2022年10月25日

ブリヂストン
使用済タイヤの水平リサイクル

循環型社会に向け
セミナー通じ取り組み報告

【ブリヂストンが2050年に目指す完全循環社会】

ブリヂストンが2050年に目指す完全循環社会

ブリヂストン(石橋秀一Global CEO)は10月17日、オンラインにおいて、同社による「循環型社会に向けた〝水平リサイクル〟の可能性と使用済タイヤの現状・課題・今後の展望について」のプレスセミナーを開催した。日本リサイクルネットワーク会議によって1990年に制定された10月20日の〝リサイクルの日(10・ひとまわり、20・ふたまわりの語呂合わせ)〟を前に、日本におけるリサイクルの現状・課題、循環型社会に向けた水平リサイクルの重要性について解説する目的から実施。同社が取り組む、タイヤがタイヤに生まれ変わる未来〝タイヤの水平リサイクルの実現〟に向けた活動「EVERTIRE INITIATIVE(エバータイヤ・イニシアティブ)」についての解説も行われた。

セミナーには、リサイクル分野の第一人者である叡啓大学ソーシャルデザイン学部特任教授・神戸大学の石川雅紀名誉教授を招き、タイヤ業界以外の事例も交えながらリサイクルに向けた取り組みの重要性を解説。同社からは先端材料部門の大月正珠部門長、リサイクル事業準備室の岸本一晃室長が登壇し、同社が描くリサイクルの将来像などを示した。

初めに、石川名誉教授が「ネットゼロ社会実現のための水平リサイクル」のテーマで講義。水平リサイクルの事例としてアルミ缶、トレイ、PETボトル、詰め替えパウチ、マットレス、化粧品容器、ブルーシート、プラスチックキャップ、クリアフォルダーを紹介し、期待される今後の取り組みとしてタイヤを挙げた。リサイクルを目指す理由として「ネットゼロ社会に有効で、この社会においてサーマルリカバリー(燃料としてのリサイクル)は高価な選択となる」事情を訴えた。その理由として現在は、CO2の排出に対して費用を払う義務が課せられており、その価格はプラスチック樹脂価格と同水準。廃棄物処理費用の数倍に当たるという事実を告げた。CO2の大気放出を極小化させるためには、製品回収率(製品消費量に対する回収率)、炭素歩留まり(製品プラスチック中の炭素量に対する再生品中の炭素量)の両方が大きなテーマ。ネットゼロ社会では、石油化学品の消費時に資源としての回収率を上げ、再資源化を繰り返した後、サーマルリサイクルすることでCO2排出を最小限にとどめる。ネットゼロ社会においては現行のプラスチックリサイクル技術は通用しなくなっており、炭素歩留まりの高いシステムが必要で「リサイクルシステムにイノベーションを起こすためには、水平リサイクルの推進が有効」と力説した。その講義の内容を受けて「ブリヂストンが掲げるコミットメントと〝EVERTIRE INITIATIVE〟について」岸本室長が解説。同社が創業時から掲げている〝最高の品質で社会に貢献〟の使命の下、同社では、〝2050年にサステナブルなソリューションカンパニーとして社会価値・顧客価値を持続的に提供している会社へ〟というビジョンを掲げている。タイヤサーキュラービジネスモデルとして、〝創って売る〟タイヤ事業、〝使う〟ソリューション事業と連動し、〝戻す〟リサイクルのバリューチェーンを構築し、社会価値と顧客価値を両立させることで価値を最大化させる。〝創って売る〟パートでは〝ENLITEN(エンライトン)〟技術によってEV時代の新たなプレミアム環境性能と運動性能を両立させる。〝使う〟というパートでは、トータルライフ最長化、オペレーションコスト/環境負荷削減を実現。タイヤ工場で生産されたタイヤを運行業者などが使用する時点でモニタリング運行管理を行い、最適な使用条件を提供。可能な限りはリトレッドなどによってタイヤの商品価値を維持させる。台タイヤの劣化などによってリトレッドが無理な状態になるとタイヤチップに加工し、熱分解によってタイヤ原材料へと還元させる。同社のタイヤリサイクルへの取り組みであるEVERTIRE INITIATIVEでは「タイヤのリサイクルによってタイヤの価値が循環し続ける社会を皆さんとともに作り上げ、将来世代により良い地球環境を引き継いでいく」(岸本室長)。

引き続き、大月部門長が「タイヤの水平リサイクルの必要性と技術的課題〝ブリヂストンが目指す完全循環社会について〟」解説。日本における使用済タイヤの回収率は約94%と非常に高いものの、リサイクルの面においてはサーマルリカバリーが主体になっており、CO2排出量削減と資源循環の観点では大きな課題を残している。タイヤの水平リサイクルに向けては、タイヤの性能を最適化するために多岐にわたる原材料が使用されていることから、使用済タイヤをそれぞれの原材料に分離し、再利用する新たな技術が不可欠。タイヤ自体は合成ゴムや天然ゴム、カーボンブラックやシリカ、配合剤などで構成されており、ゴム単体においても、性能を引き出すためにナノレベルで制御された複雑な構造物となっている。この構造を壊してしまうリサイクルでは、元の性能が得られないことから、タイヤに生まれ変わらせるためには、新たなノウハウや技術の開発が必要。「分かりやすく言えば、食品のサラミをミンチにしてしまうと、再成形したとしても、さまざまな材料がバランスよく構成されているサラミの舌触りや味覚などが失われることで、全くの別物になってしまう状況に近い」(同)。ゴム単体を細かい粗原料にリサイクルする技術が確立されれば、再利用の幅が広がり、水平リサイクルの実現に近付く。しかしながら、世界的にも基礎研究すら進んでいないのが現状。同社では使用済タイヤを合成ゴムや素原料に戻す取り組みに挑戦している。異業種とも協業で取り組んでおり、精密熱分解によるケミカルリサイクルによるブタジエン等や再生カーボンブラックの生成、低温分解解重合による高収率リサイクル法の開発によるイソプレン等や再生カーボンブラックの生成、炭素回収およびガス発酵技術を用いたリサイクル技術の開発によるブタジエンやエタノール、熱分解による再生カーボンブラックを生成させる取り組みを行っている。精密熱分解によるケミカルリサイクルに向けては、事業規模222億円で実証実験・共同研究などを実施中。30年までには大規模実証試験を実施し、数万~10万㌧規模の早期事業化を目指す。低温分解解重合による高収率リサイクル法開発に向けては、事業規模19億円を投じ、世界的に確認できていない研究開発に挑戦している。炭素回収およびガス発酵技術を用いたリサイクル技術においては、独自の微生物を用いた発酵技術を開発し、使用済タイヤからエタノールなどといった化学品を製造、今後は合成ゴムの素原料となるブタジエンの製造するための技術開発に向けた挑戦を行う。