しながら収益構造改革を推進し、経営基盤を強化する。事業経営にサステナビリティやESG経営に対する考え方を一段と濃厚に取り入れ、事業を通じた社会価値の創出を図る。昨年4月には「サステナビリティ委員会」を設置し、社長自らが委員長として先頭に立って施策を練っている。カーボンニュートラルに向けては全社的なタスクフォースを立ち上げ、目的を定めて取り組んでいく。カーボンニュートラルへの取り組みは負の面に対する挑戦であり、時には矛盾を乗り越えるための大きな力を必要とする。タイヤの進化に向けた開発も相反する課題への挑戦という一面があり、われわれにはそうしたハードルを乗り越えてきた歴史がある。今後のEV化の流れを見据えた場合、タイヤに対しては軽量化が求められるが、ビッグサイズのタイヤを強みとしている当社としては、大口径タイヤの軽量化という技術課題を克服し、市場で一歩先んじる好機でもあると考えている。打って出ることが最高の成長戦略であり、自ら視界を開いていく姿勢で前に進んでいく。
将来像を見据えた人材育成も重要なテーマであり、新人事・育成制度の導入に加え、ジョブ型採用による人材ミックスの最適化・最適配置によって多様な人材が活躍できる体制づくりを行う。
【今後の展望と抱負について】
中計’21の初年度であった昨年は、一定の成果と手ごたえをつかむことができた。半導体不足による自動車生産の調整局面もあったが、リプレイスの高付加価値商品が好調に推移したことで、大きな収益を上げることができた。原材料価格の高騰に伴い、米国市場では4度にわたって値上げを行っているが、それでも売り上げは落ちていない。SUV用タイヤはもとより、高い価格水準の商品でもあり、消費者の購買意欲が価格よりも商品自体の魅力に向かっている限り、その商品は市場で求められ続ける。当社が掲げる規模の追求ではなく、上質な利益向上という独自の経営思想には、そうしたバックボーンが背景にあり、ユーザーと常に寄り添うことによって支持され続けるエクセレントカンパニーであり続けたい。今後に向けては、米国市場では引き続きおう盛なワイドライトトラック用タイヤの需要があり、バックオーダーも発生している。安定供給基盤を確立させることで需要を満たし、成長基盤を一段と強固にしていく。欧州でもタイヤは不足状態にあり、重点商品に販売を絞ってミックスを進めながら需要を満たしていく。現地市場における信頼度も高く、スムーズに拡販につなげることができると見ている。日本市場については、最近ではSUV人気の高まりがあり、国内でも需要の拡大に期待している。しかしながら、原材料価格や海運輸送費の高騰などといった課題のほか、新型コロナウイルスの脅威にも注視していく必要があるなど、決して予断は許されない状況にある。長くモヤの中にいるかのようにも感じるが、自然と晴れるのをただ待つのではなく、今年は〝自ら視界を開き、躍動に臨む年〟にしていきたい。当社ではこのように22年を位置付け、干支にあやかり、モヤをかき分け、千里を駆けていきたいと思う。見定めているありたい姿に向けて躍動を始める年、それが22年であり、役員や従業員一人ひとりが芯を持って力強く歩みを進めていく。