【夏季トップインタビュー】タイガースポリマー
澤田宏治社長
“正直であれ”を根幹とした事業展開
損得より善悪を重んじる価値観
【昨年6月の社長就任以来、一年余りを経た感想は】
当社では、かねてから製販の一体化を企業施策として推し進めてきたが、今の立場の視点から見ても、所期通りに浸透しているという印象を持っている。生産部門と販売部門は、手掛ける業務内容は異なるが、売り上げを伸ばすという目的は同じであり、同一の目標に向けて常に業務の研さんを続けている。生産と営業の一体感を醸成させることによって情報の共有化が促進され、考え方の基準も同じベクトルを描くようになる。事業を活性化させるという目的に向けてこの施策に対する期待度は高い。決算については新しい期を迎えたが、前期はコロナ禍からの回復を遂げたことで日本、米州、東南アジア、中国の全セグメントで売上高が増加した。利益面も全項目で増益となったが、ナフサ価格が高騰し続けるなど懸念材料も多く、今後の見通しとしては決して楽観視はしていない。
今期に入って第1四半期を経たが、事業環境は非常に厳しく苦戦を強いられた。今期の第1四半期は4~5月にかけて上海でのロックダウンによる大きな打撃を被ったが、6月には盛り返してきた。第2四半期もこの流れに乗っており、7~8月は上向いている。
【懸念されていた他の課題については】
ロックダウンも解除されたことで、供給体制も通常レベルに戻ってきているが、自動車産業を取り巻く課題としては、半導体不足が一段と深刻さを増している。半導体は自動車だけではなく、家電などにとっても不可欠なパーツであり、コロナ禍による巣ごもり需要によって、エアコンや掃除機などといった市況の良化に伴う工業用品の好調な流れにもブレーキを掛けた。半導体の供給サイドも自動車産業を優先する流れがあり、メーカーが稼働させている工場においても、制御スイッチなどが故障した場合、半導体不足の影響によって部品の取り換えが不可能な場合は、製造ラインを止めざるを得ない。半導体不足という問題による影響は、モノづくりの現場をも極限の状態にまで追い込んでいる。
【原材料の高騰やモノ不足への対応は】
原材料価格の高騰は歯止めがきかない勢いで進んでおり、確保さえ難しくなっている品種もあるなど、従来とは次元の違った原材料関連の問題として頭を抱えている。業界各社に漏れず、当社も自助努力では賄えない状態に陥っており、供給面にも影響をきたす懸念があることからゴムシートおよびチューブなどの押出製品全般は5月から、ホースについては7月からの値上げに踏み切った。顧客には迷惑をお掛けして本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだが、まさにギリギリの状況で踏ん張っている。使用する原材料の種類を見直すという選択肢もあるが、代替品が廃盤となるケースも珍しくはなく、結果的に価格が高騰しているとしても安定して確保できる従来の原材料を使い続け、値上げに踏み切らざるを得なくなっている。価格高騰も深刻な問題ながら、モノ不足も業界に大きな影を落としている。入手困難となっているフッ素ゴムは、その主な産出国である中国国内の需要が増えていることもあり、入手しにくい状況が続いている。
【今期の見通しとメーカーとしての信条については】
原材料の問題だけではなくデリバリー、エネルギーなどさまざまな課題を抱えながら、今期の計画達成に向けて懸命に取り組んでいる。足元の状況としては、米州の自動車部品は好調で、固定費の上昇などといった厳しい環境にありながら一層伸ばしていきたい。タイやマレーシア、メキシコも同様の状況にあるが、最も期待できる地域セグメントが日本市場で、産業用ホース、ゴムシートとも好調に推移している。土木工事の繁忙期は下期に訪れることもあり、公共工事も増加する傾向にある。今後の事業展開においては、環境対応への要請やEV化が強まる流れもあって新製品の開発に一段と軸足を置くことになるだろう。新たにバイオマス商品である「BMシリーズ」を7月に上市する。最近は納期に対する要求も厳しくなっていることから、生産拠点や物流網の再構築も視野に入れ、バランスを考えながら経営資源を有効に活用していく。事業の方向性としては、産業用ホースの海外展開を目指す。
当社では、損得よりも善悪を重んじる価値観を重視しており、利益を優先すると同時に、相手が得られる恩恵も常に念頭に置いている。特に〝正直であれ〟を企業理念としており、失敗であっても、誠心誠意に対応を尽くすことでプラスイメージへと変容する。そういった姿勢の積み重ねが着実に企業としての成長へとつながっていく。急激に業績を伸ばすことで生まれるひずみが〝他社や人に悪影響を及ぼす内容〟であれば、それは成長とは思わない。当社はあくまでも、〝正直であれ〟を根幹とした事業展開により、これからも企業としての正しい成長の道を歩む。