2022年1月25日

新春トップインタビュー
日本ゼオン

特殊ゴム展開強化
新規事業の方向性を明確化

【昨年を振り返って】
コロナ禍への対応もあって昨年4月から東京、名古屋、大阪の従業員については、リモートを活用した勤務体制を制度化した。常に自宅で勤務するだけではなく、各地に数カ所のサテライトオフィスを開設し、自宅の最寄りのオフィスでも勤務できるよう体制を整えることで、日常的な在宅勤務に対するストレスの緩和を図った。

業績面では、エラストマー素材事業、高機能材料事業といったいずれの事業部門も堅調に推移し、2022年度3月期の第2四半期(4―9月)の実績についても、前年同期と比べて増収増益となった。エラストマー素材事業は主原料の値上がりによって販売単価が上昇したことから増収となったものの、営業利益については伸び悩んだ。2021年度は、全社戦略として2030年に当社があるべき姿を定めて策定した新中期経営計画のスタートの年であり、社会からの期待と社員の意欲にこたえていくというビジョンの中身として、一つは持続可能な社会に貢献し続ける姿勢を描いている。もう一つは、社会にとって不可欠な製品やサービスを提供することで、チャレンジによって得られた成果を磨き上げていくという行動に重きを置いた。全社戦略としては①カーボンニュートラルとエコノミーの実現するものづくりへの転換②既存事業を磨き上げることと新規事業の探索③それらに向けた舞台を全社レベルでつくり上げていく。それぞれにおいてかなめとなる方策を設け、2021~2022年において推進し、2030年の目標に向けてまい進していく。

【現時点での中計の進ちょく状況について】
2021年度は、2030年のビジョンを見据えた上での基盤づくりの年でもあった。重点テーマであるDXの進展については、教育面も含めた施策に乗り出していくことができ、ウェルビーイング向上に向けても社員への教育や人事面の具体的な緒施策について検討し、今後の構築に向けた展開が期待できる。DXにおいては、さまざまな点においてこれまでの方策を変えていく必要があり、暗礁に乗り上げることによって、それまで歩んできた道筋が後戻りしないように注意を払いながら着実に進めていく。

コロナ禍を経たことで事業の新たな方向性も見えており、医療分野ではライフサイエンス用のシクロオレフィンポリマー(COP)、手袋用のラテックスなどは今後の一層の拡大に期待を寄せている。しかしながら、中国市場を中心とした競合の激化が懸念材料として大きく浮上しており、適正な在庫調整を念頭に置きながら事業展開を進めていく。

【今後の商品戦略についは】
特殊ゴムの差別化に向けた取り組みを徹底して行っている。NBRや水添NBR、アクリルゴムを中心にこういった品種を市場に残していくための可能性を模索している。現状ではほとんどが自動車のエンジン回りで使われているが、エンジンがなくなっても他の用途を含めた用途展開を開拓する。エンジン車はまだ東南アジアを中心に伸びていくと見込んでおり、急激な需要の減少はないものの先を見通した準備も進めていきたい。水添NBRについては、自動車以外の需要分野として、地中の油を掘削する時に使用されるパイプ間のパッキンに使われており、さまざまな分野で探索を行うことで、今後の展開に期待が持てる。汎用ゴムについても、差別化に向けたポイントを見極めながら推進する。低燃費タイヤ向けのS―SBRはEVの拡大が進んでも伸びる見通しにあり、ウエットグリップ性、転がり抵抗、耐摩耗性を一段と磨き上げながら低燃費タイヤのさらなる性能向上に貢献していきたい。

【カーボンニュートラルに向けての具体的な施策は】
当社の現状におけるカーボンニュートラルに向けた状況については、スコープ1(事業活動における直接分)、スコープ2(事業活動で使用した熱・エネルギーの製造段階における間接分)におけるCO2の排出量は72・2万㌧であり、これにスコープ3(これら以外のサプライチェーンにおける間接分)を含めた2030年までに削減していくCO2削減の目標値を現在策定している。手法としては、省エネと技術革新、燃料転換を軸に取り組んでいく方針で、これらの中でも燃料転換に最も軸足を置いていく。省エネについては、エネルギー消費量のバラつきを抑えることでかなりの効果が見込める。技術革新はヒートポンプなどを積極的に活用していく展開を考えており、これらの3つの対策で実現していきたい。遅くても本年度中には具体的なCO2の削減数値を設定し、目標値として掲げていきたい。まずは2030年度に向けた計画を先行して立案しており、省エネと技術革新と燃料転換をポイントとしながら2050年度には実現していく。

【今後の事業における取り組みと展望について】
重点施策としてはエナジー、COPのさらなる強化など既存事業に一段と磨きをかけることでROIC(投下資本利益率)9%以上を目指して推進する。福井の敦賀工場において、大型液晶テレビ向け光学フィルムの製造ラインの増設を行ったが、今回の増設は世界最大幅である2500㍉の能力増強となり、既存の1系列目と同能力の5000万平方㍍の計画であることから2系列合わせて1万平方㍍となる。既設の位相差フィルムの生産能力と合わせて、2億1900万平方㍍にまで拡大させる。当社のフィルムはCOPを使った高純度な製品であり、水分の吸着や透過が少なく寸法安定性も高い。こうした特長を備えたフィルムによって、引き続き大型液晶テレビ市場における需要の取り込みに力を注ぐ。新規事業についてはライフサイエンス、CASE・MARS、情報、省エネといった4つの事業分野を定めて新規事業の立ち上げをスタートしている。2030年度の仕上げに向けては目下のところ、さらにCOPとエナジーの重点化に取り組んで推進している。成長ドライバーであるエナジーは、半導体不足や中国による影響を受けている部分があるものの、世界的な見地ではさらに加速の方向性は変わらないと見通している。COPは医療ライフサイエンス向けへの拡大への取り組みにまい進し、特殊ゴムも用途展開に努めているなど、当社でないとできない特殊ゴムの展開を強化していく。

【これからの抱負について】
昨年、新中計をスタートさせたが、今年はその道筋を明確につけていく年にしていきたい。具体的には、既存事業の中でもエナジー、COPを中心とする重点化事業のメリハリをつけ、新規事業においても方向性を明確化していく。カーボンニュートラルについてもアウトラインを鮮明に描き上げ、バイオマスの技術のほかにも合成の技術を活用することによる炭素数の変化や燃料転換など、当社が得意とする技術を生かして推進していきたい。今期は通期の計画として、売上高3330億円、営業利益は420億円を見通している。下期はかなり苦しい市況になると想定しているが、各事業部とも目標値以上の成果の達成に向けて、気持ちを引き締めながら業務にあたっていく。