2023年9月10日

【トップインタビュー2023】
バンドー化学 植野 富夫社長

「働きがい改革」実現へ
自分の「進化」実感できる会社に

バンドー化学 植野 富夫社長

バンドー化学 植野 富夫社長

【改めて今後の意気込みを】
昨年4月の社長就任から一年余りが経ったが、昨年は前中計の最終年度の締めくくりとともに新たな中長計の策定に注力してきた。2023~2030年度を最終年度とする新中長期経営計画(Creating New Value for the Future)がスタートしたので、その第一歩を踏み出したと気を引き締め直している。時代が大きく動いている中、その変化のスピードは大変速く、目まぐるしく変化する正解のないとも言われる時代にいかに向き合っていくのか今後を占う非常に大事な一年となるだろう。新中長期経営計画とともに長期ビジョン(ビジョン2050)を策定した。「つなぐ」「支える」というキーワードを軸に2050年に世の中がどのように変わっていても、社会になくてはならない企業として成長を遂げていくことを見据えている。

現在と未来をつなぐ役割を担っていくため、新中長期経営計画では2050年からバックキャストして2030年までを一つの区切りとしており、「価値創造」「スマートものづくり創造」「未来に向けた組織能力の進化」の3つの指針を掲げている。計画の遂行にあたっては当社グループの従業員が歩むべき方向性を共有して取り組むことが重要であり、今年6月以降、グループ会社を含めた国内17カ所の拠点を訪れ、従業員と対話を重ねてきた。自身の言葉で説明し、直接語り合うことで従業員の理解も深まった。直接、対話することの大切さをこの2カ月で痛感した。こうしたコミュニケーションを通して、従業員のポテンシャルが十分に発揮しきれていないと感じ、従業員のエンゲージメントを高めていくことの重要性を再認識した。一人一人の意欲と士気を盛り立てていくことで、その力をいかんなく発揮してくれると自信を持つことができた。これからもできる限り現場に立ち、自ら世の中の変化を感じ取りながら、全社が一丸となってまい進していきたい。

【足元の業況について】
第1四半期の業績については拡販が進んだことと、円安の影響によって増収を遂げたが、利益面においては原材料価格が高止まりしており、エネルギーコストなども上昇が続いていることで前年実績を下回った。セグメント別に見ると、地域、事業によって濃淡がある印象で、中国は昨年のロックダウンによって大きな影響を被った時期からすれば回復が進んでいるものの、停滞感は残っている。一方、自動車産業においては、生産の回復が進んだことで事業展開への追い風となっている。今後も決して楽観視はできないものの、明るい兆しがうかがえる。通期の業績予想については、期初に発表した予想値を据え置いており、しっかりと取り組んでいきたい。

【今後の海外事業戦略について】
自動車関係はアフターマーケットにおける交換需要の着実な取り込みに注力する。産業資材は、今後の需要拡大が見込める大型農機の補修市場における拡販を目指す。中国と欧州は景気の回復が遅れているが、アジアについては自動車と二輪車が回復基調にあり、当面は既存ビジネスのさらなる拡大を図る。

【原材料価格や物流コスト上昇などへの対応は】
一時よりは落ち着きを見せているが、地政学リスクなどに起因して一部地域ではまだ物流面への影響も残っている。原材料やユーティリティコストの高騰など収益を圧迫するマイナス要因による影響も濃淡はあるが、払しょくされていない。当社としては従来から取り組んでいる生産工程における不良やロスの削減をはじめ、一層の生産性向上に向けた改善活動をさらにスピード感を持って推し進め、厳しい事業環境への対応に努めたい。

【新事業の現状は】
新事業として医療機器・ヘルスケア機器、電子資材分野に軸足を置いた活動に取り組んでいる。電子資材としては精密研磨材や高熱伝導シートといった新たな製品の採用が進んでおり、精密研磨材は自動車や産業機械などのディスプレイの増加などから引き合いが増加している。また医療機器・ヘルスケア機器分野においては、グループ会社のAimedic MMTと連携して取り組みを加速させている。当社で医療機器の品質マネジメントシステムである「ISO13485」の認証を取得したほか当社の伸縮性ひずみセンサ「C―STRETCH」を用いた整形外科向け医療機器「AT(エーティー)メジャー」や呼吸器向け医療機器「ResMo(レスモ)」をAimedic MMTから、当社からは嚥下時の咽頭の動きを可視化するヘルスケア機器「B4S」を上市した。今年4月には、当社の保有技術も活用した、吸収性骨再生用材料「e=Bone(イーボーン)」をAimedic MMTから上市した。

医療機器・ヘルスケア機器分野でも、コロナ禍の影響が販売の妨げになっていたが、さまざまな規制も緩和されたことで拡大に向けた営業活動にさらに力を入れている。

また、自動車事業においても、将来的なEV化の進展に伴う内燃機関用ベルトの減少を見据えて、EPS、パワースライドドアなどエンジン以外の駆動部分で使われるベルト製品の開発も進めている。

【今後の展望を】
今中長期経営計画の指針の一つとして掲げている「未来に向けた組織能力の進化」では、重点方策の一つとしてエンゲージメントの向上を掲げており、従来から進めてきた「働き方改革」をさらに深く掘り下げた「働きがい改革」を実現していきたいと考えている。これまで重ねてきた従業員との対話の中でも、仕事が何かの役に立っているという実感や、自身の成長を自覚できたときに喜びを感じるという人が多かった。今後も業務の意義や、どういったことに貢献しているのかを感じ取りながら仕事に励むことができる環境を整え、日々、成長の機会が与えられて自分の「進化」を実感できるような会社にしていきたい。