ダイセル
米ファーマジェットと資本提携
医療業界本格参入
新会社設立、事業戦略発表
ダイセル(小河義美社長)は、ライフサイエンス分野の事業拡大を加速させるため、無針注射器のグローバルリーダーである米国のスタートアップ、ファーマジェット(Chris Cappello社長)と資本提携を行うことに合意した。併せてダイセルは、今月2日付けで医療事業に特化した「株式会社ダイセルメディカル」を設立。同社では今回の戦略的資本提携と、新会社設立によって医療業界への本格参入を目指す。10月13日には、ダイセル東京本社(東京都港区)とオンラインでライフサイエンス分野における事業戦略、ファーマジェットとの連携ならびに新会社設立に関してファーマジェットと共同で記者会見を開催した。
会見の冒頭、小河社長は「当社は健康というジャンルに関して、過去にヘルスケアもさまざま行ってきたが、ダイセルメディカルという形として一つの会社を興したいという思いがあった。その中で、ファーマジェットと強力な資本提携関係に入り、シナジー効果を出してもっとダイセルメディカルというものを具現化していきたい。今日を一つのきっかけとしてダイセルは医療事業分野に大きく一歩踏み出そうとしている」と、述べた。
続いて、ライフサイエンス事業に関する全体戦略について、ダイセルのライフサイエンスSBU長・坂野誠治執行役員が説明。ダイセルの中で最後につくられたSBUとしてライフサイエンスSBUが今年の春発足。元々はキラルカラムと製剤事業、メディカル事業を統合した形でスタートした。全体戦略としてはガス発生を駆動力として、針を用いることなく薬液を特定の組織内に送達する技術「アクトランザ」を事業化し、コアとして進めていく。「ファーマジェットとの資本提携については同社の開発ノウハウと人脈、会社との開発の経緯に加え、DDS(ドラッグデリバリーシステム)デバイスとしての無針インジェクターと注射薬、ワクチン向けのDDSデバイス、遺伝子医薬デバイスの将来性にかけ今回、出資を決定した。医療機器の専業会社として、生産や日本の薬事承認等を取るためにはダイセルメディカルという子会社をまず設立し、法規制対応をスムーズに行って意思決定を早く行う体制を整えるべきだと考えた。今後は事業開発、製品開発などをともに進め、新しいDDSデバイスとして遺伝子治療分野やワクチンの分野にこれから進めていこうと考えている」(坂野執行役員)。
今回、資本提携を行うファーマジェットの概要についてCappello社長自らが説明を行った。同社はコロラド州ゴールデンに本社を置くバイオテクノロジー企業。製薬会社が直面する課題を乗り越える手助けをするための精密・送達システム「プレシジョンデリバリーシステム(PDS)」の設計・開発を行っている。同社が開発しているテクノロジーは商業利用できるもので、医薬品の治療薬のパフォーマンスの向上等に取り組んでいる。これまでに数千万本の無針注射器を供給し、世界中に80を超える製薬会社とパートナーを有している。特に、核酸医薬品等の領域においてPDSはより良い臨床反応を得られることが証明されている。同社は世界でも唯一、無針の送達システムの領域でFDA認可、CEマーク、WHOのプリコーディフィケーションを取得している。
Cappello社長は「われわれの取り組みを通じて人々にグローバル規模で生命を救う医薬品に対するアクセスを改善、より多く提供するということを行っており、今後はダイセル、ファーマジェットで協力してこの取り組みを進めていきたいと考えている。このパートナーシップを足掛かりに、世界的な医療の高度化に資することができると考えており、世界各地で生命を救うワクチン、医薬品に対するアクセスを協働して拡大していきたいと考えている」と述べた。
ダイセルメディカルの設立については、同社の社長に就任した伊藤宣昭氏から説明が行われた。
「ダイセルのコア技術を使い、無針注射器の開発を進めてきている。3年前、コロナワクチンのプロジェクトに対してデバイス提供を行い、弊社のデバイス開発が一気に加速した。医薬品の開発を行っている製薬会社、研究機関から広く認知され、弊社のデバイスを医薬品の開発に使いたいという声を多数頂いた。そういう顧客のニーズにこたえるために今回新会社を設立し、弊社でデバイスの薬事申請を進めていく意思決定をした」(伊藤社長)。
ダイセルメディカルは、ダイセルの東京本社(東京都港区港南2―18―1 JR品川イーストビル)内にあり、事業内容としては初年度は医療機器の設計、開発、製造販売、輸出入、保守、メンテナンスに注力していく。設立時の資本金は1億円で、社員は8人(設立時)。医療機器分野に精通した人財を集めている。これにより、早期に製造販売業許可申請を進め、ダイセル播磨工場で製造業許可を取得し、医療機器販売体制を整えることを目標としている。さらにファーマジェットとの戦略的資本提携によって、米国のFDA申請の準備を推進し、日本とアメリカの2大市場でダイセルメディカルとして医療機器の販売体制を整えていくことも目指す。