【夏季トップインタビュー】十川ゴム
十川利男社長
今期計画達成へ向けまい進
さらにスピード感を持って開発
十川ゴム 十川 利男社長
【これまでの業績について】
2023年3月期の業績については、価格改定を含め、売上高は前期比7・2%増となった。前期までは2021年度と2022年度の2年間で(コロナ禍以前の)2019年度の水準まで業績を戻していくという目標を掲げて推進してきたが、売上高についてはコロナ禍以前の実績まで取り戻すことができた。ただし、利益面においては、原材料・ユーティリティコスト・物流費などあらゆるコストの続騰に阻まれ、2019年度の水準まで回復しているとは言い難い。前期までの事業環境を振り返ると、依然、コロナ禍がもたらしたマイナスの影響は色濃く残っており、特に中国においては、年度後半で決行されたロックダウンによって業務の遂行に多大な支障をきたした。また国内においては原材料価格も品種によっては落ち着きを見せているものの、さらに上昇が見込まれるものもあり今後も先行きを見通すことが難しい。半導体不足などサプライチェーンの問題についても自動車業界では今なお解消できていない状況であり、自動車メーカーの生産調整によって商機の逸失を余儀なくされるなど、非常に厳しい外部環境が継続した。
今期がスタートしてから第1四半期を経たが、市場環境については好転した印象はない。しかしながら、業績面では計画に則った販売実績で推移している。通期においては前年比2㌽アップの計画を掲げて推進しており、原材料・ユーティリティコスト・物流費の高止まりや為替の変動といった先が読みづらい状況が続いているものの、そういった幾多の問題を抱えながらも懸命に取り組んでいる。第2四半期以降も少しでも早期に事業環境が好転することに期待を寄せながら、今期の計画達成に向けまい進する。
【主だった需要業界の市況と製品ごとの販売状況について】
前期では、ホース類の売上高は前期比11・1%増、ゴム工業用品類は同4・3%増、その他については同2・8%増とそれぞれのセグメントで増収となった。内訳を見ると、ゴムホースはガス産業用、油圧機器産業用、設備装置産業用、船舶・車両産業用、一般機械産業用など幅広い分野にわたって2ケタの増収となった。樹脂ホースは住宅産業用が伸びたものの、農業・園芸産業用においては前年を下回ったため、全体では横ばいとなった。型物製品はガス産業用が若干減少したものの、医療機器産業用が増加したことでトータルの売り上げを押し上げた。押出・成形品については自動車産業用、一般機械産業用の販売が増加したが、船舶・車両産業用が伸び悩んだことで微増にとどまっている。
【中国子会社の状況は】
ホースアセンブリ、型物を手掛けている紹興十川橡胶の2022年12月期の業績については、中国で実施されたロックダウンによって著しく事業環境が悪化し、売上高は前年比26・9%減と振るわなかった。日本向けの輸出製品については同3%増と持ち直したものの、中国国内における金型成形品と建機用燃料ホースの販売は前期を大きく下回った。今期上期においても厳しい市況が継続しており、コロナ禍が始まったころは中国からの輸出がストップしたことで現地のインフラ整備案件が活況を呈していたが、現在はそういった関連の需要は停滞しており、建設機械メーカーの生産も大幅に落ち込んでいる。今期の大きな方針としては日本向けの輸出製品の比率が高まると考えており、金型成形品に関しては国内ユーザーの生産が若干ではあるが持ち直していることから、下期は巻き返しを図っていきたい。
【現状の課題については】
各種製造コストの高止まりのほか、物流費の高騰も続いており、一層の生産効率の改善や歩留まりの向上に向け、今期も全力で取り組んでいる。また原材料関係については価格高騰もさることながら、材料自体の統廃合や環境規制による改廃などの問題が生じている。代替原材料については技術部門が検討を進めているものの、特に自動車関連においては一定の性能を担保するためには変更が難しく、目下の大きな懸案事項となっている。
一方、少子高齢化が進む日本においては人手不足の問題も深刻で、従来通りの採用活動では磐石な生産体制を維持するための人員確保が難しい時代を迎えている。工場ではベテランと若い従業員が中心で、次世代を担う中堅層の人数が薄いことも大きな課題となっており、引き続き自動化・省人化に向けた取り組みを強化しながら、労働環境の整備と改善にも努めていく。現場の温度管理や事務所・トイレなどの改築も行っており、従業員が気持ち良く働けて、いかんなく力を発揮できる現場の環境づくりに力を入れる。
【今後の拡大に期待を掛けている分野および製品は】
環境対応を主眼に置いた自動車用燃料ホースについては、逐次性能のブラッシュアップを念頭に開発に取り組んでおり、さらには自動車の電動化の流れの中にあって、EVで使われる電池周りの熱マネージメント用の部材などが製品開発の主軸となっている。自動車分野においては、新規顧客との開発品も生まれており、そういった開発を推進する目的から、シリコーン3Dプリンタや3Dスキャナーに加え、液状シリコーンゴム製造設備、特殊インジェクション設備なども導入した。医療分野向けにおいても、近年では引き合いが多くなっており、現在展開している製品からの派生製品などについても、さらにスピード感を持って開発に臨む。既存製品においては、輸出による新たな市場の開拓に力を入れる。今期の設備投資計画においては、老朽化に伴う更新のほか、新規需要に必要となる設備について逐次、導入を予定している。
【今後の展望と取り組みについては】
コロナ禍においては、社内外でオンラインによるコミュニケーションが定着化したが、5月からは新型コロナウイルス感染症が第5類に移行されたことに伴い行動規制も緩和されたことで、従来通り対面での営業活動を展開しながら、さらなる拡販を図っていく。一方、生産現場においては、原価低減に向けた改善活動に引き続き注力する。IoTやAIを活用しながら、一層の効率化を実現していきたい。また、事業推進の原動力である人財の育成については、モチベーションを高めるとともに、スキルをさらに磨くための取り組みを充実させたい。具体的には、社外セミナーや見学会への参加を奨励し、社内においても営業部門と生産部門、あるいは各工場間の交流を促進させ、業務に有益な情報交換の場と機会を増やしていくことで、組織全体の活性化へとつなげていきたい。