2021年9月25日

早川ゴム
新放射線治療補助具の開発に協力

化合物での配合技術を活用
手指で自由に成形が可能

早川ゴム(横田幸治社長)は、大阪府大阪狭山市の近畿大学医学部放射線医学教室(放射線腫瘍学部門)門前一教授を中心とする研究チームの温めることによって手指で自由に成形でき、身体のどの部位にも高密着する新たな放射線治療補助具「ソフトラバーボーラス」の開発に協力し、成功したことを発表した。ソフトラバーボーラスは表在性腫瘍に対するより精度の高い治療を可能とし、さらに消毒して再利用できることから環境にもやさしいという特長を有している。

放射線治療補助具であるボーラスは治療部位の皮膚表面に密着させることで、患部のところで放射線量が最大となるよう調節する役割を担う。しかし、現在広く使用されているゲル状ボーラスは決められたサイズ、硬さでしか販売されておらず、頭部、顔面、頸部、乳房などの曲面部位や凹凸のある部位に放射線を照射する場合、皮膚との間にすき間が生じてしまい、十分に皮膚表面に線量を投与できない、処方通りの照射ができないといった問題を抱えていた。加えてサイズや厚みを患者ごとに変えることができず、近年需要が高まっている個別化医療の実現が困難であった。照射精度の向上や個別化医療を目的とした、3Dプリンタの技術を用いたボーラスも商品化されているが、3Dプリンタを有しない施設が多いため汎用的ではなく、再利用ができないために費用や資源などの問題もあった。どのような治療部位の皮膚にも高密着し、サイズや厚みも自由自在に変えられ、多くの施設で簡易に使用でき、再利用可能なボーラスが求められていた。

開発においては治療の際にその場で患者の体にのせて成形するため、熱すぎるとやけどを引き起こす恐れがある一方、体温では固さを保持し形状を維持できるようにするため、温度特性の工夫が必要であった。何度で柔らかくして、何度以下で形状を維持するかを何度も試しながら、粘性と弾性の両方を合わせた性質である「粘弾性」がどのように変化するかを測定し、最適な温度を特定した。さらに、成形後に形状が経時変化しないようすることにも配慮された。

また放射線には、照射対象の密度が高いほどその対象に多くのエネルギーを付与することで、通過後に放射線の性質が変わってしまうことがあった。そこで、ソフトラバーボーラスの密度を人体の組成に近い”水”と同じにすることでボーラスの有無によって放射線の性質が変わってしまうことを防いだ。水と同等の密度にするためには混ぜ合わせる化合物を工夫する必要があるが、早川ゴムの配合技術がそれを可能にした。これらの工夫により表在性腫瘍への放射線の照射精度を向上させ、一層精度の高い治療を可能にするソフトラバーボーラスが開発された。

今回開発されたソフトラバーボーラスは、温めることによって手指で自由に成形することができ、室温や体温では形状が維持されるため、凹凸のある部位でも高密着を実現可能とした。また、ボーラスの有無によって照射した放射線の性質が変わってしまうことを防ぐため、人体の組成に近い密度を実現。衛生面にも配慮されており、消毒が容易で、温め直すことによって再利用も可能となっている。

本開発は今年2月5日に特許出願が行われており、今後は薬事申請を経て製品化および臨床使用への展開を目指す。

なお本開発の論文は9月15日(日本時間)に、医学物理学分野の権威あるジャーナル「Physics in Medicine and Biology」にオンライン掲載された。