2023年5月10日

住友ゴム工業
水素エネルギー活用のタイヤ製造披露

再生可能置き換え
量産品を今年1月に発売

住友ゴム工業(山本悟社長)は4月18日、福島県白河市の同社白河工場で「水素エネルギーを活用したタイヤ製造のお披露目会」を開催した。同社ではタイヤ製造工程におけるカーボンニュートラルの実現に向け、加硫工程で必要となる高温・高圧な蒸気を発生させるために次世代エネルギーとして注目されている水素に着目。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成を受けて2021年8月から白河工場で実証実験を開始しており、同社の誇る高精度メタルコア製造システム「NEO―T01(ネオ・ティーゼロワン)」において水素ボイラーで発生させた蒸気を使用してタイヤを製造している。また、この製造システムの電力は駐車場の屋根に設置された太陽光発電で賄われており、従来までの化石燃料からこれら再生可能なエネルギーへの置き換えによって国内初の製造時(Scope1、2)カーボンニュートラルを達成したタイヤ、FALKEN「AZENIS FK 520」の量産を今年1月に開始した。

工場での製造設備公開に先駆けて開かれた説明会では、まずNEDOのスマートコミュニティ・エネルギーシステム部燃料電池・水素室ストラテジーアーキテクトの大平英二氏が来賓としてあいさつ。大平氏は「世界20カ国以上が既に水素利活用に向けた戦略を策定しており、現在準備を進めている国も数多くある。日本も2017年に水素基本戦力を策定しているが、先般、政府から改訂指示が出され、2030年には水素製造装置の国内外への導入、2040年には水素の利用量を現在から大幅に引き上げることなどチャレンジングな目標が掲げられている。水素の活用の意義としてはカーボンニュートラルの達成へ向けて大きな役割を担うことであり、これは世界的なコンセンサスとなっている。産業が生産プロセスの中で低炭素エネルギーの水素をいかに使用していくのかが課題であるが、実際にタイヤ製造システムにおいて実験を進めている住友ゴム工業さんの取り組みは、脱炭素エネルギーネットワークの構築に向けた重要な第一歩である」と深い敬意を示した。また、同じく来賓の産業技術開発研究所の古谷博秀研究戦略企画部次長(プロジェクトマネージャー カーボンニュートラル担当)は、「タイヤという製品を製造するとき、カーボンニュートラルを実現することはかなりハードルが高いと考えている。しかしながら、難しい目標だからこそ挑戦する価値がある。住友ゴム工業さんがこのチャレンジへの構想を描き始めた段階から歩みをともにしてきたが、水素を活用してタイヤをつくるというプロジェクトにいち早く着手し、ゼロエミッションで製造されたタイヤを実現させたことは福島県と日本が誇れる成果だ」と、これまでの同社の取り組みの進ちょくをたたえた。

引き続き山本社長が登壇し、「これまで当社は電力については省エネルギー、コージェネレーションシステムの導入、太陽光発電、グリーン電力の調達などを軸にCO2削減を進めてきた。しかしながら、加硫条件で求められる温度や圧力の高さから電力への置き換えは難しいため、従来から使用している天然ガスの代替エネルギーとしてたどり着いたのが水素であり、(水素は)化石燃料のように燃焼させてもCO2が発生しない。現在行っている実証実験では水素エネルギー使用時に発生するNOⅹ排出量のコントロールをはじめ、24時間連続稼働における課題の見極めと解消を行いながら燃料転換による有効性評価を実施している。また、水素エネルギーの導入と合わせて従業員駐車場に設置した太陽光発電でNEO―T01における消費電力を確保しており、これによって製造時カーボンニュートラル達成した量産タイヤを完成させることができた。今回の実証実験では、もう一つの柱として福島県内における水素の〝地産地消〟モデルの構築を目指しており、現在は郡山市内と浪江町の2つの調達先から水素を安定的に供給して頂いている。水素社会の実現に向けた実装モデルの確立は産官学の協力が成功のカギを握ると考えており、教育・研究機関からも学術的見地からのアドバイスを得るために講演会を通して情報収集に努めている。来年2月までは実証実験を続け、その成果が周知されていくことで、自動車関連だけではなく幅広い分野の製造業の参入やコラボレーションへと拡大していくことを期待している。水素エネルギーによるタイヤ製造が本格稼働した際には、確立した水素の地産地消のスキームをモデルケースとして、その技術を世の中に広く提供していきたい」と今後の方向性を示した。

山本社長の説明の後は齋藤健司執行役員タイヤ生産本部長が白河工場の概要を紹介。その後、お披露目会の参加者は製造現場へと移動し、実際に稼働しているNEO―T01でタイヤが作り込まれていく様子や、加硫工程で使用する蒸気を発生させる水素ボイラー、水素を輸送するためのトレーラーなどの関連設備をくまなく見学することができた。

同社では実証実験終了後、水素エネルギーの利用を白河工場の全工程へと拡大させていく考え。さらにはほかの国内・海外拠点への展開も視野に入れており、サステナビティ長期方針「はずむ未来チャレンジ2050」で掲げるカーボンニュートラルの達成に向け、グループの総力を挙げて取り組んでいく。