2023年8月30日

六菱ゴム
和田剛二社長に聞く

ユーザーと社会に貢献し続け100周年
歴史と未来の展望

製鐵・造船・産業機械・エネルギー関連など、多岐にわたる需要分野において要求性能を的確に満たす機能シール製品でユーザーと社会に貢献をし続ける六菱ゴム。大正11年の創業以来、1世紀の長きにわたって培われてきた独自の技術力と品質は海外からも高い評価を獲得しており、コロナ禍においては、海外土木現場へのウェラブルカメラを駆使した遠隔サポートや製薬工場でロボットとのコラボレーションによる完全自動化の一翼を担う製品開発といった時代の変化に追随する取り組みが需要業界からの確固たる信頼につながっている。一貫生産体制有する神戸工場を基盤とするアジャイル経営(迅速で俊敏な事業運営)で、PDCAを数多く回していくことが〝事業推進力の要〟と語る和田剛二社長に、これまでの取り組みと未来を見据えた展望を聞いた。

【昨年11月、創業100周年という企業としての大きな節目を迎えられましたが、これまでを振り返って】

当社は大正11年11月、神戸の地で工業用ゴムメーカーとしてのスタートを切った。無事に100周年を迎えられたのもお客様をはじめ、これまで当社を支えて頂いたすべての関係者のお陰だと心より感謝している。

当社の草創期において極めて重要な契機となったのは、昭和4年に設立された親会社、日本ヴィクトリック社のパイプジョイントで使用されるゴムパッキングの試作提携であった。しかしながら、当時の品質・技術水準ではなかなか仕様に適合するゴムパッキングが完成せず、2年の月日を要して承認に至った試作品も量産化への移行は難航。そんな時、当社の苦闘を知った日本ヴィクトリックの要請にて英国ヴィクトリック社の技術者ピッツ氏を現場の指導に派遣し、配合・製造・品質管理のスキルを高めてくれたことが当社のモノづくりの原点となった。この時、継承した密封技術としての「オートマチックシール機構」は、その後の回転体軸シールとしてオイルシールやダストシールなどさまざまな製品開発に生かされている。また、当社初のオリジナル製品となったガス・上下水道の管路で使用される止水栓「ヘキサプラグ」は、高い気密性能が市場の評価を獲得し、今なお作業者の安全確保に不可欠なロングセラー製品となっている。また、近年では集中豪雨時の浸水対策ニーズが高まりを見せており、ヘキサプラグの技術を応用した大口径シールドトンネル用止水壁「ヘキサゲートプラグ」は、雨水の暫定的な貯留用途で活躍している。シールド工法関連ではほかにも、シールド発進坑口への地下水流出を防止する「エントランスシール」などを展開しており、この技術はその止水性能が認められたことで、現在進められているフランスのパリ地下鉄工事をはじめ、これまで世界14カ国のトンネル工事の現場で採用された。

【そのほかの今後の拡大を期待する分野や製品について】
近年では全国的に記録的な豪雨が発生していることから、公共インフラや原子力発電所など重要施設の浸水対策強化が喫緊の課題となっている。耐水化の取り組みで最も求められる性能が止水性であり、当社としては今後も培ってきたシール技術をフルに使って、そういった課題の解決に貢献していきたい。東日本大震災における福島原発の被災後は、再稼働にかかわる新たな規制が適用されており、40㍍級の津波でも建屋への水の進入を許さないことや地震時の変位を吸収することなどの要件を満たす必要がある。こういった要求に対して開発されたのがハッチ止水装置「シェルカバーⅡ」であり、地上開口部に設置したキャスター搭載のふたをスライドさせることで、作業員の手作業で簡単に密閉することができる。また配管貫通孔止水装置「シールカバー」は、地震時の配管の変位を吸収して配管周りの浸水を食い止める。こうしたシステムの提案に力を入れていくことで、重要プラントにおける想定外の事故の未然防止にお役に立てると考えている。

【工場の体制について】
平成7年、阪神・淡路大震災によって工場が被災し、神戸市長田区から現在の複合産業団地(同西区)に移転して24年を経たが、移転前年の平成10年にはISO9001を取得、平成19年にはISO14001を取得しており、品質管理および環境対策のマネジメントには特に重点的に取り組んできた。社長をはじめ、入社3年以上の社員全員が関連資格を取得し、スタッフ一人ひとりが参画する意識を持ちながら業務の改善に日々取り組んでいる。

現在の工場では、従来のゴム関連の生産現場とは一線を画したクリーンな明るい環境の保持に努めており、ゴム製品の生産に伴う臭気などもほとんどしない。平成30年には一貫生産体制に必要であった検査棟も増設しており、工場を訪れたお客様に当社の技術を実際に見て頂けるように機能製品の展示も行っている。敷地内に隣接する日本ヴィクトリックの工場ともども視察して頂くことで、視覚的な面からも当社の品質へのこだわりを感じ取って頂ければと願っている。

米・TIME誌の企画でも注目

【アメリカTIME誌の企画において日本企業の一社として取り上げられましたが】
昨年100周年を迎えたころ、TIME誌が「2022最高の発明特集」を企画し、その中で〝現実社会の変化に対応する、オンライン化でグローバル展開する日本企業〟という特集記事が組まれ、当社も選ばれた日本企業7社に名を連ねた。当社が選ばれた理由としては、海外展開における現場取り付け指導にウェラブルカメラを導入して遠隔管理を実現したことや、製薬分野でのロボットとコラボレーションした工場の完全自動化に寄与する製品など、幅広い分野でオンリーワンな特許品を展開していることが評価されたという。固形製剤工場の搬送容器として日揮と共同開発した自動化対応は、上ぶたの密閉を従来の鋼製のクランプバンドからチューブシールに置き換えており、これによって開閉作業の自動化を可能とし、効率化も進んだ。特許については国内にとどまらず海外においても取得を進めている。ほかにもニッチな取り組みとしては、LNG船の安全弁のメンテナンス時に一時的にタンクと安全弁を隔離する「アイソレーション バルーン タイプⅡ」などがある。これはゴム風船の膨張・収縮によって管路を遮断することができるシステムで、主要5船級を取得していることで安全に使用して頂ける。こうした独自性の強い開発品を海外展示会でも随時紹介しており、お客様におかれてはコストメリットも高いことで多くの引き合いが生まれている。

【今後の課題と展望を】
現在、最重要課題と位置付けてDX化の推進に取り組んでおり、令和3年に当社、日本ヴィクトリック、グループ会社のジャビコの3社合同DX化「お客様感動作戦」プロジェクトを立ち上げた。3社から選抜された情報システムやIT関係に長けたスタッフを中心に構成されており、組織体制としてはDX化プロジェクトの下に「営業部お客様感動作戦プロジェクト」「神戸工場お客様感動プロジェクト」「デジタルコーポレートブランディングプロジェクト」の3つの組織を配し、3社を横断する業務改善活動を推し進めている。プロジェクトの根底にある大きな指針としてはお客様に常に寄り添い、付加価値の高い製品をスピード感を持って開発・提供していくためには〝アジャイルを行うのではなく、アジャイルになれ〟という気概を持って全社が一丸となって進んでいきたい。

100周年という一つの区切り目を迎えても、それはあくまで通過点だととらえている。今後も次のステージへと進むべく俊敏性を伴ったアジャイル経営を推進し、PDCAを数多く回して常に価値ある製品をお届けできる、お客様と社会に貢献し続けるメーカーへと進化を遂げていきたい。