2023年12月30日

日本ゼオン
微生物用いた世界初のCNT製造法開発

大学などと共同で
CNT環境リスク軽減活路

日本ゼオン(豊嶋哲也社長)は、名古屋大学(所在地・名古屋市千種区、杉山直総長)大学院工学研究科の堀克敏教授の研究グループならびに名古屋大学発のベンチャー企業であるフレンドマイクローブ社(所在地・名古屋市千種区、蟹江純一社長)との共同研究により、カーボンナノチューブ(以下、CNT)を、微生物によって効率的に分解する世界で初の新手法を開発した。これまで炭素から構成される無機物のCNTは、環境中で生分解されることがないと考えられてきたが、今回の結果はその考えを覆すものとなる。加えてCNTの環境リスク軽減に向けての活路が見いだされたことによって、産業利用がさらに加速する成果が期待されている。

日本ゼオンでは長尺、大比表面積、高純度という特長を併せ持つ単層カーボンナノチューブ(以下、SWCNT、製品名「ZEONANO」)を開発、2016年から山口県周南市で開設している徳山工場において、商業生産を行っている。

日本ゼオン、名古屋大学、フレンドマイクローブ社ではCNT、特にSWCNTの生物学的分解に焦点を当て、19年より共同で研究開発を推進。これまで、フェントン反応(過酸化水素と鉄イオンを反応させることにより、強力な酸化剤であるヒドロキシルラジカルを生成する化学反応。フェントン反応は、有機物の酸化分解や有害物質の無害化に使用され、環境工学や廃水処理などで重要な役割を果たす)を用いたCNT分解の報告は行われてきたが、今回はその知見を生かし、Shewanella属(シュエネラ属、主に水中環境に存在する細菌の一群。酸素不足の環境で金属イオンを電子受容体として利用することができる特長を持ち、環境汚染のバイオレメディエーションやバイオエネルギーの生成などに応用できる可能性を持つ)の細菌を利用したSWCNTの効率的な生物学的分解法を開発した。Shewanella属の細菌は、無酸素条件下で鉄から鉄に還元し、有酸素条件下で酸素を過酸化水素に還元。フェントン反応を効率的に誘導する能力を備えている。今回はこれをCNTの分解に応用し、90日間で56・3%を分解することが確認された。この結果は、Shewanella属によるフェントン反応が、幅広い条件下でのCNT分解に応用可能であることを示唆、CNTの新しい処理方法として期待されている。

今回の共同研究における3者の役割としては、日本ゼオンがSWCNTの材料提供、材料における知見提供および化学分解ノウハウ、分解評価法ノウハウの共有を推進。名古屋大学では、微生物を使った新しい産業技術の開発と社会実装、フレンドマイクローブ社がカーボンナノチューブ管理策の実証を行った。

CNTの分解は、製造から廃棄までの全ライフサイクルにわたる管理策に直結することから、日本ゼオンでは、関係各署に対して分解の科学的根拠に基づいたCNT管理策の提案を行っており、CNTが管理可能な材料であるという知見は、大きな関心を集めていた。日本ゼオンはこれからも持続可能な地球と安心で快適な人々のくらしの実現に貢献する目的から、SWCNTの事業活動を推進していく。

今回の研究成果は、本年11月30日付けの国際学術雑誌「Frontiers in Microbiology」にオンライン掲載された。