ミシュラン
先進のシミュレーション技術
企業の買収で取得
サーキット、公道でも有効
ミシュラン(フロラン・メネゴーCEO)はシミュレーションソフト開発会社である「キャノピー シミュレーション(Canopy Simulations、創設者・マーク・キャセロール氏)」を買収した。キャノピー シミュレーションは、ラップタイムシミュレーションのグローバルリーダーで、市場で最も洗練されたシミュレーションソフトウェアを提供する英国の企業。クラウドベースのキャノピー シミュレーションのシステムは、サーキット、車両、タイヤモデルと高度な軌道最適化機能を組み合わせることによって、精巧なバーチャルドライバーの入力データをシミュレーションできる。サーキットと公道における両方の開発において、詳細で多様なドライバーモデルを考慮し、進化できるよう設計されている。
バーチャルドライバーは、タイヤの安定性などその性能を評価する目的から「ル・マン24時間世界耐久レース」で4時間のスティントをシミュレートするなど、基本的なタスクを実行することが可能。公道走行用タイヤの場合は、自動車メーカーがさまざまなドライバーのプロファイルを再現し、車やタイヤの使い方を変えることができる。ただし最終的な決定権は人間にあり、ドライバーはタイヤの最終仕様や車両との適合性を確認し、承認することになる。
レーシングカーや一般のスポーツカーに装着されるタイヤの開発において、シミュレーション技術は理想的なツールの一つであり、本年6月にフランスで開催される「ル・マン24時間世界耐久レース」では、最高峰のカテゴリーであるハイパーカークラスに出場するすべてのプロトタイプに、このシミュレーション技術で開発されたタイヤが装着される予定。
この技術は、新車に純正装着される高性能タイヤの開発において欠かせない役割を担当。数理モデルとシミュレーターを効果的に組み合わせることによって、新車の技術特性や重量配分などから、どのタイヤサイズでどのようなタイヤ性能技術が最適であるかを判断することができる。
データ処理技術と高度な数学的アルゴリズムに基づくこのシミュレーターは、データドリブンカンパニーであるミシュランの地位をより確固にする。効率的なレースとモビリティを促進するイノベーションを加速することによって、ミシュランはパートナーや自動車メーカーとの協業を最適化すると同時に研究開発の環境フットプリントを削減、これまでの長期にわたる開発サイクルと比較して、実質的な効率化の実現を可能にする。
サーキットの特徴量とグリップ特性、車両のシャーシ特性、詳細なタイヤ挙動の再現といった3つのデジタルモデルの相互作用により、この技術は動的再現性を保有。これによりシミュレーターのハンドルを握ったドライバーは、さまざまなタイプのタイヤを、非常に幅広い要件設定の中でテストすることが可能となり、ドライバーの主観的な感覚やフィードバック、シミュレーターが提供する客観的なデータを合わせることで、実車や実際のサーキットで現実と同じような走りをすることができるようになる。
進化し続けるデジタリゼーションに対応する目的から、ドライバーの役割も大きく変わり、若年層ドライバーはシミュレーションスキルを身につけると同時に、実際のレース技術も研鑽。リアルとバーチャルの架け橋となることが求めらるれようになっている。
30年前、レースで収集されたデータを処理し、予測を行うためにモータースポーツに導入されたソフトウェアは、今世紀に入ってから変化。2005年、ミシュランのFormula1(F1)参戦を機にバーチャルタイヤはより一段とダイナミックな方向に転換した。ミシュランの研究者たちは、タイヤを構造ごとに独立した数学的モデルに分解、ミシュランが開発した熱力学ソフトウェア「Tame Tire(テイムタイヤ)」によって、タイヤが変形する様子や、原材料やタイヤの内圧が温度によってどのように変化するかを再現し、異なる要素の相互作用の予測を可能にした。Tame Tireはその後も進化を続け、レースで収集されたスマートデータによって常に改良。現在、ミシュランは独自の数学的データ処理の専門性により、タイヤのモデリングとシミュレーションにおいて先進的な存在となっている。