横河電機・JSR
AIによる自律制御で化学プラント35日間連続制御
共同実験で世界で初めて成功
横河電機(奈良寿社長)とJSR(エリック・ジョンソンCEO)は、共同実証実験(以下、本実証実験)を行い、世界で初めてAIが化学プラントを35日間、自律制御することに成功したことを発表した。今回、実際のプラントで「強化学習AIが安全に適用できる」ことおよびPID制御(比例、積分、微分を掛け合わせたプロセス産業の基盤制御技術)やAPC(高度制御)といった既存の制御手法が適応できず、運転員が制御で使用するバルブの操作量を自ら考えて入力する「手動制御のみでしか対応できなかった箇所」をAIが制御できることを確認した。
本実証実験では、蒸留塔の留出物の品質や液面レベルを適切な状態に保ち、かつ排熱を熱源として最大限に活用するという複雑な条件をAIが満たし、品質の安定化、高収量、省エネ制御を実現した。この制御箇所では、「急激な外気温の変化」が制御の状態を乱す大きな「外的要因(外乱)」であったが、降雨や降雪などもある中、精製された製品は厳しい基準を満たし、既に出荷されている。また、規格外品が発生することによる燃料や人件費等の損失、時間的損失がなくなった。
今回の自律制御で使用されたAIは2018年に横河電機と奈良先端科学技術大学院大学(塩﨑一裕学長、NAIST)が共同開発し、IEEE国際学会で「プラントへ活用可能な強化学習技術」として世界で初めて認められた「FKDPP」というアルゴリズム。19年にプラントを模した制御トレーニング装置(三段水槽)での実験に成功し、20年4月にはプラント全体を対象にしたシミュレータ上での制御の可能性を確認するなど、自律制御AIを理論から実用に範囲を広げてきた。既存の制御手法では自動化できなかった箇所に適用でき、「品質と省エネの両立」のような相互干渉する目標に対応できるなどの強みを有している。
実プラントでは物理的、化学的な事象が複雑に影響する中での制御の難しさから、今回のように、熟練運転員が自ら介入しなければならない箇所が数多く残っている。またPID制御やAPCを組み「自動化」していても、一時的な降雨などに伴う急な外気温の変化に対応するためなどの理由で自動制御を中断し、熟練運転員が自ら設定値や出力値を変更しなければならない場合も多くある。同様の状況は、さまざまなプラントで発生しており、産業における自律化を進める上で、このように手動介入せざる得ない状況を、高いレベルの安全性を担保した上で、少ない手間で、どのように自律制御に移行できるかが現場の大きな課題となっている。今回の成果は両社の共創により、この長年の課題を解決していく道筋が開けたことを示している。
横河電機は「素材産業の中でも、本AIの制御の適用が望ましい箇所が存在すると考えている。例えば、ゴムやプラスチック製造は弾力性など、品質に直結する難しい制御があり、人が行っているような難度の高い部分を最適に制御する可能性がある」と述べ、今回の取り組みに興味を持っている顧客を募集するとともに、プラントの自律化を実現する製品・ソリューションの早期提供を目指す。JSRは本実証により、従来対応できなかった化学プラントの課題に対し、AIが解決の一助となる可能性を見いだすことができたと考え、他工程、他プラントへの応用を検討し、さらなる生産性の向上に努めていき、両社は今後も協力してプラントでのAIの活用方法の検討を行っていく。