2020年1月15日

住友理工
新春トップインタビュー

“モノづくり”をしっかりと極める

【昨年を振り返って】
2019年度上期の業績は、円高による為替差損で若干の減収となったものの、収益面では間接費などのコスト見直しに努めたことで増益を確保することができた。事業環境を見渡すと、米中貿易摩擦による中国市場の減速が事業に与えた影響は大きく、さらにはその余波が東南アジア、インド、欧州にまで押し寄せている。そのような環境下、自動車分野では顧客日系カーメーカーが非常に好調で、市場全体が低迷する中でも販売台数を維持したことで、当社の自動車用部品についても想定したほど落ちなかった。安全性もさることながら下取り価格の高さといった日系車の強みが、中国で日系カーメーカーの販売が好調な一因ではないかと見ている。一方、一般産業用品では中国のインフラ関連が落ち込んでいる。建機向けの高圧ホースは2018年が非常に繁忙であっただけに、今期上期では顧客の在庫調整が入ったことで期待していたほど伸びなかった。エレクトロニクス分野のプリンターや複写機で使われる機能部品は、ペーパーレス化の流れの中で市場が縮小傾向にあることから今後の展開に課題を残している。

【通期の取り組みについて】
ここ数年、北米事業の伸び悩みがマイナス要因となっていたが、やっと2018年度の下期で底を打ち、今期に入ってからは少しずつ回復に向かっている。まだ本格的な復調には相応の時間を要するだろうが、この流れを継続しながら建て直しに一層力を注いでいきたい。予測したよりも厳しい状況なのはタイとインドで、東南アジアは中国情勢のあおりを受けて輸出が落ち込んでおり、下期の見通しが難しい。中国における産業用ホースの販売については、日系建機メーカーの苦戦が予想されるものの、近年開拓に取り組んできた現地メーカーへの拡販によって減少分をカバーしていく。補修市場の取り込みにおいても現地代理店会の力は大きく、当社の製品を取り扱う上で重要なポイントである〝日本品質〟を理解して頂けるパートナーとの協業により、販売展開の勢いをさらに加速させる。自動車用品については顧客日系メーカーの好調によって今後十分な伸び代があると見込んでいる。下期以降も厳しい環境は継続すると見ているが、足元をしっかりと固めながら今期の計画を確実にやり切っていく。

【自動車の変革への対応は】
現在推進中の中期経営ビジョン「2022年 住友理工グループVision(2022V)」に掲げる要諦の一つであり、CASE対応については、将来の成長を見据えた新商品の研究開発を自動車新商品開発センターの主導で着々と進めている。カーシェアリングでは、共有車の部品交換需要や管理システムにおける展開にも期待を持っているが、まずは電動化・電子化に対応する開発を先行する。一例を挙げると、ドライバーがステアリングに両手で触れていることを検知して自動運転と手動運転の切り替えを可能にするセンサを開発しており、今年中の上市を予定している。EV車に向けては、センシング技術のほかにもバッテリーの熱マネジメントで使われる部材に着目している。そのような新たな製品の検討を住友電工ならびに住友電装の協力を得ながら推進する。自動車ホースは燃料系が大きな割合を占めているが、やがてエアコンやバッテリーの温度調節システムで使われるホースに置き換わっていくだろう。また、将来的にはますます環境規制の厳格化が進み、排ガス規制や燃料蒸散規制に適合した製品の需要が増えていくと見込んでいる。防振ゴムについても、エンジンがモーターに置き換わっても振動と騒音低減に対するニーズがなくなることはないはずで、むしろ自動運転をはじめとする次世代技術の進ちょくに伴い、より安定した乗り心地への要求が高まっていくと見通している。当社としてはさらに進化した防振ゴムで、快適な車内空間づくりに貢献していきたい。

【新事業の現状について】
糸島市および九州大学と「健康」「医療」「介護」事業における産官学連携の取り組みを進めており、これまでの活動の成果としては、2017年に独自のSR(スマートラバー)センサを生かした〝床ずれを防止する〟マットレスを開発・上市した。現在はフレイル(加齢に伴い身体および認知機能が弱り始めた状態)の早期発見や予防などを目的として実用化に向けた取り組みを進めており、今後の新たなヘルスケア事業の創出につなげていきたい。

水現像により環境と人に優しいフレキソ印刷では、昨春にイタリアで新たな生産拠点の稼働を開始した。年を追うごとに売り上げが伸びてきている。

【働き方改革について】
仕事がしやすい環境の整備と会社の雰囲気づくりを行っている。そのような取り組みの効果もあって昨年の新卒採用においては、計画通りの人材を採ることができた。具体的な活動としては、手戻りの削減で効率化を図る〝Re―do Zero(リドゥー・ゼロ)活動〟のほか、〝活き生き5(ファイブ)〟の名称で適正な労働時間、有給休暇取得率の向上、定時退社の日の浸透を図り、ワークライフバランスの確保を目指している。

【今年の展望を】
ここ5年ほど、当社はM&Aによって拠点を拡充し、急速なグローバル化を推し進めてきた。目標達成に向けた仕事が飛躍的に増えた半面、効率的には落ちている面があり、今年は仕事の付加価値を見極めた上で効率を上げていこうと全社的な打ち出しを行っている。投資についてもいったんは抑え、メーカーとしての最重要課題である生産技術開発に一層まい進する。当社は昨年12月、創業90周年を迎えた。これまで長きにわたって培ってきた技術力を海外で展開していくために、もう一度基本に立ち返って日本の“モノづくり”をしっかりと極めていきたい。