2024年3月30日

【この人と60分】
六菱ゴム・和田剛二社長

変化するニーズに柔軟に対応
創業100年以上の密封技術で

上下水道・製鐵・土木・エネルギー・造船・産業機械・医療製薬・鉄道・国防関連など多岐にわたる需要分野において、優れた耐久性を誇るパイプ継手を手掛ける親会社の日本ヴィクトリックとともに、ユーザーと社会の課題の解決に貢献を続ける六菱ゴム(本社・神戸市西区、和田剛二社長)。同社が製造・販売する独自の機能シール製品とシステム製品は、創業100年以上の長きにわたって培われてきた密封技術と、変化するニーズに追随して柔軟に対応する機敏なビジネスモデルによって創り出されている。化学材料設計と機械設計の両面で注力しながら、開発・製造・検査まですべての工程を自社工場内で行っており、「大量生産では対応が難しいニッチ市場に特化したオンリーワン製品の開発・生産は一貫生産体制を構築し、俊敏性のある(アジャイル)経営を推進している企業ならではの戦略であり、当社の最大の強みとなっている」(和田社長)。

近年、発生頻度が高まっている地震、台風、洪水といった自然災害に対して、公共インフラや原子力発電所など浸水対策の強化が重要な課題として浮上している。その対策製品として雨水の暫定的な貯留を可能とし、作業現場での安全を確保する止水壁「ヘキサゲートプラグ」や、洪水の浸入を防ぐ「シールドア」などがユーザーからの高い評価を獲得。また、大規模な津波でも建屋への水の浸入を食い止めるハッチ止水装置「シェルカバーⅡ」は、キャスター搭載のふたをスライドさせて手作業で簡単に開閉することができ、こうしたシステムの提案も事故の未然防止に一役買っている。「当社が供給するインフラメンテナンス製品や浸水対策製品は、長らくゴム素材を扱ってきた知見を生かし、製品の耐用年数を通じて性能を発揮し続けることができる。また使い勝手の良さだけではなく、安全性も向上する。何よりお客様のお困りごとにお答えすることに重きを置いていることがユーザーの採用の決め手となっている」(同)。

各国でさらに存在感
常に革新的な技術、製品を

重要な需要分野の一つであるエネルギー業界に向けては1976年、福島第一発電所2号機の燃料プールで使用されるゲートパッキンを皮切りに、すべての沸騰水型原子力発電所への供給を継続。現在ではより持続可能な発電源への注目が高まる中、同社においても水素、アンモニア、液化天然ガスなどの原料を貯蔵および輸送するための新しいアプローチの検討に余念がない。同社の技術開発は顧客の潜在ニーズを引き出すことで具現化しており、労働力不足への対策としては、ロボットと連携して工場の完全自動化に寄与する「バンドレス・エアタイト(BLAT)システム」によって製造ラインにおける完全無人化にも貢献。草創期より英国の産業革命技術を導入した技術的基盤を駆使し、現在では医薬品や原子力などの新興産業へも活躍の場を広げている。進化した技術の一例を挙げると、シールドマシンによるトンネル工事では、坑口からの地下水の流入を防ぐ「エントランスシール」の施工において、コロナ禍の対応として海外土木現場でウェアラブルカメラを使用した遠隔サポートを実施。さらに造船分野では、LNG船のメンテナンス時にタンクと安全弁を隔離する「アイソレーショーンバルーン」などを市場投入しており、こういったシステムは安全面だけではなくコストメリットも高いため、需要先の高い評価につながっている。また、国防分野においても米国防総省向けのMIL規格に適合するゴムを独自配合で開発。今後も「テクノロジーと専門知識の継続的なブラッシュアップを図りながら、企業としての俊敏性を維持し、競合の一歩先をいく事業展開を目指していく」(同)。

一方、1世紀近くにわたって地震が発生しやすい地域の企業や、公共設備を結び付ける役割を担ってきた日本ヴィクトリックでは、高品質のパイプ継手をオーダーメイドによって製造していることが特長。同社の企業理念は、〝安全・安心〟に重点を置いた防災・減災に寄与する製品の開発と、安全で信頼性の高い水の供給を確保することであり、上下水道の既設継手部およびフランジ部を断水することなく、耐震補強ができるリペアジョイントの設置やコネクターの交換などを可能としている。また、耐震改修で大きな力を発揮する新製品として、伸縮可とう管の変位を遠隔監視する最先端の「VICセンサーⅡ+クラウドシステム」を開発しており、これによってシステム導入の最大の目的である従来の事後保全から〝予防保全の中で最も効率的な方法とされる状態監視保全〟への進展を実現させた。

同社では現在、公共部門の水道事業・耐震補強と、民間部門(建設・生産プラント・鉄鋼・エネルギー)の事業に細分化して事業の再編に取り組んでいる。エネルギー分野では水素・バイオマス・アンモニアといった持続可能な資源へとシフトする時代の流れがパイプ継手産業にも少なからず影響を及ぼしており、今後は国内や台湾市場などでの実績を足掛かりに、世界的に地殻変動の問題を抱える国々への進出を大きなテーマとして掲げている。「近年、世界で発生した災害を鑑みても、当社のソリューションに対するニーズが浮き彫りになっている。大規模地震災害への対応で培った技術と経験を生かして、各国での存在感をさらに高めていきたい」(同)。

企業のランキング付けで著名な米ビジネス誌「FORTUNE」が企画した日本の特集記事においては、日本の構造的な強みを「インフラ分野を支える企業によって日本の伝統的なビジネスは成功している」と論じている。同誌はリサーチの結果、国内外のインフラ分野の未来を支える企業として日本企業も4社を選出。日本ヴィクトリックと六菱ゴムもこの中に名を連ねた。日本のビジネスの進展は一見、自動車産業、家電業界、コンソールゲームなど華やかな業界によって成し遂げられているイメージが強いものの、実は重要な分野は常にインフラ分野であると同誌では言及している。

「当社は地震、台風、洪水、津波などの災害から人を守り、老朽化したインフラ問題の解決にお役に立つことを信条としている。過去の災害から得た教訓と知見を生かし、革新的な技術と製品を常にお届けすることで、お客様と社会に貢献するメーカーであり続けたい」(同)。