2023年3月15日

帝人
業界最薄クラスのガス拡散層

燃料電池の小型化や高性能化貢献

【新開発のGDLの断面構造】

帝人(内川哲茂社長)は、同社が開発した極細の繊維状炭素「PotenCia(ポテンシア)」を、独自の紙すき技術を用いてパラ系アラミド繊維「トワロン」と組み合わせることで、業界最薄クラスとなる厚さ50㍃㍍のガス拡散層(GDL)を開発した。これにより、市場拡大する燃料電池の小型化・高性能化への貢献を目指す。GDLは、燃料電池の内部に使用する部材で、水素や酸素を供給、電極の化学反応で生じた電子の集電、および生成水の排水などを担う。

同社では、長年培ってきた繊維加工技術を用いて、繊維長が長く高い結晶性を備えた極細の繊維状炭素であるポテンシアを開発、その特徴である導電性や熱伝導性などを生かすことのできる用途を探索してきた。そうした状況にあって、燃料電池の小型化や高性能化、低価格化のニーズの高まりに伴い期待される、燃料電池の使用部材であるGDLの薄型化やコストダウンに着目。従来のGDLには、導電性や耐久性を備えた炭素繊維シートが使用されているが、炭素繊維シートを用いることで生じる燃料電池内部の触媒層への傷つきや不均衡なガス拡散、電極の化学反応に伴う生成水の貯留といった問題が発生。それを防ぐ目的から、はっ水剤などを用いた微多孔構造のマイクロポーラス層(MPL)をGDLに付与することが一般的となっていた。

しかしながら、MPLを付与したGDLは、全体の厚みが増すことから、燃料電池の電力性能にかかわるガス拡散能力が低下するという課題が浮上。炭素繊維シートの製造に加えてMPLを付与する工程があることから、コストを下げることが困難となっていた。

同社では、こうしたGDLが抱える課題の解決にポテンシアとトワロンが活用できると考え、新たなGDLの開発を推進。今回開発したGDLは、同社が特許を持つ紙すき技術を用いて、ポテンシアとトワロンを少ない製造工程で組み合わせた微多孔構造のGDLとなっている。このGDLは、ポテンシアを使用していることで導電性に優れ、ポテンシア特有の柔軟性により燃料電池内部の触媒層を傷付けない。トワロンを使用したことにより、GDLの耐久性を維持しながら、はっ水加工が落ちづらい特徴が備わることで、はっ水性でも優位性を発揮する。これによってMPLを付与することが不要となり、厚さ50㍃㍍のGDLを実現。これは、一般的なGDLの約半分以下の薄さで、業界最薄クラスとなる。製造工程の短縮化と、大幅な薄型化に伴う使用原材料の削減により、製造コストや環境負荷の低減に貢献する。

同社では今後、今回開発したGDLのガス拡散性や導電性など、燃料電池の性能向上に欠かせない項目の検証を進め、製造工程の短縮や使用する原材料の削減に伴う環境負荷低減への貢献度についても検証を進めていく。今回開発した新たなGDLの提供に留まることなく、燃料電池の小型化や高機能化を目指す企業とともに、GDLを用いた新たな電極膜などの共同開発を目指していく。同社では、今回の開発を契機として、燃料電池関連製品の開発をさらに強化、革新的な高性能材料とソリューションを提供することなどによって、長期ビジョンとして掲げる〝未来の社会を支える会社〟を目指していく。

帝人グループでは、3月15日から17日まで東京都江東区の東京ビッグサイトで開催されている「第19回FC EXPO国際 水素・燃料電池展」に、今回開発したGDLを展示している。