2022年8月5日

【夏季トップインタビュー】十川ゴム
十川利男社長

顧客とのち密な関係性重要
必要とするテーマを的確に追求

【現在までの業績について】
2022年3月期の業績は前期比5・2%増、経常利益・当期純利益ともに昨年を上回ったが、これは前年の実績が非常に低かったためであり、コロナ禍前までの業績には全く戻せていない。昨年は、コロナ禍によって事業環境が冷え込んでから2年目を迎え、コロナワクチンの接種率も向上していることから市況回復に期待を寄せたが、感染拡大の波が繰り返され、見込んでいたほどの復調には至らなかった。事業環境を振り返ると、海外におけるロックダウンによる影響を受け、半導体不足などといったサプライチェーンの問題も事業展開の盛り返しを阻んだ。原材料価格や物流費も続騰しており、ユーティリティコストも大幅に上昇を続けている状況にあって、工場インフラにも打撃を被っている。今期の第1四半期については、前期と同じ程度で推移しており、今期の売上高は、前期比で6%程度の増加を計画している。2021年度と2022年度の2年間で、コロナ禍前2019年度の業績に戻すことを目標に事業活動に取り組んでいる。

【前期の需要業界の市況と各分野の製品販売状況は】
ホース類の売上高は前期比8・2%増、ゴム工業用品類は4・0%増、その他については3・1%減となった。内容としては、ゴムホースは、土木・建設機械産業用の需要が大きな伸びを示し、自動車産業用の復調や食品機械産業用の販売増もあって売り上げが伸びた。樹脂ホースは農業・園芸産業用のスプレーホースの需要は伸びたものの、住宅設備産業用が伸び悩んだことで微増にとどまった。型物製品はガス産業用、住宅設備産業用、医療機器産業用の需要が伸びたことで売り上げ増に貢献した。押出・成形品については、船舶・車両産業用の販売が大きく増加したが、自動車産業用が大きく伸び悩んだことで微増となった。ゴムシートは売り上げを伸ばした。自動車産業用の落ち込みは、半導体不足による影響が大きく、いまだ解消の糸口が見いだせていないだけに、今後の見通しを立てるのは難しい。

【中国の子会社における状況は】
紹興十川橡胶における2021年12月期決算の業績は、売上高については前期比18%増、利益も60%増と好調に推移した。地産地消率が8割程度にまで上がってきており、日本向けは2割程度で、事業指針に沿った流れとなっている。今期については、中国政府のゼロコロナ政策による影響を受けており、前期並みの業績を維持できる環境とは言えなくなってきている。今期も既に下期に差し掛かっているが、上期においては長期にわたる上海地区のロックダウンによる影響を受け、ユーザーへの納品ができないケースや、納期の遅れが生じることなどにより、業務に支障をきたす事態が発生している。前期と比べると市場環境は異なるが、幸いなことに当社の中国工場では新型コロナウイルス感染症の感染者はなく、事業については中国の市場動向を見極めながら的確に推し進めていく。

【抱えている課題を挙げるとすれば】
製造コストが全般的に高騰し続けており、さまざまな自助努力を尽くしてきたが、万策が尽きたことで価格改定をお願いせざるを得ない状況となっている。特殊な品種だけではなく、原材料価格高騰の勢いは、汎用品の領域にも及んでおり、社内におけるコスト吸収の限界を超えるレベルにまで達している。取引先の受注に支障が出ないようにするためにも、資材の調達は最重要項目の一つであり、購買面において費やされる労力は一段と大きくなっている。従来とは違った原材料や異なるメーカーの採用も選択肢に入れているが、新しい材料などを手掛けることになることから、時間をかけながら検証を進めている。さまざまな策を講じながら、安定供給という使命を果たすことを前提とした事業継続の維持に懸命に取り組んでいる。当社としても今後一層、生産効率の向上や歩留まりを上げるための努力を続けていくが、お客様に対してもご協力をお願いしたいと考えている。

【これからの新製品開発に向けた取り組みについて】
これからの市場においては、大量生産によって供給される安価な製品よりも、高機能や特別な付加価値を備えた製品に対するニーズが一段と高まってくると考えている。そういった製品を供給する体制を整えていくためには、お客様とのち密な関係性が重要であり、内側にあるニーズを確実にくみ上げ、お客様が必要とするテーマを的確に追求していく必要がある。こういった姿勢こそが、魅力ある新製品開発の土台となっており、オンラインでも可能ではあるものの、やはりフェイス・トゥ・フェイスがベストな手法であると考えている。ウィズコロナにあっても、展示会といった機会も含めて許される限りは相手先に出向いていき、対面でコミュニケーションを深めていきたい。新製品開発の糸口も、面談におけるさ細な会話から生まれる可能性がある。ハード面も重要なファクターであり、お客様の要望にこたえるためにも、新たな設備は積極的に導入していく。ハイクオリティーな製品を手掛けていくためにはハイエンドなハードが必要であり、最近では最新のスキャナーや3Dプリンターを導入し、デジタル化を進めている。IT、IoT技術によってお客様と営業部門、生産部門が一元的につながって活動できる体制を構想しており、クリーンな生産環境において、お客様のニーズを的確に満たした製品づくりを推し進めていきたい。

【今後に向けての展望や取り組みは】
従業員が健やかに働くことができる職場環境づくりを継続する。当社では健康経営優良法人の認定を取得しており、継続して認定取得するためには従業員への健康管理活動を毎年レベルアップさせていかなければならない。安全衛生についての全社的なコミュニケーションの場である「全社安全衛生大会」は新型コロナウイルス感染症の感染予防の観点から対面での開催を2年間取り止めていたが、今年はそれを対面とWEBとのハイブリッドで開催することができた。そこで改めて対面というコミュニケーションにおける実効性を痛感した。実際に顔を合わせることで気持ちの交流度が高まり、モチベーションも上がる。チャレンジしようとする精神にも大きな力がもたらされる。その場での雰囲気を感じ取り、意を強くしたことで、今後はお客様の意思を尊重しながらフェイス・トゥ・フェイスで互いの関係性構築の位置付けを高めていく。今はコロナ禍前の雰囲気を取り戻すことが理想である。業績については、コロナ禍前の2019年度の売上高、経常利益、純利益を超えるという目標に向けてまい進する。