2020年1月10日

住友ゴム
インタビュー

目標に向け総力を結集
基盤強化プロジェクトの成果期待

住友ゴム工業 山本 悟社長

【昨年の回顧と今後の展望について】
 原材料価格は安定していたものの、競合の激化や円高進行などで事業を取り巻く環境は厳しい一年だった。このような中、当社では低燃費タイヤ・ハイパフォーマンスタイヤなど高付加価値製品の拡販、欧米における販売力強化、ダンロップブランドのさらなる価値向上に努め、新市場・新分野へと積極的に挑戦しながら、グループ一丸となって事業の成長と収益力の強化に向けて取り組んできた。新商品の展開としては昨年12月、「スマートタイヤコンセプト(未来のモビリティ社会で求められる性能を実現させるための技術コンセプト)」における主要技術を採用した第1弾商品として「エナセーブネクストⅢ」の発売を開始した。画期的な新ポリマーで先代モデルをしのぐ耐摩耗性とウエット性能の長期持続を実現しており、タイヤへの採用は世界初となる高機能バイオマス材料によって乗り心地や操縦安定性と環境性能を高次元で両立させている。今後の大きな方向性としては、”MaaS(サービスとして提供される移動性)”というキーワードに表れている通り、求められる性能は〝自動運転への対応〟〝安全・安心のソリューション〟〝ライフサイクルアセスメント〟に基づいたタイヤであるととらえている。そういった価値を具現化したタイヤの開発・販売を推進することで、社会で整備が進む多様なエコシステムとの連携を図り、スマートタイヤコンセプトを進化させながら取り組みを加速させていく。具体的には、同コンセプトのコアテクノロジーである〝タイヤ・リープ・AIアナリシス〟を駆使することで、モノづくり(タイヤ開発)を進化させていく。さらには、群馬大学との自動運転レベル4に対応する産学連携の取り組みをはじめ、IoTシステム開発企業とのソリューションシステム構築、関西大学とのタイヤ内部発電技術の開発など、イノベーションとデジタルツールで得られるデータを通して、新たなソリューションサービスの領域を開拓していく。

【オールシーズンタイヤの展開について】
 昨年10月、「オールシーズンマックスAS1」を投入した。新開発の〝超マルチコンパウンド〟の採用で、ドライ・ウエット路面から雪道まであらゆる路面で確かなグリップ力を発揮する。また、幅広センターリブの採用によって夏タイヤ同等の操縦安定性を実現しており、優れたウエットブレーキ性能を併せ持っている。〝急な雪にも慌てない長持ち夏タイヤ〟として提案を進めていきたい。

【グローバルブランドの展開について】
 欧米市場を中心に「ファルケン」を核とした拡販活動を推進しており、順調に販売を伸ばしている。モータースポーツ活動は昨年もニュルブルクリンク24時間レースへ参戦。ほかにも英国名門サッカークラブであるリバプールFCへの協賛、レッドブルエアレースに参戦している室屋義秀選手のサポートなどを行っており、こうした活動はファルケンブランドの存在感を一層高め、価値向上に大きな効果があったと感じている。北米においては、4WD/SUV車用の「ワイルドピーク」が好調で、増販に貢献している。また、アウディQ3、FCAのジープ「グラディエーター」、ポルシェ「マカン」への新規納入を開始しており、海外自動車メーカーにおける新車装着も拡大している。

【グローバルの生産体制とAI・IoT導入の取り組みについて】
 東南アジア・中国・タイ・南アフリカ・ブラジル・トルコ・北米と、主な需要地に生産拠点を構えてグローバルな供給体制を構築してきた。各工場では現在、地域ごとの市場ニーズに沿った商品生産への転換を進めている。昨年3月から、ブラジル工場ではトラック・バス用タイヤの生産を開始しており、乗用車用・ライトトラック用タイヤと合わせてブラジル市場における販売をさらに強化している。一方、生産現場の革新に向けては、日立製作所、PTCジャパンとの連携の下、AI・IoTを活用したタイヤ生産システムの構築を進めていく。各工場で生産データをリアルタイムに把握、AIで品質・生産性・省エネなどに影響を与える要因を導き出し、改善につなげていく。2025年までに国内外の全12工場への導入を予定しており、世界的な品質管理をはじめ稼働の効率化を一段と図っていく。

【テニスを通したダンロップブランド価値向上への取り組みは】
 テニスボールについては、当社の「ダンロップ・オーストラリアン・オープン」が、昨年1月開催の全豪オープンで公式球に採用された。日本の企業が、グランドスラムの公式ボールサプライヤーを務めるのは当社が初めてであり、技術力が認められた結果だと、とても名誉に思っている。また、欧州トップクラスの「ムラトグルーテニスアカデミー」とオフィシャルスポンサー契約を締結したほか、日本・中国ではテニス用品使用契約を結んでいる選手とタイヤのコラボレーション広告を展開している。多くのファンが関心を寄せる人気が高いスポーツであり、タイヤ製品との相乗効果の創出をねらっていきたい。

【今年の抱負を】
 昨年3月の社長就任時から、目標に向けて総力を結集し、喜びも苦しみもともにできる一体感のある組織を理想として思い描いてきた。上下関係にとらわれず、自由闊達に意見を交換できる職場づくりを今後も進めていきたい。2020年度の社長方針としては、次の3点を定めた。第1の方針は、〝新中期計画の実現に向けて強固な利益体質を確立する〟ことであり、確実に推進していくために「基盤強化プロジェクト」を立ち上げた。若手を含めた社員一人ひとりが主体となり、課題の解決と改善に積極的に取り組んでほしいと願っている。第2の方針は、〝積極的なコミュニケーションにより、人間力・組織力を高める〟こと。自身の部署における役割・責任を認識した上で、部門を超えたつながりを図り、グループのリソースをフルに活用しながら成果に結びつけていく。そのためには〝働き方改革〟も重要なファクターで、「ダイバーシティ&インクルージョン」「デジタル化」などを柱に推進していく。第3の方針としては〝全員で知恵を絞り、将来に向けた取り組みを加速しよう〟と掲げた。価値の向上や利益の創出は現場で生み出されると考えている。ニーズや価値観の変化には工夫をもって対応しながら、同時に将来に向けた布石を打っていく。

 当社は従来から「住友事業精神」にのっとり、事業活動とともに社会的な責任も果たし続けてきた。しかしながら、社会環境の変化と事業の成長に伴い、昨今では求められる要件も変わりつつある。〝ESG〟や〝SDGs〟における目標については、当社が社会的責任を果たすために何をすべきかを真しに考え、実行に移していきたい。