2022年4月25日

住友ゴム工業
解析時間を100分の1以下に短縮

実証実験に成功
トヨタの「ウエイブベイス」活用

住友ゴム工業(山本悟社長)は4月13日、オンラインを通じて「材料解析クラウドサービスを活用した実証実験説明会」を開催した。トヨタ自動車(豊田章男社長)が事業化に向けて実証実験を進めているクラウド材料解析プラットフォームサービス「WAVEBASE(ウエイブベイス)」を活用し、データサイエンスを駆使することで、ゴム材料開発に重要な先端研究施設から得られるデータの解析プロセスを効率化、解析時間を100分の1以下に短縮した。その実証実験の成功を受けて今後の展望等を交えて解説を行ったもので、説明会には同社から研究活溌本部分析センターの増井友美主査、間下亮主査、トヨタ自動車から先進技術開発カンパニープロジェクト領域ADPT WAVEBASEプロジェクトサービス基盤開発グループの矢野正雄グループ長、同プロジェクトの山口剛生主任が参加し、技術説明やデモンストレーションを行った。

ウエイブベイスの活用にあたっては住友ゴム工業が培ってきたゴムの材料解析における知見をトヨタ自動車と共有し、ゴムの材料解析に最適なプラットフォームのカスタマイズを進めた。住友ゴム工業は同サービスの継続利用を通し、AIやビッグデータをより効果的に活用することで創造的で生産性の高い研究開発環境を整え、持続可能なモビリティ社会の実現に貢献する安全・安心な高性能タイヤ開発につなげていく。

住友ゴム工業では、かねてより世界水準の最先端研究施設を活用した材料開発を推進。タイヤの開発にあたっては走行時にタイヤは常に変形していることから、〝材料がどのように変化し、機能しているか〟についての材料研究が、一段と高機能なタイヤゴム材料開発に直結する。計測技術の高度化に伴い、住友ゴム工業が実験で手掛けるデータ量は5年前に比べて約1000倍に増大している。現状では可能な範囲にまでデータを間引いて解析しているが、有効活用できていない未解析データは膨大。解析データの高密度化は、今後の高機能タイヤに求められる材料開発に不可欠であることから、大量の実験データをクラウド上で高度情報処理を行う技術であるトヨタ自動車のウエイブベイスに着目した。「住友ゴムさんが提示されるどのような大量のデータであっても、ウエイブベイスでふかんすることで一つのデータも無駄にしない」(矢野グループ長)。

ウエイブベイスはトヨタ自動車が実証実験中のクラウドサービスで、材料研究・開発における課題、すなわち取得された実験・計測データにおいて〝解析に多大な労力がかかる〟〝解析技術が属人的である〟、さらには〝データが点在している〟などといった課題解決を支援。データ活用コンサルティングの提供を通じて、実験・計測データの自動前処理・特徴量抽出とデータ管理基盤を利用者ごとにカスタマイズすることで、開発プロセスに溶け込んだストレスのないデータ活用を実現し、技術者のクリエイティビティの最大化、組織を超えたデータ活用の実践を後押しする。あらゆる製品の礎である素材の開発サイクルの加速・効率化と、その産業界全体への波及を支援するとともに、カーボンニュートラルをはじめとした持続可能な社会の実現に貢献する。

タイヤの材料開発における従来の先端実験におけるスキームは、外部の先端研究施設で実験を行い、データを自社内に持ち帰って解析し、実験室系分析装置の結果と合わせて考察。実験データが不足するようなケースが生じると、実験は半年先にまで長期化することから研究開発の加速の障壁となっていた。ウエイブベイスを活用することで最先端実験施設での〝現場〟におけるリアルタイム解析を実現。実験の時間的ロスを削減するだけでなく、実験室系分析装置で得たデータを融合した解析へと解析手法のカスタマイズを行うことで〝データの持つ意味〟にまで踏み込んだ解析を可能とした。エナセーブネクストⅡの開発時においては、結合剤の長さをわずかに変えるだけで耐摩耗性能を51%向上させることができたが、このわずかな変化による影響力の発見は、人間による知見とトライ&エラーによる取り組みの結果。ウエイブベイスでは、人間が見つけ出せなかったわずかな変化を見つけることができる。「データベースを用いて、ノイズだと思われていた課題を即座に解析し、わずかな変化の原因を解明することで物性向上に貢献する」(矢野グループ長)。

トヨタ自動車では、トヨタ自動車が持つ自動車に使われる材料開発のために培ってきたデータ処理技術を応用した、さまざまな材料解析サービスの展開を検討。そこで住友ゴム工業は「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」による解析力の一層の向上と、研究開発のDX推進を目的に、2020年6月よりトヨタ自動車と共同で実証実験を開始した。ゴム材料開発に重要な先端研究施設から得られるデータの解析プロセスを効率化することで今回、解析時間を100分の1以下に短縮することに成功した。これは「大型放射光施設であるSPring―8を活用していたときには4年間を要していた解析を2週間で行った実績から算出した数字で、材料開発のスピードアップが図られるだけでなく、人間では考え付かない事柄をウエイブベイスによって明確化することができる」(山口主任)。

今後、住友ゴム工業ではウエイブベイスを活用し、最先端実験施設での現場でリアルタイム解析を行うほか、さまざまな実験室系分析装置で得られるデータを統合し、ビッグデータとして解析、研究開発の効率化・高速化・省力化につなげる。「人手や研究開発スタッフが少ない環境においても、迅速な研究開発が実施できる体制を整えることができる」(増井主査)。加えて従来では気付くことができなかった新たな着眼点を得ることで、独自の材料開発技術「ADVANCED 4D NANO DESIGN(アドバンスド フォーディー ナノ デザイン)」を進化させ、さらに安全性能と環境性能を備えたタイヤの開発を目指す。