西部工業用ゴム製品卸商業組合
夏から延期の「定例講演会」を開催
今後の組合方針
延期しても中止にはしない
西部工業用ゴム製品卸商業組合(小島孝彦理事長)は10月28日、「秋季講演会」を大阪市北区のANAクラウンプラザホテル大阪で開催した。本来、「夏季定例講演会」として8月上旬に行われる予定の行事だったが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって急きょ延期。最近になって感染状況も緩和されてきたことから、今回の開催に至った。行動制限緩和の社会的ムードにあって、組合員22社(24人)、賛助会員10社の合計34人が参加し、盛況を極めた。今回は環境問題に関する内容をテーマとして取り上げ、事業者にとっても重要な課題となっているSDGsへの取り組みの一例を示する内容で繰り広げられた。
今回は、滋賀県琵琶湖環境科学研究センター総合解析部門において専門研究員を務める佐藤祐一氏に講師を依頼、「ローカルから考えるグローバルな環境問題~琵琶湖版SDGs〝マザーレイクゴールズ(MLGs)〟を例に~」をテーマに話が展開された。琵琶湖を擁する滋賀県では、早い時期から環境問題に取り組んでおり、琵琶湖版SDGsとしての根本的性質を備えているMLGs(Mother Lake Goals、マザーレイクゴールズ)という取り組みを推進。琵琶湖という存在を、地域社会のすべてを映し出す鏡、住民の希望を見通す窓としてとらえ、自らの未来を守る使命と方向性が一致。2030年の持続可能な社会と琵琶湖に根差す暮らしに向けた13のルールを設定し、本来の自然環境を取り戻すさまざまな活動を行っている。
主催者を代表してあいさつに立った小島理事長(角一化成社長)は「この講演会は、本来であれば8月初旬に行う予定であったが、新型コロナ感染症の感染拡大によって開催が阻まれてしまった。しかしながら今後の組合は、事業の〝延期〟はあっても〝中止〟にはしない方針を固めており、本日の開催を迎えた。今年に入ってからも世界各地において激動の種は尽きることがないが、かねてより地球規模での危険度を明示する〝世界終末時計〟という象徴的な指標がある。人類の絶滅(消滅)を午前零時になぞらえ、その終末に向かう危険度合いを残り時間で表現するもので、第二次世界大戦後の核の脅威を意識した米国が、人類存亡のリスクを数値化し、それに対処する目的から創設された。創設当時の47年は世界終末までの針は7分前(アナログ時計のデザインから見栄えの良さを理由にデザイン的に決定された)が指されていたが、米露が水爆実験を行った53年には2分前にまで針は進められ、冷戦終了時には17分前にまで針が巻き戻された。しかしながら現在は1分40秒前という、世界終末時計の誕生の歴史上最も危険度の高い時代として警戒されている。この指標の背景には核戦争への脅威だけでなく、世界的な気候変動への対応が不十分である状況も織り込まれており、時計の進行を止めるための一つの手法としてSDGsへの取り組みがある。しかしながら社会や会社レベルの課題であって、個人レベルの取り組みでは成し得ない印象も受ける。そこで今回、琵琶湖版SDGsというユニークな取り組みであるMLGsについて、講演を通じて説明してもらえることになった。ぜひとも今回、その存在や取り組みを知って頂くことで活動への貢献の一助としてほしい」と期待の言葉を述べた。
講演に移り、檀上に上がった講師の佐藤氏はまず、MLGsについて解説。定めた13のゴールについては公式ホームページ(https://mlgs.shiga.jp/)に詳しく掲載されているが、グローバルな状況改善として目標達成が目指されているSDGsに掲げられている課題が、ローカルな日本の滋賀県に位置する琵琶湖でも問題化している。気象変動が著しく生物の生態系に影響を与え始めており、マイクロプラスチックごみ問題も深刻化している。グローバルな目標であるSDGsに対して、MLGsは琵琶湖におけるローカルな目標でありながら内容は共通しており、30年の目標達成を掲げて10年以上の年月をかけて改善に向けた取り組みが実施されてきた。
