【夏季トップインタビュー】アキレス
日景一郎社長
高い社会性を有する事業を推進
誇り、やりがい持ち働ける会社に
今年6月29日にアキレスの新たなトップに就任し、経営のかじ取りを託された日景一郎社長。1985年の入社以来、長年にわたって産業資材の分野で業務にあたり、営業部門を中心に製造部門統括、生産革新にも携わってきた。製販の両面からメーカーとしてのポテンシャルを引き出すことが期待される日景社長に話を聞いた。
【社長就任から1カ月余りを経て】
思い返すと、今般の社長就任にあたり最終的な内示を受けた時期については明確に記憶していない。現会長である伊藤が社長に就いた2012年に自分自身も役員に登用され、薫陶を受けながらこれまでともに経営に携わってきた。重責を担う覚悟と心構えは、自然に醸成されてきたように感じている。社長となって、今後も当社が目指す方向は大きくは変わらない。踏襲すべきはしっかりと踏襲しながら、道半ばの取り組みについては完遂への歩みを一段と進め、具現化のスピードを上げる。これまで推進してきた新規事業の芽やさまざまな取り組みを、早期に実益を伴う成果へと結び付けていくことが自らに課せられた使命だととらえている。
今期がスタートして第1四半期を経たが、ウクライナ問題に端を発する原油の高騰や新型コロナウイルス感染症の急拡大など、依然として不透明感は色濃く漂っている。しかしながら、変化の激しい時代であるからこそ、その変化にほんろうされるのではなく、新たなチャレンジをいとわず変化を先取りしていくことで将来は大きく変わると考えている。冷静に先を見据えながら、今期の計画達成に向けて今やるべきことを見極め、確実にやり遂げていこうと改めて気を引き締めている。
【トップの目から見たアキレスの強みとは】
これまで長らく営業畑を中心に歩んできたが、当社の最大の強みは事業を展開するマーケットが多岐に及ぶことだと考えている。また、幅広い業界の多様なお客様とお付き合いをさせて頂いていることも実に大きなメリットがある。一例を挙げると今年5月に開催した当社の総合展示会「Achilles THE NEXT(マテリアル&プロダクト展2022)」においても、ある事業部の顧客をほかの事業部に紹介することで、新たな商機が訪れる事例が見受けられた。2015年に本社を移転したが、それに伴い各事業部の営業部門を1フロアに集約したことで事業部間の連携が以前に増して円滑になり、8つの事業部による総合力をいかんなく発揮できるようになった。そのような組織横断的なアプローチを可能にする仕組みを構築できていることは、今後の当社の大きな財産になると思っている。昨年10月に立ち上げた防災事業部はまさにそれを具現化したもので救命ボートやテント製品のみならず、避難所で利用されるマットレスや災害時の活用を想定したシューズ、減災・予防の観点でのインフラ土木工法など、幅広い事業領域で培った総合力がテーマに沿った開発と製品化を可能にしている。また、防災事業部は〝高い社会性を有する企業〟を標ぼうする当社の方向性をも象徴している。「防災のアキレス」というキーワードを広く浸透させるべく発信力も高めていきたい。
【現状の課題とその対応策について】
原材料価格の高騰は歯止めがかからず、適正な収益を上げることの大きな障壁となっている。当社の事業においては、ナフサ価格に依拠する製品が圧倒的に多く、これだけ原油価格が上昇している中で、従来以上にトータルでのコスト対応力が試されている。対応策の一つとしては、製造コストの削減に向けた〝スマートプロセス〟の導入を進めており、センシングで取得したデータを工程に落とし込み、デジタル技術を最大限に活用することで製造現場の効率化を図る。また工場に限らず、間接部門や営業部門のプロセスでもデジタル技術を付与した業務の効率化を視野に入れている。さらなる改善と徹底した〝ムダ取り〟を加速させるため、全社的なDX化の確立を急ぎたい。
【シューズ事業の取り組みについて】
子ども靴は、来年「瞬足」の発売20周年を迎える。引き続きマーケットでの存在感を高めていきたい。また、ハード面だけでなく、子どもたちの足を近年の社会環境の変化による影響から守り、本来の健康な足の成長をサポートしていくことを念頭に〝足育〟をテーマに、社会貢献活動も推進している。また、独自の衝撃吸収材「ソルボセイン」を搭載した大人向けの商材「アキレス・ソルボ」については、リピーターからの評価が非常に高く、厳しい市場環境の中でも少しずつではあるが着実に伸びている。お客様の購入の決め手となっているのは、やはり足への負担を和らげ、歩きやすいという機能・技術だと自負している。一方、ファッション性においても、特定の年齢層をターゲットとしたデザインだけではなく、より若い世代の感性にフィットする領域にも展開している。顧客の嗜好に合わせたテーストのカテゴリーを提案していくことで、従来の機能重視のお客様も大切にしながら全体の拡大につなげていく。ほかにも、スポーツシューズはタウンユースなアイテムが増えている中、将来的にはシューズ事業の第3の柱となるように育て上げていきたい。米国ランニングシューズブランド「BROOKS(ブルックス)」に関しても一昨年のコロナ禍による影響から回復しており、独自素材によってランニング障害に配慮したランニングシューズ「MEDIFOAM(メディフォーム)」との相乗効果を出しながら拡販を狙う。
【環境経営の取り組みについて】
プラスチックの需要が今後なくなるとは想定していない。ただし、近年の社会環境を鑑みて、トータルでの省資源・省エネおよび脱炭素に貢献できる製品とソリューションの提供に努めていく必要がある。製品面ではバイオマスや生分解性プラスチックのさらなる展開、さらに断熱材では製品の効果によって、脱炭素に貢献していく。また、1999年から環境委員会を設置して省エネルギーでの生産プロセスにも取り組んでおり、原材料調達、製造、流通、ユーザーの使用段階、廃棄に至るまでトータルで炭酸ガス排出量を抑制することを目指して施策を推進している。
【今後の展望と抱負を】
当社の事業運営全般において共通していることだが、高い社会性を有するということに加えて、〝人を大切にする企業〟であることに重きを置いている。お客様や当社を取り巻くステークホルダーに対してはもちろんだが、何よりグループの社員全員が、誇りとやりがいを持って働ける会社であり続けたい。当然のことながら、事業の推進力の根幹となるのは人である。人材の多様性を尊重し、社員一人ひとりの幸せの実現を常に念頭において、全社が一丸となって前進していきたい。