2021年11月5日

予測精度の高いAI技術開発

化学メーカー4社等の水平連携で

旭化成(小堀秀毅社長)、三菱ケミカル(和賀昌之社長)、三井化学(橋本修社長)、住友化学(岩田圭一社長)の4社は、物質・材料研究機構(橋本和仁理事長、以下、NIMS)、化学マテリアルズオープンプラットフォーム(化学MOP)からなる水平連携において、強度やもろさといった材料物性を機械学習で予測する際に、材料の構造から得られる情報を有効に活用し、少ない実験回数で、予測値と実値の誤差を小さくできる(予測精度の高い)AI技術を開発した。

これまで一般的な材料開発では、作製する材料を専門家が長年の知識・ノウハウによって選定することによって優れた材料が開発されてきたが、専門家による選定をAIに置き換えることによって一段と材料開発を加速させたいというニーズを受け、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)研究が活発に実施されている。近年、材料物性の向上を目指す目的から、作製すべき材料を適切に選定できるAI技術が、ベイズ最適化などを利用することによって数多く開発。一方で、機械学習によって材料物性を予測する精度を高くすることは、MI分野において効率の良い材料開発の実現および材料を詳しく理解するために不可欠となっていた。機械学習による予測が正確になることで、材料物性に関する測定実験を省略しても、材料物性を予知することが可能。しかし、予測精度が低い場合、予測値と実値の誤差が大きくなり、材料開発を加速することは不可能であった。そのため、できるだけ少ない材料作製回数で機械学習の予測値と実値の誤差をより小さくする技術開発が重要となっていた。これを実現するため、作製するべき材料を適切に提案できるAI技術の開発が加速している。

今回の研究では、構造情報を提供するX線回折(XRD)や示差走査熱量測定(DSC)などといった実測でしか得られないデータを用い、少ない材料作製回数で正確な材料物性が予測できるよう、作製すべき材料を適切に選定するAI技術を開発。予測精度が向上することによって、少ない材料作製回数でも材料の構造と物性の関係が明らかになり、物性の発現起源の明確化・材料開発指針の決定が可能となる。高分子材料の場合、高次構造と材料物性の関係を迅速に理解できるようになり、一般的に高分子材料の機械物性は、一次構造よりも高次構造に強く依存しており、この関係を理解することは高分子材料開発において重要とされている。目的とする材料物性を測定する実験よりも測定データが簡単に得られる場合、実験が簡単なデータから実験が困難なデータを予測することにつながり、材料設計の高速化と材料開発のコスト削減が実現できる。今回の技術の有用性を示す一例として、高分子材料であるポリオレフィンのデータベースを利用。その結果、AI技術の利用によって無作為に材料作製を進める場合と比べて少ない作製回数であっても、機械学習による材料物性の予測精度を向上できることを示した。今回の技術を利用し、精度の高い予測の実現がかなったことで、材料の構造と物性の関係が明らかになり、物性の発現起源の明確化・材料開発指針の決定が可能となる。同技術はポリオレフィンといった高分子材料だけでなく、さまざまな材料開発にも応用可能な汎用的技術として確立された。

今回の手法は必要な実験回数を削減できることから、近年注目されている実験自動化技術と組み合わせることによって、材料開発の高速化に貢献。新たに開発された新AI技術は、材料開発のDX基盤技術になると期待されている。

なお今回の研究は、旭化成の武井祐樹主幹研究員、三菱ケミカルの今井真一郎主席研究員、三井化学の中原真希研究員、住友化学の柴田悟史研究員、NIMSの田村亮主任研究員、中西尚志グループリーダー、出村雅彦部門長によって実施され、研究成果は本年度のサイエンス・アンド・テクノロジー・オブ・マテリアルズ・メソッズ誌に9月28日(日本時間)にオンライン掲載された。