2023年9月20日

住友ゴム工業
世界最速890ナノ秒で微粒子と高分子を同時捕捉

高精度タイヤゴム
劣化評価の実現に近づく

住友ゴム工業(山本悟社長)は、同社における研究開発本部分析センターの岸本浩通センター長らの研究グループによって、タイヤゴムをサンプルとし、標識することなく、タイヤゴムに使用されるフィラーの一つであるカーボン微粒子と高分子の動く様子を、世界最高速度890㌨秒(10億分の1秒)の時間分解能で計測することに成功した。計測には、ドイツのハンブルクに設置されている欧州X線自由電子レーザー(European XFEL)を使用。タイヤゴムのような複合材料系では、異種成分間の界面付近における微粒子や高分子の動きを把握する手順が、タイヤの性能を評価する上では重要。今回、同研究グループは世界で初めて、ナノ秒レベルで原子サイズの高精度の分子運動計測に成功した。これによりタイヤゴムの性能評価を行う目的で、微粒子と高分子の動きの観察が可能となった。今回の計測法の活用により、ゴム劣化の早期診断や耐久性を向上させる材料開発などにおいて時間短縮への期待が高まる。

今回の研究成果は、今月4日(米国東部夏時間)に米国物理学協会が発行する学術論文誌「Applied Physics Letters(APL)」のオンライン版へ掲載された。

欧州X線自由電子レーザーを用い、世界最高速度890㌨秒の時間分解能で、タイヤゴム中のカーボン微粒子と高分子(ポリブタジエン)の動きの同時観察に成功。微粒子と高分子の複合材料について、各成分の運動計測を原子サイズの高精度で実現、両者が接する界面付近の結合状態が異なることによって両成分の動きも変化することを実証した。今回の計測法は、複合材料においても各成分を高速度高精度かつ同時に分子動態計測することが可能、特に微粒子を用いた極めて多様な材料系の評価法として非常に有効となる。

さまざまな産業から日常生活に至るまで、幅広く利用されているタイヤゴムにおいては、これまで以上に高い機能性や耐久性へのニーズが上昇。特に、タイヤのグリップ性能や耐摩耗性能は、分子レベルの構造的特徴や複合材料における微粒子の分散性、母材である高分子(ポリブタジエン)との成分間の相互作用に依存する。ナノ秒レベルの時間分解能での分子の動きの把握が、構造と機能の関係を理解するためのカギを握っているが、従来の技術では、X線情報が平均化されることで、微粒子と高分子それぞれの運動特性を抽出した成分間での動きを厳密に比較することは不可能であった。そのため、タイヤゴムの個々の成分の動きについて、高精度で高速度という要素を同時計測可能な技術が求められていた。

今回の発表概要は、東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻の佐々木裕次教授(産業技術総合研究所先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ特定フェロー兼務)、茨城大学大学院理工学研究科物質科学工学領域の倉持昌弘助教によるもので、18年に佐々木教授らは単色X線を利用した回折X線ブリンキング法(Diffracted X―ray Blinking・DXB)を世界で初めて提案、生体分子をモデルとして1分子の内部運動を高精度にとらえる取り組みに成功した。DXB法は、生体分子だけでなく無機・有機の材料が複合的に絡み合い、複雑な動きを示すタイヤゴム系の分子に対しても、原理的に有効。X線2次元検出器で得られたハローを含む回折像において、1ピクセルごとに自己相関解析を行い、検定と信頼性評価を経て分子の運動情報を算出した。

今回の研究では、タイヤゴムの主要成分であるタイヤゴム内部のカーボンブラック(直径50~80㌨㍍)と高分子(ポリブタジエン)に着目、DXB法を用いることによって、各成分が動く様子とこれらの相互作用の様子を世界最高速度となる890㌨秒の時間分解能で観察した。これらの回折像から、カーボンの回折リングと高分子からのX線ハローを確認することに成功。これら回折領域に対して自己相関解析(Auto―Correlation Function・ACF)を実施し、微粒子および高分子構造の動きに関する減衰係数を抽出した。

その結果、世界で初めて、カーボンと高分子間の相互作用に関連したそれぞれの分子の動きの変化を同時に検出することに成功。異種成分間の界面付近では、各成分の動きが異なることを実証した。

今後の展望としては、タイヤゴムの劣化プロセスの重要な現象の一つが、計測された異種成分間の界面の変化であると考えられていたものを、今回の高速DXB計測によって、材料を構成する分子構造の特異的な運動性と、分子の周りの環境でその運動性が変化することを確認。今後はこれらのデータを基に、より合理的で高い耐久性のある材料設計の指針の提供を可能にしていく。