2022年8月20日

【夏季トップインタビュー】三ツ星ベルト
池田浩社長

新事業創出、新事業領域進出で新たな扉
ESG経営基盤に企業価値向上へ

【2022年の市況と業績について】
前期(2022年3月期)については、想定を上回る好調な結果で着地し、コロナ禍によって落ち込んだ市況の立ち直りが予想以上に早く進んだ。一般産業用のほか、農業機械向けも好調で、設備投資需要も持ち直しの様相を呈している。第1四半期も比較的好調を維持しているが、為替による追い風が働いており、この要因を除けば、前期の水準と同様の勢いで推移している。中国・上海におけるロックダウンの影響を受けたほか、米国で順調な伸びを継続していた多用途四輪車(ATV)の生産が、ユーザーの部品不足による減産の影響を受けたことで需要の伸びがトーンダウンした。欧州については、ウクライナ情勢による市況変動はあったものの販売は比較的順調だった。日本国内は自動車用、一般産業用ベルトはユーザーでの生産減の影響を受けたが、東南アジアは自動車用ベルトの売り上げが回復した。

【計画値前倒しによって新たに見直した中期経営計画(2021~2023年度)のポイントは】
大きな変更点としては〝財務体質の強化〟から〝資本効率向上〟へと資本政策の転換を図ったこと。かつては盤石な収益基盤の構築に軸足を置き、外的要因にぶれない強固な経営体質の構築を目指して粛々と努力を積み重ねてきたが、その成果がここにきて見いだされてきたこともあって、新たな経営戦略に舵を切った。売上高や収益の盤面の上に立った安定経営の追求から、資本効率にもこだわった新たな経営戦略によって成長路線の軌道に乗せる。新しく制定した中期計画期間の配当性向を成長投資への原資を確保した上、2年間限定で100%とし、ROEを8%にまでもっていく。資本効率向上によって企業価値を上げ、株主や従業員にも利益還元をもたらすことによって健全な成長を遂げ、2030年度の〝ありたい姿〟へと進化を成し遂げる。中期経営計画は、従業員を含めて全社一丸となって目標を目指すという位置付けであり、何としてでもやり遂げる志の下で進めている。数値目標(KPI)では、2030年度の売上高目標として1000億円を設定しているが、これについてはコア事業を中心にアクセルを踏み込んでやり遂げる。自動車部品においても、エンジン以外のユニットでの用途展開に向けた製品の拡販を進めている。KPIに対して現在までの実績の流れと成長戦略を全うすれば、現状での数値差は必ずや埋められる。

【海外における事業戦略については】
生産の再編を手掛けており、海外の各地における生産品目を見定めながら、見直しを進めることによって生産効率を上げていく。直近における大きな取り組みとしてはインド工場の新設であり、約8万平方㍍の敷地面積に約36億円かけて工場を立ち上げ、来年から稼働させる。インドの生産拠点は3度目の工場新設となり、キャパを向上させることで伝動ベルトだけでなく、新しい事業展開にも活用していく。海外の農業機械用ベルトの拡販に向けては、京都の綾部工場に大型の試験機を導入するなど事業拡大に向けたプロジェクトを進めている。製品の納入状況は、欧州の農機メーカーの製品へのスペックインによって進めており、米国でも展開を推し進めている。大型農機だけでなく、芝刈り機などといった小型の農機具分野でも売り上げの強化を図っていく。

【コスト増への対応について】
原材料価格は驚くほどの勢いで高騰しており、副資材や物流費の費用も上昇も続いている。そうした流れにあって当社では昨年から今年にかけて値上げを実施したが、それ以降も原材料価格高騰の勢いは衰えを見せていないことから、7月に再度の値上げ発表に踏み切った。原材料メーカーによって打ち出される価格改定のスパンは短くなっており、コストの負担が自助努力では賄えないレベルにまで達していることから再度の価格改定の実施を決断した。値上げの浸透により、製品の安定供給ならびに品質の維持・向上につなげていく。

【次代を見据えた現在の取り組みと、新製品・新事業展開に向けた展望について】
昨年12月に竣工させた滋賀工場の新工場棟において、伝動ベルトの構成材料の一つである心線の撚糸業務を始動させた。ベルト用の撚糸は非常に高い技術力が要求される工程であり、滋賀工場への投資は強みを生かして国内外の生産拠点への心線の安定供給を確固たるものにするとともに、販売の増強を図る。

KPIとして設定した2030年度の売上高1000億円のうち、100~150億円は新規事業の創出で賄うが、ベルト以外の領域でも既存技術とのシナジー効果などを引き出しながら新しい事業の創出や、新事業領域への進出を図ることで、新たな展開の扉を開くことはできる。電子材料においては、電子部品業界などへ導電ペーストを中心に拡販を進める。当社の銀系ペーストと銅系ペーストは、導電性、接着性、抵抗などの機能を有しており、スクリーン印刷による電極・回路形成および抵抗体形成、ディップ塗布による電極形成などの導電性接着に使用されており、さらなる拡販を目指す。既存技術においては、発泡射出成形による「ストラクチュラルフォーム(SF)」成形品における用途拡大も進めている。発泡成形によって厚肉樹脂の軽量化を図ることができ、大型で複雑な形状の成形品においてメリットを発揮する。寸法安定性に優れているという特長もあり、医療機器などの筐体などといった部分などにおいて採用案件が増加している。需要領域の拡大や新領域の掘り起こしによって需要が高まる可能性は大きく、今後はさまざまな分野において採用を広げていきたい。

【将来の〝ありたい姿〟に向けての足場固めとしての取り組みは】
ESG経営に基づいて企業価値の向上を図る。サステナビリティの要素を組み込んだ企業経営を推進し、カーボンニュートラルなどといった環境対応に対しても重要項目として取り組む。神戸事業所において、重油からガス(カーボンニュートラルな都市ガス)への転換を図ることでCO2削減に貢献する。四国工場では使用する電力を〝再生可能エネルギー電気〟に切り替え、屋上には太陽光発電システムの設置を予定している。当社では、2030年度の「ありたい姿」に向けた基盤強化の間として、ESG経営を推し進めることで持続可能な社会に貢献し、社会的・経済的価値の向上に取り組んでいく。