2020年4月5日

TOYO TIRE
TOYO TIREが考える次世代モビリティ技術

“タイヤ力”構築
技術、情報で新たな付加価値

TOYO TIRE(清水隆史社長)はこのたび、東京都内において「TOYO TIREが考える次世代モビリティ技術『タイヤセンシングから広がる世界』~乗用車用タイヤの役割はどこまで進化するのか~」と題した技術発表セッションを開催した。セッション前半では同社の先行技術開発部の榊原一泰担当リーダーが登壇し、TOYO TIREが確立している開発技術を紹介。後半では、IHSマークイット社の川野義昭氏(日本・韓国ビークル・セールス・フォーキャストマネージャー)をゲストに招き、トークセッションを行った。

冒頭、あいさつに立ったTOYO TIREの守屋学執行役員は「今回の技術発表会では、当社が開発した技術を一方的に紹介するものではなく、関連業界の有識者を招いて一緒に考え方を語り合う場を設けた。当社はタイヤのプロフェッショナルの立場から発想や視点を披露し、そこに別の専門領域の知恵を掛け合わせることで当社だけでは引き出せない可能性が広がっていくのではないかと考えている」と今後の展開に期待を寄せた。

この後、榊原氏による技術プレゼンテーションが行われた。同氏は、タイヤ会社を取り巻く環境と技術の流れとして「次世代モビリティ社会〝CASE〟においてタイヤに求められる付加価値は、より安全で安心な移動を支援することであると考えている。車両やユーザー、管理会社にタイヤ情報を提供することがタイヤセンシング技術の考え方である。既に完成された技術としてはTPMSがあり、このシステムではタイヤ空気圧や温度の監視が可能である。それに加えタイヤ業界ではセンシング技術として路面判別、荷重、摩耗状態、異常などを検知する技術の開発が進められている」と状況説明を行った。TOYO TIREが開発したセンシング技術は、タイヤからインプットされる各種情報を用いて〝タイヤ力〟を推定するもの。タイヤ力とは、実際のタイヤパフォーマンスを独自に呼称したもので、クルマが走行している路面の状態や、そのクルマに装着されているタイヤの状態を加味した現状のグリップ力と限界を把握するというもの。タイヤにセンサーを装着し、検知した諸情報を高度に演算処理することによって、その時にタイヤが発揮している性能と発揮しうるタイヤ性能(グリップ力)の限界値をリアルタイムに導き出すセンシング技術を構築している。これにより、実際に走行している路面の状態に対して求められる性能範囲と、走行中のタイヤがそれに応じたタイヤ力を発揮できているかどうかの状態をデータとして見極め把握することを可能にした。ドライ、ウエット、アイスといった路面の判別に始まり、そういった路面におけるタイヤの状態や速度に対する車両の動きを読み、さまざまな状況での制動距離、その速度でカーブに侵入した場合のハンドル操作の可能性などといった状況を判断できる可能性がある。その見極めについては、グリップ力の現状と限界を点と円で表現し、可視化している。現状を示す点は、アクセルやブレーキ、ハンドリングによって前後左右に動き、限界を示す円は、路面に対するタイヤの滑りやすさによって大小する。タイヤのパフォーマンスの発揮具合は、この可視化された点と円の関係から読み取る。メカニズムとしてはタイヤにはセンサーが取り付けられており、そのセンサーで情報をモデルに入力することによってタイヤ力を出力する。この〝タイヤ力推定モデル〟が技術の核であり、このモデルの構築のためにデータ分析・AIの技術を駆使している。

榊原担当リーダー

同社によるとタイヤ力を検知し、ほかの技術や情報と掛け合わせることによって新たな付加価値の創出につなぐことが可能になるという。自動ブレーキとの組み合わせでは常時制動距離を算出しながら走行することが可能になり、高速道路においても適正な車間距離を空けることでより高度な安全支援に貢献が可能だ。また地図情報との掛け合わせではカーブに侵入する際の適正な侵入速度を判別し、危険であればアラート等でドライバー等に伝えるほか、タイヤの使われ方をデータとして取得することで、それまでの履歴に基づき異常発生時の原因を探ることも可能となる。摩耗を予測することによってメンテナンス時期を提案し、タイヤを適切に使い切ることができるようになるという可能性もある。

技術説明に続き、トークセッションで登壇したIHSマークイットの川野氏は、世界の自動車メーカーの動態を見据えながら、CASEのうねりについても深い知見を有する第一人者として知られている。川野氏は今回の技術的な価値として「タイヤ固有の性能もさることながら、センサーとしての機能をリアルタイムで取得し、ドライバーに伝える点については従来になかった新しい取り組みである。運転に自信のあるドライバーでも路面や天候状況で環境に対応する運転が必要であり、瞬時に可視化することでドライブの安心・安全につなげることは大変意義深い」と高く評価した。このセッションには、SAS Institute Japanの森秀之執行役員も参加し、セッションの議論を深めた。同社はTOYO TIREのタイヤ力推定モデルを確立するために協業している。森氏は「車種、タイヤの種類、天気などさまざまな組み合わせによる状況の変化があり、リアルタイムでどれだけの精度を確保できるのかも大きな課題。多くのタイヤ力の推定モデルを管理していく必要があり、それをどのように折り合いを付けていくかも今後の大きなテーマになる」と提言した。TOYO TIREの守屋執行役員は「自動運転が進展すれば、車自体の制御とタイヤの機能に安全はゆだねられる。そういった中で路面をとらえるタイヤは安全を担保する重要なデバイスであり、次世代技術が進展する車社会に安全を確保するための一つの要素として貢献を果たしていきたい」と今後の展開に意欲を示した。