琵琶湖の湖底には大量のごみが堆積しており、プラスチックごみと泥がミルフィーユのように層を形成。大半がポリエチレン(ポリ袋)、ポリプロピレン(食品容器)で、これらに発泡スチロールなどが混在している。プラスチックは本来、水よりも軽量だが、水中で変質することで湖底に沈降。細かく砕かれて分解されていき、マイクロプラスチックとなって水中を漂っている。これらのごみは、琵琶湖に流れ込む水流の周辺地域からもたらされたものであり、周辺地域の生活環境の変化が、琵琶湖の水質改善のカギを握ることになる。湖底のプラスチックごみの回収は行われているが、課題解決に向けては陸地の地域社会における環境に対する意識の変化が不可欠。回収されたプラスチックは意図的に放棄されたものよりむしろ、人工芝やプラスチック製植木鉢など偶発的に自然界に運ばれてきたものも多く、投棄の回避だけでなく、製品自体へのバイオマス化などへの代替が有効であると考えられている。
地球の気候変動も琵琶湖の湖中の生態系に大きく影響。地球温暖化によって水温は約1・4度上昇しており、ゲリラ豪雨が頻発に起こる一方、降雨量が極端に少ない時期も長期化している。〝琵琶湖の呼吸〟という言葉で表現される琵琶湖内の湖水の〝全層循環〟は、湖に生息する生物の生命線であり、最近ではこの状態に異常が発生。春から秋は湖内の上層と下層の水の循環が行われず、上層の水中にのみ潤沢に酸素が供給される。そして冬に入ると、上層の水温低下によって下層の湖水と入れ替わり、湖底に酸素が行き渡ることによって湖底で生息する甲殻類などが生息できる環境が維持される。しかしながら最近では、暖冬によって湖底の酸素が不足しており生息環境が悪化。やがて生物は死滅し、さらには湖底の環境変化によって、湖底からリンなどといった異物が沸き上がるなど、琵琶湖全体の環境悪化が進んでいる。漁業は上層で行われることから、異常に気付いたときには手遅れとなっている事態も予測され、少しでも早い時点で環境保全に向けた意識を持つことが重要。気候変動によって琵琶湖に引き起こされる問題は、琵琶湖と滋賀県だけの問題ではなく、世界と海洋のモデルケースとして注視する必要がある。「SDGsとMLGsは環境対応の見るべき視点、社会の健全な在り方という点で共通しており、グローバルとローカルという違いはあるものの、社会の意識を変えていく目的の先には同じものがある。MLGsがつくられた理由は社会生活と生態系の共存を促すことにあり、MLGsはそれらを照らし続ける太陽のような存在でありたいと思う」と述べ、話を締めくくった。
講演会の終了後には懇親会が開催され、乾杯のあいさつに立った太田稔副理事長(福井化成社長)は「講演の内容を聞いていると、脱塩ビの時代のことを思い出した。当時の対象は塩ビのみだったが、今の時代はプラスチック全体に及んでいる。大変な変革になると思うが、それでも力を尽くして取り組んでいかなければならないと思う」と述べ、乾杯のグラスを高く掲げた。
宴たけなわで、中締めを行った賛助会員であるユーシー産業の永𠮷昭二社長は「プラスチックを手掛けるメーカーとしてはいろいろと考えさせられる講演内容であり、SDGsについては真しに取り組んでいく。賛助会員として、こうして檀上に上がってあいさつをさせて頂けることに非常に感謝しており、これも組合の組織としての柔軟さが示される判断であると考えている。かつての理事長に賛助会員として加盟するお誘いを受けて以来、いろいろな経験を積ませてもらえ、感謝の気持ちは絶えない。組合の運営は企業経営のモデルケースであると考えており、この組合の繁栄がある限り、傘下企業の皆さんの繁栄も続くものと信じている」と述べ、盛大な一丁締めで掉(ちょう)尾を飾った。