2022年9月5日

【トップインタビュー2022】ニッタ
石切山靖順社長

再生医療分野の事業化果たす
ポテンシャル最大限に引き出す

【2023年3月期の現状までの業績と取り巻く市況について】
6月までの第1四半期の売上高は、半導体製造装置や物流分野などの需要好調もあって、前年同期に対して2・3%増収した。収益面では、営業利益については、原材料価格の高騰や販管費の増加、さらにはロシア代理店向け債権に対する貸倒引当金の計上によって2・3%の減益となった。しかしながら経常利益は、半導体業界向けの需要が好調であったことから、持分法投資利益が伸びたことで1・3%の増加、当期純利益も3・8%増となり、好調なスタートを切ることができた。セグメントで見るとベルト・ゴム製品事業が前年同期に対して増収増益を果たすことができたものの、ホース・チューブ製品事業が減収減益となり、ニッタ化工品の化工品事業も減収し、営業損失となった。2つの事業が振るわなかったが、ベルト・ゴム製品事業がそれらをカバーしたことで業績全体を押し上げることができた。立役者であるベルト・ゴム製品事業においては、海外では昨年から繊維業界の需要が回復してきており、中国や欧州の市場が売り上げの伸びに貢献した。ホース・チューブ製品事業は半導体不足の影響を受けたこともあって建設機械向けが低迷し、自動車向けも伸び悩んだが、半導体製造装置分野は好調に推移しており、メカトロ製品も明るさを取り戻しつつある。化工品事業については、第1四半期では鉄道車両用部品の需要が伸び悩んだが、ここにきて盛り返してきており、今期中には勢いを取り戻すことができるものとみている。遮水製品の需要も回復している。その他産業用製品事業では、モニタリングシステム製品(微粒子・微生物測定器)が伸び悩んだものの、全体的には国内外とも好調に推移した。

【中長期経営計画「SHIFT2030」の進ちょく状況は】
事業を取り巻く環境が急激な変化を遂げていることから、状況を見極めながらロードマップに沿って推し進めていく。現在直面している課題としては、原材料価格などによるコスト上昇によって収益が大きく圧迫されている状況がある。生産効率改善など企業努力による吸収は困難となっているため、10月1日から製品の価格改定に踏み切らざるを得なくなった。安定供給を維持する上でも不可避な決断であり、ぜひともご理解を願いたい。SHIFT2030についてはフェーズ1(2021年~24年)の2年目を迎えた現状においては、計画通りに推移している。今期の売上高を860億円と見込んでおり、既にフェーズ1の定量目標である900億円に達する勢いだが、事業を取り巻く環境の見通しが不透明であることから、現時点では目標値の見直しは考えていない。

【今後の展望と新規取り組みについて】
自動車産業では、EV化への加速が進んでいる一方で、内燃機関搭載車の市場も急激にはシュリンクしないと考えている。欧米や中国では、急速にEV化が進んでおり、将来的には危機感を持ってはいるものの、ホースやチューブは自動車の内燃機関にのみ使われている部品ではない。エアブレーキ用チューブなど内燃機関以外の用途もあり、これに加えてEVにおける新アプリケーションを狙う。EV、燃料電池自動車(FCV)対応の次世代自動車用の樹脂チューブもラインアップしており、さまざまな車載レイアウトに対応させた要望にもこたえていく。

CNT複合化技術「Namd(エヌアムド)」については、奈良工場のNamd製造工場棟の建設も予定通り進んでおり、事業の本格化に向けての計画を着実に推し進めている。分散カーボンナノチューブを炭素繊維に複合させる独自の技術により、優れた性能を発揮することから、さまざまな分野から関心が寄せられている。強じんなしなりと急激な復元力が評価され、現在はスポーツ用品分野において採用が進んでいるが、今後は一般産業用にも間口を広げ、事業としての一本立ちを図っていきたい。また、新事業探索チームの取り組みも活発化している。あらゆる情報をキャッチし、ニーズをくみ上げることによって新市場や用途の開拓を図る。

再生医療の分野では、抗体医薬品をはじめとするバイオ医薬品の製造過程で使用される、シングルユース部素材の国産化のためのパートナーシップ「J―STAC」に参画した。最近では、海外依存率の高いワクチンなどの輸送用品などで話題を集めたが、国産化への意識の高まりとともに発足されたパートナーシップであり、創薬分野においても大きな成果が期待される。当社では2014年ごろから開発に着手しており、国内初のシングルユース用チューブメーカーとして、バイオ製薬用途の流体において、要求を満たすように設計された樹脂チューブ製品で参画する。日本薬局方や米国薬局方をクリアしている。グループ企業である浪華ゴム工業とのシナジー効果も期待しており、浪華ゴム工業の知見を活用しながら医療分野に貢献し、ビジネスにおいては再生医療分野の事業化も果たす。こうした取り組みの積み重ねによって、ニッタの持つポテンシャルを最大限に引き出しながら、メーカーとしての可能性をさまざまな分野で切り開いていく。