2023年1月10日

新年トップインタビュー
TOYO TIRE

セルビア工場に期待
グローバル供給体制強化へ

【2022年を振り返って】
コロナ禍はいまだ収束に至ることなく、社会に立ち込めている暗雲は依然としてぬぐい切れていない状況にある。世界的な政情不安とともに、物価高やインフレといった問題が深刻化したことによって、不確実性をはらんだ現実というものが実感となって一段と身に染みた一年であった。当社においてもロシア地域での営業停止、原材料高や海上運賃の高騰、米国における雇用情勢や景況の変化などといった想定を上回る事態に見舞われ、事業環境が安定しない困難な状況と向き合いながら、経営を推し進めていかなければならないという試練に満ちた一年であったかと思う。当社では現在、中期経営計画「中計’」における、〝変化に対して迅速かつ柔軟に適応する力を強化していく〟という方針の下で事業を進めているが、今となっては〝変化の常態化〟は定着しているといっても過言ではない。経営の舵輪からは片時も手を離すことなく、経営のかじ取りを行いながら、時代の変化の荒波の中を進んでいる。かねてより常にそういった意識を抱いて多様な難題と対峙し、さまざまな成果を得てきたが、その一方で課題と呼べるものも残してきた。当社としては、そうした課題をリカバリーしてきた経験を糧として、次の成長につなげていく姿勢が大切であると考えている。第3四半期の業績においては、重点商品の販売強化に取り組み、主力市場である北米や日本市場において価格改定を実施した施策に加え、為替の円安によるメリットが得られたこともあって売上高は過去最高を更新した。利益面については、原材料価格や海上運賃の高騰といった大きな収益圧迫要因の影響にさらされ、米国工場においては従業員の安定的な確保が難しいといった状況など厳しい局面に置かれたが、現状では製造基盤の再強化を大命題とした取り組みを積極的に行っている。

【TOYO TIREセルビア工場が稼働を開始しましたが】
昨年7月に稼働を開始したセルビア工場は、当社にとっては8年ぶりに新設したタイヤ工場で、欧州初のタイヤ生産拠点となる。昨年12月に、現地で開所式を行ったが、セルビアのアレクサンダル・ヴチッチ大統領や、アナ・ブルナビッチ首相が来賓として祝いに来られるなど、国家を挙げての歓迎を受けた。米国市場に向けての供給を優先しているが、欧州における地産地消を促進するとともに、国内外の各工場と連携させることで、グローバル供給体制を構築していく。最新設備の導入も順調に進んでおり、本年度下期に500万本のフル生産体制の構築を目指す。このうち250万本を北米市場に振り向けるが、欧州市場における地産地消メリットの最大化を図る取り組みにも力を注ぐ。

【欧州市場における具体的な事業戦略は】
欧州市場に向けた戦略については、これから詰めていくべき内容もあるが、先立ってドイツにR&Dセンターを開設しており、最先端材料の探索や調査、車両や市場の最新情報の収集、各設計過程における高性能技術開発の研さんなども行っている。セルビア工場には、工場棟に隣接してテストコースも敷設しており、実車装着テストができることから、欧州市場で細かく定められている法規制認証に対応した評価をスピーディーに実施できる。欧州におけるスピーディーな対応を果たすことが可能となったことで、事業オペレーションの高度化、ガバナンスの強化を図る目的から現地の販売会社、セルビア工場、欧州R&Dセンターを傘下に置く欧州統括会社を設立した。需給管理の機能を強化し、開発・生産・販売が三位一体となって欧州事業を推進していく。

【デジタルトランスフォーメーション(DX)化への取り組みは】
製造現場のDX化については、セルビア工場の稼働を機に、システムの推進に本腰を入れる。昨年9月には、国内各事業所で利用する「統合基幹業務システム(ERP)」の刷新に向けたステアリングコミッティを設けた。中計’21に掲げた〝持続的な成長を支える経営基盤構築に向けてデジタル・IT インフラを再構築する〟という方針に沿ったものながら、単にシステムの入れ替えにとどまらず、各部門の業務に合わせる〝全社最適〟志向に変革する真の目的が根本にあり、確実に軌道に乗せていきたい。国内ビジネスにおいてもDXを足掛かりとした変革に取り組んでおり、販売・物流体制の再構築に向けた、国内販売拠点の統廃合などによる再整備を迅速に進めていく。

【自動車産業のEV化の流れについて】
EV普及のスピードは間違いなく加速しており、当社の技術部門において、日本・欧州・北米の3極R&D体制によって製品の開発を進めている。EVは、バッテリー搭載による重量増という新たな条件を抱えており、かねてより重量の大きな大型タイヤにとっては、ベースとなる部分から新たに開発していく必要がある。重量に加えてトルクが大きいことから耐摩耗性の向上が求められ、動力源が静かであることから静粛性が一段と高く要求されるなど、この分野への取り組みには新たな技術開発が不可避となる。ドイツの欧州R&Dセンターが中心となって、EV化に対応したタイヤ性能を引き出す研究開発を行っているが、既に転がり抵抗を抑え、軽量化を図った最先端のコンパウンドを開発している。静粛性については、空気力学によって風切り音を抑えたパターンを備えたプロトタイプの製作を行う段階にまで達している。新たに開発した材料や技術を使用した高性能タイヤは、セルビア工場において生産が可能であり、現地において法規路における実車テストを重ねることで、商品化に向けてのスピードアップを図る。

【今後の展望と見通しについて】
サステナビリティについては、サステナビリティ経営方針に基づき、7つのマテリアリティを中心としてサステナビリティテーマを事業活動に網羅的に落とし込み、中長期的な視点で推進していく。バイオマス由来の原料やリサイクル素材などといったサステナブル材料を採用したタイヤを開発しているが、本格オフロードレース用にチューニングした「OPEN COUNTRY M/T―R」をレーシングチームに供給する。モータースポーツのような過酷な使用条件で得られる実測データを活用し、これらサステナブル材料を市販用タイヤにも取り入れる取り組みを進めている。

本年は、2025年をターゲットとして定めた中期経営計画の折り返し点にあたり、着地年度である2025年度は当社にとって創立80周年という節目でもあり、計画による目標通りの成果を得た上で盛大に祝いたいと考えている。中計’21の実行期間中は、事業や経営において大きな環境の変化にさらされているが、ロードマップにおいてはおおむね目標に向かって順調に歩みを進めており、本年は中計’21で掲げた成長戦略への実行力を自ら問うターニングポイントと位置付け、〝転機を掴み、成長へつなげる年〟として、さらに高みを目指して突き進む。