2023年11月30日

住友ゴム工業
「アクティブトレッド」技術説明会

技術革新の方向性示す

住友ゴム工業(山本悟社長)は11月16日、東京都千代田区の鉄鋼カンファレンスルームにおいて、水や温度といった外部環境の変化によってゴムの物性をスイッチさせる独自のタイヤ用ゴム材料「アクティブトレッド」の技術説明会を開いた。

技術説明に先だってあいさつに立った村岡清繁取締役常務執行役員は、「当社ではスマートタイヤコンセプト(未来のモビリティ社会で求められる安全性能、環境性能を高い次元で両立するタイヤを開発するための技術開発コンセプト)の要素であるアクティブトレッドを開発し、この技術が搭載された次世代オールシーズンタイヤを2024年秋に発売する。実際の技術開発においては、性能達成のために解決しなければならない幾多の課題をパートナー企業や大学と協業しながら、シミュレーション解析技術、素材開発・配合技術、最先端のAI技術を組み合わせることで乗り越えてきた。アクティブトレッドに用いた各技術の説明を通して、当社の商品開発の方向性と持続可能な社会の実現に向けた取り組みへの理解を深めて頂きたい」と述べ、同社の技術革新の方向性を示した。

引き続き、技術の詳細な説明は上坂憲一材料開発部材料企画部長が行った。冒頭、上坂氏は「アクティブトレッドの開発背景としては、晴れ、雨、雪など天候によって路面環境は変化する。その変化に1種類のタイヤで安全に走行するには限界があり、そうした路面の変化は〝安全・安心〟な運転の確保への不安要素となる。当社としては、従来の常識を覆し、ドライバーの安全な走行に貢献できる技術開発に挑んだ。これまでは路面状況の変化に対して、低燃費、高性能なサマータイヤや、スタッドレスタイヤなど性能バランスを変えることで対応を図ってきたが、一方でタイヤの交換の手間や複数のタイヤを保有することはドライバーの負担にもなる。そこで一つのタイヤでありながら、路面環境変化に応答して複数の性能を持たせるという新しい発想でアクティブトレッドの開発をスタートさせた」と開発経緯を語った。

アクティブトレッドには、ゴムが水に応答して軟らかくなることで滑りにくくなる「TYPE WET」と、低温でゴムが軟らかくなって滑りにくくなる「TYPE ICE」の2つの技術がある。水で性能がスイッチするTYPE WETの開発は、晴れの日と雨の日のブレーキ距離を同等にすることを目指して推進。乾いた路面と濡れた路面で同様のグリップ性能を発揮することで雨天時の不安の解消にこぎ着けた。ゴムのグリップ時には、アンカー摩擦(凸凹への引っかかり)、粘着摩擦(接触面での粘着)、ヒステリシス摩擦(変形によるエネルギーロス)があり、いずれもウェット路面やアイス路面ではその影響が小さくなり、グリップ力が低下してしまう。アンカー摩擦と粘着摩擦はゴムの軟らかさ、またヒステリシス摩擦はゴムのエネルギーロスが重要なファクターとなっており、ゴムの軟らかさとエネルギーロスを路面環境の変化に伴ってスイッチさせれば、いかなる路面でも高いグリップ力を発揮することが可能となる。開発においては、摩擦中のゴムの変形状態からゴムの最表面ほどグリップに寄与していることを確認。そこで最表面のゴム物性を変えてテストすることで、ドライ時とウェット時の摩擦力が同じになる物性値を見いだした(硬さは40%減少、エネルギーロスは13%増加)。具体的な材料設計に向けては、スーパーコンピューター「富岳」をはじめ同社の保有するさまざまなシミュレーション技術を駆使。また、実際の材料の作成についてはENEOSマテリアル、クラレ、信越化学工業との協業で複数のイオン結合性材料を開発した。

技術的なポイントとしては、晴れ(乾燥)と雨(水)のスイッチを状況に応じて繰り返し発現させることにあり、これはイオン結合の導入により実現。またスイッチに要する時間とトレッド再表面だけの切り替えについては、水浸透ネットワーク構造の導入によってクリアした。水中でのゴム高度の測定では2分で20%軟化、60分で34%の軟化という測定値を得ており、スイッチに要する時間については今後もさらに最適化を図っていく。また乾燥と水浸透時の繰り返しによる測定においても、スイッチは繰り返し発現することを確認。水による軟化を生かしたエネルギーロスの制御に向けては、ポリマー同士の擦れ、ポリマーとフィラーの擦れ、ポリマーと添加剤の擦れによってエネルギーロスを発生させる仕組みを確立した。

もう一つの温度によるスイッチ技術、TYPE ICEについては、氷上などの低温時で軟らかくなるという、これまでの概念を覆す材料の開発に挑戦。新素材の開発にあたっては北海道大学との共同研究で推進しており、スイッチ特性の実現に向けては樹脂と軟化剤のブレンドで素材を構成している。樹脂と軟化剤の混ざり方を温度に対して変化させる特殊イオン性化合物を混入させており、これによって低温下では樹脂と軟化剤の混ざり方が向上し、樹脂が軟らかくなる。高温時には特殊イオン性化合物が樹脂と軟化剤を分離。軟化剤から分離した樹脂は非常に硬化することで原理原則とは逆の温度変化に伴う硬度変化を実現した。

今後の展開としてはこの技術をさらに進化させ、同社では〝全天候タイヤ〟の実用化を目指していく。これによって現状のタイヤカテゴリーを集約し、同社の先端技術とアクティブトレッドを融合させることでタイヤ製造本数を低減させ、省資源化を実現。サステナブル社会への貢献を一層加速させていく考え。アクティブトレッド技術を搭載した商品展開としては、24年の次世代オールシーズンタイヤの発売に加え、さらに27年には次世代EVタイヤの発表も予定している。