2023年9月10日

【トップインタビュー2023】
ニッタ 石切山 靖順社長

ネットワーク最大限に活用
新事業育成、既存事業強化図る

ニッタ 石切山 靖順社長

ニッタ 石切山 靖順社長

【今期(2024年3月期)のこれまでの業況について】
第1四半期の決算については、自動車関連が半導体不足の解消に伴って回復が進んだことと、物流分野では大手EC事業者における搬送ラインの改修案件などが堅調に推移したことで、前年同期比3・3%の増収となった。一方、利益面においては原材料高騰をはじめとするコストアップが収益の足かせとなり、また半導体製造装置向けが減少したこともあって2ケタの減益となった。セグメントで見ると、ベルト・ゴム事業は国内の物流関係の需要がおう盛であったことで比較的堅調に推移したものの、ホース・チューブ製品事業では、これまで活況を呈した半導体業界向けがユーザーの生産調整によって伸び悩んだ。半導体関係は年度後半には徐々に需要が持ち直していく見通しだが、昨年の水準まで取り戻していくにはまだ相応の時間を要すると見ている。そのほか段ボールなど紙工業関係はグローバルで堅調であったが、国内では浪華ゴム工業が手掛ける医療関係が前年同期の実績を上回った。ニッタ化工品の事業についても鉄道部品の販売が好調に推移している。またエラストマー製品やOA機器向けの需要も回復が進んでおり、コア事業であるベルト・ゴム事業とともに総じて化工品分野は堅調であった。第1四半期を経た感触としては、これまで売り上げをけん引してきた北米市場にブレーキがかかったものの、欧州と国内全般の動きが良かったことで、想定よりも売り上げを伸ばすことができた。足元の状況としては、第2四半期以降は北米の物流関連も盛り返しの兆しを見せており、今期計画の必達に向けて取り組んでいる。

【中国市場の現状と今後の見通しについて】
国内の建設機械向けホースは堅調さを維持しているが、中国での販売は鈍化している。自動車関連についても半導体不足の緩和に伴い回復の道をたどっているものの、従来のように利益に大きく貢献してくれている状況とは言い難い。メカトロ製品も、これまでEV車製造ラインで拡販を進めてきたが、今期第1四半期では需要が一巡したことで一服感が漂っている。今後の中国の市況については現時点で見通すことが難しいが、ホース・チューブ製品は日系建機メーカーの販売比率が高いので、今後はローカルメーカーへの拡販に一層力を注ぐ。一方、自動車分野では新エネルギー車への対応強化に努める。フューエルチューブに加えて中国では実績がなかった冷却配管の採用を増やしていきたい。そういった施策を講じていくことで、年度後半に向けても中国現地の販売が大きく落ち込むことがないように踏ん張っていく。

【中長期経営計画「SHIFT2030」の進ちょく状況は】
計画を策定した時点では、コロナ禍の影響は織り込んでいなかったので、直近において事業部ごとに戦略の見直しを図った。2030年度の最終目標および各フェーズの定量目標については据え置く。

今期の業績予想、売上高890億円、営業利益50億円、経常利益120億円も変更なし。

【現状の課題を挙げるとすれば】
SHIFT2030の推進にあたっては、海外展開の強化は大きなテーマの一つである。当社では北米、南米、欧州、アセアン、インド、中国、台湾、韓国など世界中に拠点があり、そのネットワークを最大限に生かしながら、ベルト製品だけではなく化工品、ニッタ・ムアーの事業、エアクリーン製品といった優位性のある製品をグローバルに拡販していく。

【さらなる成長に期待をかけている分野と製品は】
自動車関係ではエアブレーキチューブなど、内燃機関で使われている製品以外の拡大を目指す。これに加えてEV向けでは、新規のアプリケーション開発にも取り組んでおり、EVやFCVといった次世代自動車向けの樹脂チューブ製品において、さまざまな車載レイアウトに適合するラインアップを取りそろえてユーザーのニーズに的確にこたえていきたい。

CNT複合化技術「Namd(エヌアムド)」については、奈良工場で第8棟目となるNamd製造棟が5月に稼働を開始した。現在は標準化に向けた量産試作をスタートさせている。分散カーボンナノチューブを炭素繊維に複合させる独自技術によって強じんなしなりと急激な復元力を有する性能が評価につながっており、まずはスポーツ用品分野で先行しているが、今後は一般産業用での用途開拓を目指す。

ライフサイエンス分野では、蒸気化過酢酸除染装置を用いたBSC(バイオセーフティキャビネット)の除染サービス事業が立ち上がった。他のバイオ除染方法と比べて作業者への安全性が高く、簡便で迅速なバイオ除染が可能であることから、今後再生医療の現場などでの採用が見込まれる。

また、新分野における事業創出については、「新事業探索チーム」が活動中だが、事業化の検討に値するテーマが生まれつつある。こういった取り組みをさらに加速させていくことで、さまざまな方向性から新たな事業の芽を育て上げ、既存事業の強化と併せて次のステージでの飛躍を目指す。