2020年11月15日

【この人に聞く】日本ミシュランタイヤ
須藤元専務執行役員

長続きする”安心・安全”を
持続可能なモビリティ社会を実現

海外のタイヤメーカーでありながら、日本の消費者から圧倒的な人気と信頼性を得ている「ミシュラン」ブランド。その根底には日本独自の路面状況や使用環境を熟知し、それらに加えてドライバーや自動車愛好家のニーズを敏感にくみ上げ、製品の魅力として市場投入している市場戦略が挙げられる。そのあたりの詳しい話を日本ミシュランタイヤの須藤元専務執行役員に聞いた。

【日本市場において、ミシュランが考えるタイヤに求められているニーズの本質とは】
グローバルで共通するタイヤの要求性能としては、低燃費性能とドライ・ウエットグリップ性能という安全性を確保しつつ、長時間の運転でも疲れを感じさせない快適性や静粛性などで、これはいかなる地域でも普遍的なものと言える。ただ、日本では地域によって気候が大きく異なることからニーズも多様性に富んでおり、当社としてはいかなる路面環境下でも安心感が高く、走る喜びをフォローし、かつ快適で経済性にも貢献する製品を消費者にお届けしていきたい。それらの重要なファクターをいずれも犠牲にすることなく、高水準で性能のバランスを保ちながら、継続的に性能をブラッシュアップさせていくことが当社の製品開発の信条となっている。

【国内の戦略について】
昨今の自動車の高性能化には目を見張るものがある。しかしながら、路面に唯一接するパーツとして〝走る、曲がる、止まる〟という役割を担うタイヤは、いかに自動車の次世代技術が進展しても、そのパフォーマンスを十分に発揮するために重要な部品であることに変わりはない。日本のドライバーは欧米との比較では一般的に走行距離が短かく、それに伴ってタイヤの寿命も長期化する傾向がある。しかしながら摩耗が徐々に進行するにつれ、溝の浅い状態での使用期間が長くなるため、溝が残り少ない状態でも急激な性能劣化が起こりにくい当社タイヤの特長を打ち出し、〝安心・安全〟が長続きするという価値観を提供していく。

また、国内は製品の性能面だけではなく、トータルで高品質なサービスが期待されている市場でもある。今後、〝コネクテッド〟や〝MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)〟に代表される製品とサービスが一体となった提案が進展していく中で、日本における経験則と成功事例はほかの市場における戦略に大いに役立つと考えている。

【環境面での取り組みについて】
昨今では社会的なニーズとして、経済性のみならず環境性能にも注目度が高まっている。グループ全体で最も注力しているのが「サステナブル・モビリティ」に向けた取り組みであり、地球環境との調和をより目指しながら、その中で安全性能にさらに磨きをかけていきたい。具体的な施策の一例を挙げると、2048年までにすべてのタイヤ製品を100%リサイクル可能とし、そのうち80%は再生可能な原材料で生産するという目標を掲げている。また、グループ企業やパートナー企業との連携によって、原材料はもとより、使用済みのタイヤからゴムや鋼材などを再資源化するプロセスづくりにチャレンジしている。ほかにも、WWF(世界自然保護基金)と提携を図りながら持続可能な天然ゴム調達にかかわる方針を策定するなど、リサイクルやCO2排出の抑制といった基本的な取り組みだけにとどまらず、自然保護や雇用の創出を伴った地域経済の発展など、多角的なアプローチで遂行している。そういった活動によって社会的責任を果たしていくことは企業としての最重要使命であるが、一方で自動車での移動をさらに楽しんで頂くためにも、より環境への負荷の心配が少ないタイヤを提案していくことで顧客満足度の向上を図っていきたい。

【注力する分野と製品について】
今年は新型コロナウイルスの感染拡大を契機に、余暇の過ごし方にも変化が起こっており、消費者のニーズの多様化に一層拍車が掛かっているように感じている。例えば、〝3つの密〟を避けてキャンプを楽しむ消費者に向けては、キャンピングカー専用タイヤ「ミシュラン アジリス キャンピング」の提案を強化している。このタイヤは高い耐荷重性と安定した走行性能を両立させたキャンピングカー規格のタイヤで欧州ではビルダーとユーザーから高い支持を受けている。

乗用車向けでは、近年はSUV車の人気が高いため、新車・補修用タイヤの需要が増大し、SUVタイヤのラインアップもさらに拡充した。昔ながらのオフロード向けだけではなく、より街乗り志向へとニーズがシフトしており、ハイパワーでプレミアムなSUV向けでは耐久性、ふらつき抑制のほか、あらゆる路面状況での安全性や快適性、操縦安定性を追求している。

また、顧客の使用環境を念頭に製品化したものとして、高い夏タイヤ性能を持ちながら、雪道も走行できる「ミシュラン クロスクライメート シリーズ」が好評を得ている。ここ数年、関東以西の非降雪地域では、急な降雪に通常の夏タイヤでは対応できないトラブルが発生している。このタイヤを装着することで、スタッドレスタイヤへの交換が不要となり、一般の夏タイヤと同等以上の性能をキープしているため、一年を通してセーフティドライブを楽しむことができる。欧州のシビアスノータイヤ要件をクリアした証である〝スリーピークマウンテンスノーフレークマーク〟と〝M+S〟をサイドウォールに刻印。高速道路の冬用タイヤ規制時においても、チェーンを装着せずに走ることを可能にした。

サイズ展開については、これまで乗用車用、スポーツタイヤなど、全ラインアップ500サイズに絞って販売してきたが、消費者のニーズにより対応するため、現在は1500サイズまで拡充して対応している。

【今後の展望を】
2017年、環境に配慮した未来のモビリティの実現に向けてコンセプトタイヤ(VISION)を発表した。バイオ原料のリサイクル素材を使用し、タイヤの接地面(トレッド)を3Dプリンターで成型する環境にやさしいエアレスタイヤで、リトレッドによる継続使用も可能なことから省資源化にも寄与、さらにはセンサーでつなげることで〝コネクテッド〟にも対応する。

実用化に向けたマイルストーンとしては、エアレスタイヤは建設機械用タイヤで既に製品化しており、さらに高速下での使用と快適性が求められる乗用車向けは現在、米ゼネラル・モーターズと2024年の実用化を視野に共同で開発を進めている。エアレスタイヤはパンクやバーストを回避できる安全性に加えて、長寿命化がもたらす廃棄タイヤの削減により環境保全にもつながる。ミシュランではこのようなイノベーションを通して、持続可能なモビリティ社会の実現と、すべてのドライバーと同乗者の〝安全〟〝快適〟〝走る楽しみ〟のため、さらなる挑戦を続けていきたい。