2022年7月25日

ダイセル
微細な対象の精密な温度測定

世界最小粒径のナノダイヤで成功

ダイセル(小河義美社長)と、京都大学化学研究所の水落憲和教授、藤原正規特定研究員、大木出研究員らの研究グループは、独自に開発したシリコン―空孔(SiV)中心を含む爆轟ナノダイヤモンドを用いて温度感度測定の実証に成功した。今回用いられたナノダイヤモンドの粒径は20ナノ㍍程度で、これまで温度計測が報告されているナノダイヤモンドの中で世界最小径となる。

近年、細胞内などの微小な領域の温度を計測できる温度プローブとして、ナノダイヤモンド中の発光中心が注目されている。これまでナノダイヤモンド温度プローブとしては窒素―空孔(NV)中心が盛んに研究され、高い温度感度が実証されているものの、光とマイクロ波を使って電子スピンを制御する必要があった。一方、SiV中心は鋭い蛍光スペクトルを示し、ゼロフォノン線のピーク波長・強度・線幅などの温度依存性を利用することにより、マイクロ波を使わずに光のみで温度変化を検出できるという応用上重要な特長を有していた。しかし、これまでSiV中心を用いた温度計測での最小粒径は200ナノ㍍であった。ダイセルは、大量に合成可能な爆轟法によってSiV中心を含む1ケタナノ㍍サイズのナノダイヤモンド(SiV―DND)を効率的に合成することに初めて成功していたが、今回、京都大学の水落教授らによる研究グループにおいて温度精密制御装置を構築し、ダイセルで製造、化学修飾等の処理を行ったSiV―DNDについて、ナノレベルの微小なSiV―DNDの高感度温度プローブとしての有用性を実証した。20ナノ㍍での細胞内小器官や細胞核内への導入、高い生体適合性、修飾の容易さといったナノダイヤモンドの特長を生かすことで、SiV―DNDの生体試料への導入やバイオイメージング、センシングなど生命科学分野等での応用が期待される。

なお今回の研究成果は、7月13日に国際学術誌「Carbon」に掲載された。